遅れて来たもう1匹の魔獣
「······クククク、フハハハハハハアアーっ!!我、魔人なり。この世の全ての人間よ、我に跪くがいい!そうでない者は皆殺しだあああああーっ!!!」
全長20メートル以上、その2本の角は天界まで届かんばかりに長々とそびえ立っている。凶悪な姿の魔人となったゲルグはすぐさま2匹のキングオーク達に向かって、雄叫びをあげながら反撃を開始する。
「グギャオオオオオオオオオオオーっ!!」
キャサリンとサブリナは魔人ゲルグの強烈な一撃で、ヨシダール達の所まで吹っ飛ばされてしまった。
「キャサリン!サブリナ!2人とも大丈夫かっ!?」
「ブ、ブヒっ!(何とか平気っす!)」
「そ、そうか、良かった!すぐに治してやるぞっ!」
2匹のキングオークに仙人汁を飲ませるヨシダール。そして彼らは喜んで仙人汁を飲み干し、すぐに元気になった。
「ご、ご老人、あの魔人、ヨシダ殿がなった魔人よりも強くない気がするのだが?」
「んだ!オラが魔人になった時はドラゴンでも相手にならなかっただよ!」
ネルソンとヨシダがヨシダールに訴えた。トムとリンダも同じ意見のようだ。
「やはり、所詮は偽りの黒魔術じゃからのう。ハナ子とやらも何となく違和感があるんじゃろう。······しかしキャサリンとサブリナだけでは、ちとキツイかもしれん。」
「ブヒブヒ!」
「ん?······そうじゃな。まだあいつがおったな。では3匹に任せるとしよう。」
2匹とヨシダールが何やら話している。
しかし、そうこうしている内に、魔人ゲルグが周りの家々を破壊しながら、こちらにグングン近づいて来ていた。
「グハハハハアアーっ!!貴様ら全員皆殺しだああああーっ!」
魔人ゲルグが右腕を高々と振り上げ、2匹のキングオーク目掛けて強烈な一撃を繰り出す。
しかし、ゲルグの一撃は2匹の魔獣達が体全体を使って何とか食い止めていた。2匹の体からは鮮血が噴出している。
「ククククっ!少しはやるではないかブタ達よ!だが捨て身の防御だけではどうする事も出来まい!次はフルパワーでいくぞおおおーっ!!」
―――その時だった。
突然、魔人ゲルグの背後に巨大な影が現れ、魔人ゲルグに向かって走り出すと、勢いそのままに飛び蹴りを食らわしたのだった。
「ぐああああああああーっ!だ、誰だあああーっ!?このゲルグ様に飛び蹴りをくれやがったのはーっ!?」
ゲルグが振り返って飛び蹴りの主を見ると、全身が獣毛で覆われた犬の巨大魔獣が仁王立ちしていた。その頭は魔犬ケルベロスのように3つもあり、体は人型で巨大な尻尾も付いている。
「ヨシダ、ゴシュジンサマ、マモル!」
何とヨシダの愛犬コマリが魔獣キングコボルトとなって、魔人ゲルグに飛び蹴りを食らわしたのだった。
「コ、コマリなのかーっ!!す、すんげえぞおおーっ!お前も変身出来るのかっ!!」
「グギャワオオオオオオオーン!」
3つの頭が同時に魔犬の遠吠えのような返事をした。そして巨大な尻尾は左右に振れるたびに暴風となって、近くの木々を破壊してしまっていたのだった。
「バ、バカなあああああーっ!?まだ魔獣がいたと言うのかあああ!!おのれクソジジイめ、魔獣を量産しているなあああ!しかし国内の家畜はもう殆どが王国が支配しているのだ!どうあがいても我々は止められんぞおおおーっ!!」
「量産などしとらんわ、バカ息子めっ!本物の絆はどんなに優れた魔法や文明にも負けはせぬのだ!」
ヨシダールがそう言い放つと、怒りに狂ったゲルグが反撃に出ようとするが、3匹の魔獣がそれをさせないように身構える。
すると両者の間の空気が歪み、何も無い空間に突如「巨大な扉」が現れた。
その扉がゆっくりと開くと、中からは漆黒のローブをまとった1人の魔術師が出て来たのだった。
「ゲルグよ!ここは一旦退くぞ!実験の第1段階は成功だ!もっと強い呪いで魔人も強化出来るはずだ!」
「カーティスか!······まあいい。ここは退いてやろう!次に会う時は完全な魔人となっていよう。フハハハハハハハハーっ!!」
魔術師カーティスと魔人ゲルグは、巨大な扉の中に入りその姿を消してしまったのだった。