王国クーデターと抗う者たち
――――王国内でクーデター起きる。
その驚愕的なニュースが盗賊団のアジトに伝わったのは、ヨシダがアジトに来た日の翌日の午前であった。
「おっさん!王国が大変な事になったぞ!他国への侵略を主張していた宰相のシュナイゼルが、反乱を起こしたみたいだ!何でも魔獣の大軍団を作っているらしいぞっ!!」
「そ、それは本当か、トムさんっ!?牛達をみんな魔獣にしちまったのかっ!?」
「……そういう事になるわね。ついに魔獣を使って戦争を始める気ね。平和主義の王族、貴族達は全員捕らえられてるみたいだし。」
ヨシダは目の前のテーブルに拳を叩きつけて、涙を流しながら牛達の悲劇を悔やんだ。
「トムさん、リンダさん、オラ、戦争なんて絶対ダメだと思うし、牛達を何とか助けてやりてえだっ!」
「おっさん、気持ちは分かるけどよ、相手は数万を超える兵力と魔獣が付いているんだぜ。俺たち盗賊団を全員集めても2千人ちょいだ。どうにか出来る話じゃねえよ。」
「……悔しいけどそれが現実ね。せめておじさんがもう一度あの魔神になれれば……。」
「あれはハナ子がいねえと無理なんだ……。」
――――すると突然、トムとリンダにアジト襲撃の報告が告げられる。
「リンダの姉さんっ!敵襲ですっ!!キングミノタウロスの大群に襲撃されています!この間の数倍はいるようですっ!!」
「何ィっ!?どうしてこの場所が……!?」
「リンダどうする!?もう毒矢とスクロールは残り少ないぞ!?」
「……くっ!!」
そうしている間にも、配下の者から被害の報告が後を絶たない。
「くそっ!いったいどうすりゃいいんだっ!?」
――――トムがそう漏らした直後だった。
何故か、今まで物凄い勢いで盗賊団に攻撃していた猛獣達の動きが鈍くなり、盗賊団とは違う方向に向かっていく猛獣が後を絶たなかった。
不思議に思ったヨシダと盗賊らが猛獣達の後を追ってみると、猛獣達が1人の男にどんどんなぎ倒されていくのが分かった。
「ヨシダ殿おおおおーっ!ヨシダ殿は無事かーっ!!」
「……そ、その声は!ネルソンさんっ!!オラはここだっ!ネルソンさんもオラを助けに来てくれたのか!!」
「おおっ!ヨシダ殿無事であったかっ!本当に良かった!!トムとリンダも無事のようだな!」
ヨシダがネルソンの方を見ると、後方に1人の杖をついた老人と2匹のブタ、そして1番後にはヨシダの愛犬コマリの姿もあった。
「……コ、コマリーっ!!無事だったのか!良かった、良かっただー!」
久しぶりの再会にヨシダはコマリを強く抱きしめた。コマリもちぎれそうなくらい尻尾を強く振ってヨシダの顔をペロペロと舐めている。
「ネルソンさん、おかげで助かっただよ!」
「剣士ネルソン、あのダンジョン以来だな。あんたも戦ってくれると思ってたぜ。なあ、リンダ?」
「……ったく!来るのが遅いのよ!おじさんを助けるのに凄い苦労したんだからね!」
「ヨシダ殿、トム、リンダ、すまないが詳しい話は後だ。……さあ、出て来るがいいゲルグよっ!!」
「ゲルグ!?」
ネルソンの言葉に反応した1人の男が、猛獣達の後方からその姿を現した。
「またしてもお前か、ネルソン・オリバーよ。まさか生きておったとはな。クククク……!」
「ゲルグ!もうお前の悪行も今日までだ!お前を倒し、クーデターも止める!!」
「クククク……。もうクーデターは終わっているではないか。後はお前とヨシダを抹殺すればシュナイゼル様の危険分子は無くなる。」
「やはり、宰相と繋がっていたか。そしてもう1人の協力者はカーティスだな!?」
「ほう、ようやく気が付いたか。奴の黒魔術で国内の牛はどんどん魔獣になっておるぞ。グハハハハハーっ!!」
ゲルグの言葉を聞いたヨシダは拳を強く握り締め、怒りに身を震わせながら叫んだ。
「お前らに……、お前らに牛を飼う資格はねえだあああああーっっ!!」
ヨシダはゲルグに向かって勢い良く突進していったが、キングミノタウロスの群れが次々と前に出てゲルグの身を守った。
魔獣たちに弾き飛ばされたヨシダであったが、すぐに1人の老人が前に出てヨシダを守るように杖を構えて、魔獣たちとゲルグを睨んだ。
「……き、貴様ああああっ!なぜこんな所におるのだあああー!何をしにやって来たあああああっ!?」
「久しぶりじゃな、バカ息子よ。」
「このクソジジイがっ!また私の邪魔をするのかあああーっ!!」
「この力、どうにか隠しておきたかったが無理のようじゃな。王族を捕らえ戦争を起こすなど言語道断。……死んでもらうぞゲルグ。」
「バ、バカ者め~!その力を使えるのはもうお前だけではないのだあああっっ!!」
「キャサリン、サブリナ、やってしまいなさい!」
老人ヨシダールが命令すると、2匹のブタ達は急激にその姿を変え、巨大なキングオークになった。巨大過ぎて盗賊のアジトの天井を突き破る程だった。
邪魔な天井を瞬時に破壊し、目の前の標的であるゲルグをギョロリと睨むキャサリン。サブリナはミノタウロスの群れを、強烈な鼻息で遠くまで吹き飛ばしてしまっていた。




