仙人汁
――――ゲルグの父親。
ヨシダールと名乗る老人の言葉に、剣士ネルソンは驚いていた。
「ご老人、あなたはあのゲルグの父親だと言うのですか!?」
「さよう。あのバカ息子がとんでもない事をしでかした。本当にすまないのお。あいつは元々は気の弱い大人しい子供じゃったが、ある事が起きて人の道を踏み外してしまったんじゃ……。」
「ご老人、このままゲルグを放ってはおけない!奴は魔獣を操り王国を支配しようとしている!」
「……分かっておる。まさか奴らも家畜の魔獣化に成功するとはな。もうこちらもコソコソとやってはおられんの。真の力を使う時が来たようじゃ。」
「真の力?……ご老人、ひょっとしてあなたも家畜を魔獣化出来るのですかっ!?」
「さよう。私には力強い家畜が2匹おる。そいつらと一緒にゲルグを始末するしかあるまい。」
そう言うとヨシダールは何かの合図をするように、パンパンっと手を叩いた。
すると、ネルソンとヨシダールがいる部屋のドアが開いて、2匹のブタとヨシダの愛犬コマリがゆっくりと歩いて来たのだった。
「ブヒ?」
「ブー?」
「ああ、ちょっとお前さん達に頼みがあってのお、これからゲルグの暴走を止めに行くんじゃが、どうかお前さん達の力を貸してくれんかの?」
「ブヒブヒ!」
「ブー!」
「ワン!」
「……おお、そうかやってくれるか、ありがとうよ、キャサリン、サブリナ。それとコマリ。」
会話が成立している両者を見て、ネルソンが驚く。
「ご、ご老人、あなたは動物達と話せるのですか!?」
「まあな、動物との絆があれば誰でも話せるものじゃよ、フォーっフォっフォっフォっ!」
ヨシダールが仙人のような笑い声をあげると、2匹のブタとコマリも嬉しそうに尻尾を振った。
「さて、あとは剣士のお前さんじゃな。私が作った仙人汁を飲むがいい。すぐに怪我が治るぞ!」
そう言うと、ヨシダールは奥の部屋から怪しい瓶に入った「仙人汁」を持って来た。
「ちょ、ちょっと嫌な予感がするのだが、······ご老人、失礼ながらその仙人汁というのは、もの凄く不味いのでは!?」
「キャサリン!サブリナ!剣士殿を取り押さえるのじゃ!」
「ブヒっ!!」
ヨシダールの命令を聞くと、突然2匹のブタの体はどんどん大きくなり、やがて巨大な豚の魔獣「キングオーク」になってしまった。
その体躯は、キングミノタウロスに負けないぐらいの大きさと強靭さを誇り、両腕は「人間なんて2秒で絞め殺せるぜ!」と言わんばかりの力強さを秘めていた。そしてもちろんその瞳は獰猛さに満ち溢れんばかりだった。
「クスリ、ノマナイ、ユルセナイ!!」
2匹のキングオークが口を揃えて言い放つと、剣士ネルソンの両腕をガッチリとホールドし、ヨシダールの作った「仙人汁」を無理やりネルソンに飲ませるのであった。
「ボ、ボエエエエエエエーっ!!」
吐きそうになるネルソンの口をしっかりと塞ぎ、仙人汁の最後の一滴までしっかり飲ませる2匹のキングオーク。
「ハア、ハア······。ご、ご老人、······この仙人汁、こ、この世の物と思えないような······ふ、腐敗臭と味がするのだが、い、いったい何が入っているのだ!?」
「ああ、まず、ベースはそこら辺に生えていた雑草じゃ。」
「······や、やっぱりそれは外せないのか。」
「それとこの間、冒険者ギルドに寄ったら、いい物が手に入ったんじゃよ。」
「······いい物?」
「竜の首。それをすり潰して入れたんじゃ。」
「オエエエエエエーっ!!」
仙人汁を吐いてしまったネルソンだったが、もうすでに怪我は完全に治っていたのであった。
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