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落ちこぼれ酪農家は転生しても酪農家だった!



 オラは吉田 三郎、36歳。



 両親から受け継いだ小さな牧場を営む酪農家だ。

 オラは小さな頃から牛やブタなどの動物が大好きで、酪農の仕事はまさにオラの天職だと思っていた。


 しかし、時代の大きな変化は、小規模の酪農家の収入を圧迫していった。

 オラの牧場も例外ではなく、生活の為に借りたお金がどんどん大きくなっていってしまったのだ。



 ――――ドンドンドンっ!!



玄関を叩く荒々しい音が聞こえてきた。



「おいっ!吉田!今日こそ1200万、きっちり返してもらうぞっ!!」



 いつも何とかかわしていた借金取りの強面の男たちが、いつにも増して大勢で押しよせて来た。



「お、お父さん、怖いよーっ!!」


「大丈夫だ!お父さんが何とかすっからっ!」



 娘のハナ子は大粒の涙を流して全身を震わせながら、オラの体にしがみついて怯えている。


 そうこうしていると、借金取りの男達が緊急時のカギ業者を使って玄関のカギを開けて、家の中に乗り込んで来てしまった。


 するとそこに妻のよし子が飛び出して来た。


「ちょっと待って下さい!これは牧場とこの家の権利書です。おそらく1200万にはなるはずです。」


 よし子はオラには内緒で、牧場と家の権利書を借金取りの男に勝手に渡してしまったのだ。


「よ、よし子、おめー、何をやってるだっ!!牧場を売るなんてとんでもねー話だ!!」


「もう、この不景気に牧場なんて無理なのよ!どうしてあなたは分からないのっ!?もうあなたには愛想が尽きたわ!ハナ子、お母さんと一緒に来なさい!」


「ま、待ってくれよし子!オラ達の絆はそんなもんだったのかっ!? オラにはおめー達と牧場しかねーんだ!行かねーでおくれ!!」



 ――――翌朝。



 オラは目が覚めて、昨日の出来事は夢かと一瞬思ったけど、隣に寝ているはずのよし子とハナ子の姿がなかったから、すぐに夢なんかじゃないと思わされた。


 金は無くとも、愛があればやっていける。


 オラは長い間そう思っていたが、現実はそんなに甘いもんじゃなかったんだ。


 そして追い討ちをかけるように、昼過ぎには大手の酪農グループがやって来て、オラが丹精こめて世話をしてきた牛やブタ達をみんなまとめて連れていってしまったんだ。



 赤ちゃんの時から世話していた牛のトミ子やブタのサブリナも、みんな牧場から連れ去られてしまった。


「・・・うううっどうしてこんな事に・・・み、みんな、許してくれえええーっ!!」


 オラは一晩中泣いた後、庭で飼っていた犬のコマリを連れて、大雪の中をずっと歩き続けたんだ。


 何年か前に家族でハイキングに来た事のある森の中を、オラはコマリと一緒にどこまでもどこまでも歩いた。


「何もかも失ったオラだけど、まだお前がいたな。コマリ、オラと最後までいてくれてありがとなー。」


 愛犬のコマリは、オラの方をじっと見て尻尾を振っている。


 その日の北海道は数年ぶりの大雪になって、森の中は次第に吹雪になってしまった。


 オラはもうこの場所で死ぬつもりだったけど、どうかコマリだけはこの森の中でたくましく生き抜いていって欲しい、そうオラは心の中で強く思っていた。


「オラがもっとしっかりしていたら、コマリをこんな目に合わす事もなかったんだ!本当にすまねえ、コマリ。ううう・・・うわああああー。」


 また涙が洪水のように出てきたが、オラはだんだん立っているのも辛くなって、最後には大雪の中倒れてしまった。


 もしこのままオラが死んで生まれ変われるのなら、子供の時に夢中になったRPGゲームの勇者にでもなって多くの人の役に立ちたいもんだなぁ・・・。


 そんでもって、20歳前後に若返ってカッコイイ横文字の名前なんていいかもなー。レオンとか、ロックとかシリウスなんてのもいいかもなぁー。


 オラはそんな下らない事を妄想して、次第に意識が遠のいていった。



「お前の願い、確かに承った。ではその一部だけ叶えてやろう。」



「・・・え? 一部!?」



 遠くの方でそんな謎の声がうっすらと聞こえたが、オラの意識はその後完全に無くなっていた。






 ――――どれくらいオラは眠っていたんだろうか。



 オラは目を覚ますと、見かけない部屋のベッドに寝ていた。


「おや、お兄さん、目を覚ましなすったかい?体は大丈夫かね?」


 オラの目の前には外人のおばあさんがいた。おそらく倒れていたオラを助けてくれたのだろう。


「そこの犬があんたを森の方から、ずっと引っ張って歩いて来たんだよ。あんた、遭難でもしたのかい?」


 おばあさんは床に横になっているコマリを指さして言った。


「コ、コマリ・・・!?」


「大丈夫だよ、あんたを運んで来たから疲れて眠っているのさ。」



 オラはコマリが自分の命を助けてくれた事を知って、また涙が洪水の様にあふれて来た。死のうとしていた自分の愚かさにオラは気が付いた。


「コマリに助けてもらった命だ。これからは何があってもしっかり生きよう!!」


 オラはそう心に決めたのだった。



 その後、オラの体調もすっかり良くなって、オラはおばあさんに何度もお礼を言ってから、コマリと一緒におばあさんの家を出た。




 ――――しかしその時、オラは信じられない光景を目の当たりにした。


 おばあさんの家を出ると、日本の街並みはどこにもなく、どこか異国の地に来たような古びた街並みが目の前には広がっていたんだ。


「な、なんじゃここはっ!?ヨーロッパ?映画のセット!?」


 街を行きかう人はみんな外人。自動車は1台もなく、変わりに馬車が走っている。日本でない事は確かだし、決して映画のセットでもなさそうだ。オラが見渡す限りそんな景色がず~っと続いていたからだ。


 も、もしかしてオラは異世界に来てしまったんだろうか・・・!?



「おい!邪魔だ邪魔だ!そんな所に突っ立ってんじゃねー!!」


 オラが異国の様な街並みに驚いてぼーっとしていると、大きな積み荷を引っ張っている馬車が止り、中から降りてきた大男が怒鳴ってきた。


 オラが慌てて馬車から離れると、大男は荷台の方から一頭のメス牛を担ぎ上げ、なんとそれを道路に放り投げたのだった。



「ンモオオオ~っ」



 メス牛は弱々しく小さく鳴くと、道路に元気なく横たわってしまった。



「こ、こらあーっ!!いきなり何するだー!牛を道路に投げ捨てるなんて!!」



 オラは気が付くと、牛を放り投げた大男に怒鳴っていた。



「あ~ん?何だてめえは!?この牛は病気でもう後先ねえんだよ。そんな牛は捨てるしかねえだろが!」



「お、お前はなんて酷い事を言うだっ!?お前に酪農をやる資格はねえっ!!」



 オラは酪農で鍛えた筋肉から繰り出される、強烈な右ストレートを大男にくれてやった。


「酪農パンチっ!!」


 大男は「ぐはー!」つって後にぶっ飛んだ。



「て、てめえ!良くもやりやがったな!俺はこの街を裏で牛耳っているゲルグ様の使用人だ。俺たちに逆らうなら命はねえぞ!覚えてやがれっ!!」


 大男はオラに捨て台詞を吐くと、オラから逃げるように馬車を走らせ、その場からいなくなった。


 道路には病気になって捨てられた牛が横たわっている。



「まったく酷い事をしやがってっ!!よし、お前はオラが看病してやるだ!」



 オラは近くの家からリヤカーらしき物を借りてきて、病気の牛を乗せて歩き出した。もちろんコマリもオラのそばを歩いている。



「はて?オラはこれからどこに行けばいいんだろう?ここがどこかも分からないし・・・。」



 オラが困り果ててると、近くにいたおじさんがオラに話しかけて来た。



「あんた、ゲルグの手下をぶん殴っちまうなんて、とんでもない事をやらかしたもんだよ。もうこの街から逃げた方がいい。命が惜しければな。」



 おじさんの話では、そのゲルグって奴は裏社会と繋がっていて、この辺り一体の商いに強い影響力を持っているという事だった。


 そしてこの国の牧場の殆どは、そのゲルグから圧力がかかって吸収合併されてしまい、ゲルグは私腹を肥やしているという話だ。



「く、くっそー!どの世界でも大きな力を持つ人間が、弱い立場の人間をいじめているのかっ!!」



 オラは怒りに震えて、病気の牛を乗せたリヤカーを走らせた。


「今度は、今度こそは!守るべき物をオラは守る!!」



 気が付くとオラ達は森の奥にいた。ここまで来れば、ゲルグという奴もそうそう追ってはこれないだろう。


「お前の病気はオラが治してやる。だからお前はゆっくり休め。」


「ンっモオオオ~。」


「オラの家はな、代々酪農家なんだ。そんでご先祖様から伝わる言葉があるんだ。それは『人と人との絆、そして人と動物の絆は強き物なり。』という言葉だ。」


 オラの言葉が何となく分かるのか、その病気の牛はオラの顔をじっとみつめている。


「はは、可愛い奴だなぁ。」


 オラはそのメス牛を「ハナ子」と名付け、3日3晩看病してやった。そしてオラの看病の甲斐もあったのか、ハナ子は元気になり辺りを動き回る程にまでに回復したんだ。


 ていうか、ハナ子は体が一回り大きくなって、見違えるほどにたくましくなっている。


 食べ物もろくに無かったので、食事は少量しか与えていなかったけど、それでもハナ子は約1・5倍は大きくなっていた。



 オラは元気になったメス牛のハナ子を連れて、森を出る事にした。行く宛の無い旅だが、今のオラにはコマリとハナ子がいる。


 もうオラは負けない。愛する物を命がけで守っていくと心に決め、森を後にした。



「おいおいおい、やっと見付けたぜ~!この間は世話になったなぁ!!」


 森を抜けたオラ達だったが、運悪くゲルグの手下の大男に見つかったのだ。しかも今度は後に10人以上も仲間を連れている。


 すると突然男達は、一斉にオラに殴りかかった。反撃しようにも人数があまりにも多すぎた。コマリも男達に噛み付いたが、大勢の男達に蹴られてぐったりしてしまった。



「くっそーっ!!オラはまた大事な物を守れないのか!?」



「ゲルグ様に逆らうと命は無いって言ったろうが!覚悟しやがれっ!!」



 ――――大男がオラを殺そうと、刀を振りかぶったその時だった。



「ヨシダ、イジメル、ユルセナイ・・・!!」



 何とハナ子の目が青白く光り出して、人間の言葉を話しているではないか!



「ヨシダ、オンジン、マモル・・・!!」



 ハナ子はそう言うと、頭は牛、首から下が筋骨粒々の人間、そんな物凄いモンスター「ミノタウロス」になってしまったのだ。




読んでくれて本当にありがとうございます!

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