13 結婚式3
静まり返る大広間。
そして先程までの心踊る歓声は怒号へと変わる。
30万の魔物が地団駄を踏む。
大地が揺れる。
その目線の先には人間の女がいた。
それは今日の主役の一人。――そう私だ。
「静まれ!!魔王様の御前であるぞ!!」
後ろで控えていた将軍が叫ぶ。
大広間は渋々と静寂に包まれる。
魔王はゆっくりと一歩前へ踏み出す。
「敬愛する、魔界の民たちよ。今日は我の結婚式に立ち会ってくれたことにまずは礼を言う」
魔王はゆっくりと右から左へと目を動かす。
そして一度目を瞑ると今度は強く睨む、そこには私の知らない魔王の姿があった。
「そして皆に問う。先の罵声は一体なんのつもりだ」
民衆は黙りこんだ。
いや魔王を前にして答えられるはずもない。
忘れてはいけない。そこにいるのは圧倒的な力を持つ魔界の王だということを。
私はそのことを否応無く、再認識させられた。
その時、民衆の右翼側から静寂を切り裂く声が発せられる。
「民草は皆、説明を求めているのじゃ、魔王の隣におる人間のな」
そこには、小さな女の子が堂々たる振る舞いで立っていた。
その一声を皮切りに、再び大広間は熱を帯びる。私に対する、そして魔王に対する罵声で。
魔王はその子を睨みつけていた。
そして私に振り向き優しく呟く。
「大丈夫」
それだけを伝えると魔王は大広前へと向き直る。
その時、私の中の私が問いかける。
(――それでいいの??)
(――魔王さんに任せっきり??)
(――あんたは置物なの??)
(――覚悟ってその程度なの??)
(――あぁ、情けないね)
(うるさい、うるさい、うるさい!!!)
「うるさぁあああああいいいい!!!!」
ウェディングドレスがヒラリと揺れる。
気づけば私は魔王の隣に足を並べ叫んでいた。
魔物達は気圧されたかのように呆気にとられていた。
となりに立つ魔王でさえも。
「ア、アンナさん」
私は魔王の心配を他所に、大声で喋り出していた。
「私は、アンナ。そう人間よ、それのなにがいけなくて??私は魔王さんの隣に居たいと想って、魔王さんもそう想ってくれて、それが何故いけないの。確かに私と魔王さんは出会ってまだ少ししか経っていない、それでもこれから沢山のことを知っていくわ。なぜならそこにあるのは人間だからとか、魔物だからとかそんなもんじゃない!!!!私たちの間にあるのは心と心、ただそれだけよ!!それを、あなた達にどうこう言われる筋合いはないわ!!!」
私は腰に手をあて、息を切らす。
魔物達はというと驚いたように互いに目を見合わせていた。
次の瞬間、
――ウォォォォォオオオオオオオオオ!!
大広間に今日一番の大歓声が沸き起こる!!
――アンナ!!アンナ!!アンナ!!アンナ!!
そして何故か、アンナコールが始まる。
(え、なんなのこれ)
私は目が点になるほど困惑した。
隣を見ると、魔王がアンナコールの指揮を嬉しそうにとっていた。
「アンナさん、やはりアンナさんは最高です」
「そ、そうかな」
「ええ、さいっこうです!!」
この時の魔王の笑顔ったら、まぁ凄かった。
それからの式は、滞りなく進んでいった。
と言っても、その後ちょこっと挨拶をしくらいだけど。
その時の、魔物達の目線と言ったらなにか、神様でも拝むような狂気的な目をしていた。
私はアンナコールに見送られ、バルコニーを後にする。
(うーん、結婚式というよりは、祭り?)
私たちは部屋に戻ってきた。
すると直ぐに魔王はこちらに向かって走り出す。
「な、な、なに!?」
「アンナさん、大好きです!!」
魔王は私に飛びかかり抱きつく。
その瞳はまるで無邪気な子供の瞳だった。
「ま、魔王さん!?」
「わたしは幸せ者です」
(そんな改まって言われると、恥ずかしいじゃないか)
「坊やも、随分可愛くなったじゃないか」
幸せそうに感傷に浸る魔王に対して誰かが言った。
扉の方を見ると一人の女の子が微笑んでいた。
(この子……)
「あっ!!さっきの女の子!!」
それは先の場で静寂を切り裂いた、女の子だった。
歳は、10歳くらいだろうか……
そんな女の子の背中には小さな翼が生えていた。
「そなたが、アンナか。うむ、いい眼をしておる。魔王のことを支えてやってくれ」
「う、うん」
「よいのぉ、若いっていうのは。カカカカ」
そう言い残すとその子は、笑いながら部屋を出ていった。
(大丈夫かな、ちゃんと帰れるかな)
この子の正体を知るのはもう少し後になるのだが今言えるのは、見た目に騙されちゃいけないってこと。
次話で、第1章は完結予定です。
時間が合えば今日、投稿します。