11 結婚式1
「わぁ、すっごくお似合いです」
背後で着付けを手伝ってくれた侍女が褒め言葉を口にしてくれた。
おいおい、なにを着てるかなんて野暮なことを聞くんじゃないよ。
決まってるじゃないか、乙女の憧れ、ウェディングドレスだよ!!!
私はお礼を言うと、一つ大きなあくびをする。
こんな所を見られたら、母に淑女の風上にもおけないって怒られそうだけど許してほしい。
「昨晩はお休みになられなかったのですか??」
「うん、友達と盛り上がっちゃってね」
「ふふふ、とっても素敵ですね」
彼女はララ。
私付きの侍女らしい。
将軍も参謀も魔物っぽくなかったけど、彼女は一段と人間の容姿はもちろん、仕草、雰囲気までもが、どことなく人間っぽい。
「ララさんって、人間じゃないの??」
「ええ、正確には…ですけど」
「どういうこと??」
「父は人間でしたが、母は魔族でした」
「ほへぇ、ハーフなんだ」
「……驚かれないんですね」
「ん、なにが??」
「私が魔の血を引いていることにです」
この世界には稀にそういうことがある。
事実、人間界ではそういった子供は、差別され蔑まれることが少なからずあるのだ。
「思わないよ。だって私、魔王と結婚するような人だよ?思うわけないじゃん」
「……ありがとうございます」
彼女もまた何処かでなにかしらの差別を受けたのかもしれない。
私には、それを聞けるほどの覚悟はなかった。
「でも、魔王様は本当にアンナ様のことを好いていらっしゃるのですね」
「うーん、そう思うよねぇ」
「ええ、そうでないと、私のような者がこの魔王城に立ち入ることなんてできませんもの」
「へぇ、そういうものなんだ」
「はい。ましてやアンナ様の侍女を仰せつかるなんて……」
「ほぉ、なんでなんだろね。いやべつにララさんが嫌だからとかじゃないよ!!」
「ふふふ。分かっております。アンナ様はそういった方ではないと」
髪を結い終わったララは次にお化粧に入る。
大鏡に映ったララは、どこか嬉しそうだった。
「おそらくは、アンナ様を不安にさせたくなかったのだと思います」
「不安??」
「もう見られたかもしれませんが、魔界に住まう者の多くは人間とはかけ離れた容姿をしています。おそらくはそれを避けるために、私に侍女の命を与えたのかと」
「なるほどねぇ」
「愛されていますね」
「な!!!」
鏡ごしにララが微笑んだ。
気がつくと私は耳まで真っ赤になっていた。
「完成でございます」
「わぁ……綺麗……」
そこには、別人が立っていた。
純白のドレスに身を纏い、隣に立つ侍女がかすんで見えてしまうほどの。
(いやいや、自分で言うのもあれだけど、私可愛くね!?いやマジで)
私は振り向き、ララに切なる願いを伝える。
「ねぇ!!今度、化粧の仕方教えて!!ほんとお願い!!」
私は化粧をしたことがないわけではない。
というより、ちゃんと毎日それなりにしている。
それでも、自分に似合う化粧なんてものは分からないし、一生分からないものだと思っていた。
けれど、鏡に映る私のそれは間違いなく、似合っていた。
これを見て知って、私の乙女心は黙っているわけがない。
ララは、一瞬驚いていたが、すぐに快く了承してくれた。
――コンコン
「アンナさん、そろそろお時間です」
扉の向こうから、参謀の声がした。
それと同時にララが頭を下げる。
「アンナ様、この度は魔王様とのご結婚、心よりお喜び申し上げます」
「ララ、ありがとう。それと私はアンナ、ただのアンナよ。そこに様なんて必要ないわ」
ララは顔を上げると、驚きに満ちた顔をした。
それは参謀に言った時と同じ顔だった。
ララは再び頭を下げる。
「かしこまりました」
「うん、じゃあ行ってくるね、ララ!!」
「行ってらっしゃいませ、ア、アンナ!!」
魔界での友達、第一号の誕生の瞬間である。
私は扉に向かって、歩き出す。
(さぁ、いざ行かん。結婚式へ!!)
結婚式が終わったタイミングで第一章完結とさせてください。
その先はどうしようか微妙に迷っている状況ですが、多分書きます。
ちゃっかりタイトルも変えました……