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魔王と結婚も、そんなに悪くない。  作者: じょじょた
一章 出会い
10/14

10 結婚前夜の女子会

 あれから(うち)に帰ってから、私はなにもしていない。

 うん、本当になにも。

 いやいや、本当になにも。


 日取りが決まってから、私は魔王に好きな色、好きな食べ物、飲み物……などなど、好みを聞かれはしたけど。

 逆にそれ以外、私は()()行われるはずの結婚式についてなにも知らない。


 今理解できるのは、私の(うち)にメルを含めた女友達、計3人が泊まっているということ。


「いやぁ、あのアンナが、結婚だよ。さすがにこれは、笑わずにはいられないでしょ」

「ほんとなぁ。学生の時、ユイの元彼に浮気しようって提案されてたこともあったよねぇ」

「あったあった!!確かそいつアンナに殴られて顔面に青タンつくってたよね」

「やばい、懐かしすぎる!!」

「そんなアンナもついに結婚かぁ」


 3人が一斉にこちらを向く。

 なんだ揃いも揃ってみんなのそのニヤニヤ顔は。


 いい機会だから説明しておこう。

 この3人が私の唯一の友達。

 20年生きてきて、唯一の。

 名前は右から、メル、ユイ、フィーナ。

 どういう付き合いかと言うと、皆んな学生時代の同級生。

 私は、母に連れられ一時期、王都に住んでいたことがある。

 目的は母の仕事が丁度、王都であったこと。そして私が王都の学校に入学することが決まっていたこと。

 それらが丁度重なっていたので、いっそ王都に住んじゃおう。と母が言ったのだ。

 これもまた謎なのだが、貧乏な我が家が何故あの時、3年間だけとはいい王都に住まうことができたのだろうか。


 さらに言えば、私が王都の学校に入学できたのも謎すぎる。

 当時、母は抽選に当たったと言っていた。

 入学前のその時は、そういうものなんだ。と納得していたが、入学してから分かった。

 あれは確実に母の嘘だ。


 メルもそうだが、あの学校にいた人は皆、例外なく優秀だった。

 ……私は例外だったが。


 当然、場違いな私に不満を持つものは大勢いたし、嫌がらせもされた。

 ぶっちゃけしんどかった、毎日泣きそうになっていた。けど、母を心配させたくない一心で耐えた。

 が、まあ人間、我慢の限界があるってものですよ。

 ある日、私の張り詰めていた糸がプツンと切れたのだ。

 学校に行くと母の悪口をでかでかと黒板に書かれたのだ。犯人は分かっていた、それと味方がいないことも。


 私はそいつに向かって走り出した。全力でぶん殴ってやろうとね。

 もちろん退学覚悟で、あいてはそこそこの中級貴族さん。私を退学にするなんて容易かっただろう。

 でも……私は許せなかった。


 その時、私の代わりにそいつをぶん殴ってくれたのが、ここにいるメルだ。

 唖然としたのを覚えている。

 それと殴りかかろうとしていたはずなのに、気がついたらメルを宥めるの必死になっていたことも。

 あぁ、言うのを忘れていたけれど、メルは王国四代貴族の一つ、グラシア家の長女だ。

 お陰で私の退学はなく、無事に卒業できた。


 私とメルの出会いはそんなとこ。

 それからはメル伝いで皆んなと出会っていった。


 私はメルにずっと聞きたかったことがあった。


「ねぇメル?私、入学したばっかの時いじめられてたでしょ。なんであの時、私を助けてくれたの??」


 正直わからない。あの時私とメルには接点らしきものは見当たらなかった。

 それにメルはクラスでも中心にいた。そんな彼女が、どうして私なんか。


「あったねぇ。うーん言っていいのかなこれ」

「言いんじゃない別に」

「うん、サナさんも今なら絶対怒らないよ」


(ん?なぜそこでお母さんの名前が……)


「あの時ね、実はサナさんにお願いされたんだ」

「お母さんに??」

「うん。娘がもしかしたら学校で嫌な思いをしているかもしれない、もし何かあった時は手を差し伸べてあげてほしい。って」

「え、私知らないよそんなこと」


「そりゃぁそうだよぉ。だってサナさん、アンナが私のために頑張ってくれてる。だから私も我慢しなくちゃいけないって言ってたもん」


 ユイが優しく浸るように言う。


「でもまぁ、正直私は助ける気なんてなかったけどね」


 メルが私を見据える。

 その目には怒りが見え隠れしていたが、それでもどこか優しい目だった。


「でもさ、ムカつくじゃん。私サナさんのこと尊敬してたし。それをあんなのに馬鹿にされたら」


「それにあの時知ったの。アンナのことその時まで、やり返す勇気のない臆病者だと思っていたけど、違った。本当は人のためになら立ち上がれる勇気ある人ってね」


「アンナ……」


 私は目頭が熱くなっていくのが分かった。


「良かったよねぇ。あれが無かったら、アンナとは出会えなかったかもしれなかったしねぇ」

「ね!本当そんなの今の自分が知ったら間違いなく私を殴るね」

「メルは意外と武闘派だからね」

「ゴリゴリよ、ゴリゴリ」

「フィーネだって、知ってるんだからね。意外と」

「わーーーーやめてーーー」

「フィーネ、必死すぎ」


 3人にどっと笑いが起こる。

 そんな3人を前に私はというと……



 泣いていた。



「アンナが泣いてるぅ」

「ええ!久しぶりに見た!!」

「え、まじ!!?ほんとだ」


「ダメだ、私。最近、泣いてばかりで」


 確かに私は泣いてばかり。

 母が天国へ行ってから、今日までの間幾度となく泣いてきた。

 いや、実際は全然泣かないのよ私。多分……


 メルがそっと私を抱きしめる。

 そしてそれに続いて他の2人も抱きしめる。


「いいんだよアンナ。泣きたい時は泣けば。それにきっとそれは幸せ涙でしょ」

「……うん」

「これからもいっぱい泣いて、笑うんだよ」

「……分かった」

「もし魔王がアンナを不幸にすることがあったら、また私がぶん殴りに行くから!!」

「アンナは魔王より強いからねぇ」

「アンナ怖っ」

「筋肉バカ」


 私たちは皆、顔を見合わせる。そして全力で笑う。


「アンナ、遅くなったけど結婚おめでとう」



 私たちは、夜が明けるまで思い出話に花を咲かせた。


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