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その華の名は  作者: 篠原 皐月
第3章 やることなすこと規格外

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(18)理解不能な存在

「うん、美味しいな。スパイスの使い方が秀逸だ」

「ガルツに代わってお礼を言うわ。だけど庶民の食べ物だって馬鹿にしないで、本当に味わって食べているわね」

 しみじみとした口調でのカテリーナの台詞を聞いて、ナジェークは少し不思議そうな顔になった。


「身分や立場が違っても、美味しい物は美味しいし、そんな料理を楽しみながら味わって食べるのは、ごくごく自然な事だろう?」

「私もそう思うけれど、世の中にそう思わない方は、結構存在するという事よ」

(お義姉様とか、アルゼラとかが筆頭だけど。『庶民と同じものを食べるなんて、冗談じゃない』と、切って捨てるのが確実だもの)

 不愉快な想像をして彼女が思わず溜め息を吐くと、ナジェークが宥めるように言い出す。


「確かに感性は人それぞれだが、そういう人間と無理に付き合う必要は無いさ」

「そこまで割り切れるのは、自分に自信があるから?」

「自信があると言うのとは、少々違うかな? 幾ら努力しても、理解できないものは理解できない。そういう存在や考えがあるという事が、これまでの経験で分かっているからね」

 今度はナジェークの方が、どこか達観したような表情で静かに述べた為、興味をそそられたカテリーナは尋ねてみた。


「あら意外ね。あなたに、そんなに理解できない存在なんてあるの?」

「姉と妹」

「…………」

 その真顔での即答っぷりに、カテリーナは思わず無言になった。そのまま少しの間沈黙が続いたが、何とか気を取り直したカテリーナが、笑顔を作りながら強引に話を変える。


「普段は傍若無人なあなたに、そんな微妙な顔をさせるお二人に、いつか直にお会いしたいわ」

「傍若無人は酷いが、何年かのうちには二人と言わず、両親にも君をきちんと紹介するよ。それにうちの領地も、隅々まで案内したいしね。ここには少々劣るかもしれないが、なかなか魅力的な所だから。きっと君も気に入ると思う」

 つい先程までとは打って変わって、自信ありげなナジェークの表情に、カテリーナは自然に笑いを誘われた。


「『ここには少々劣る』なんて、心にも無い事を言うのね。近年ではシェーグレン公爵領程生産性が上がって、賑わっている所は無いとまで言われているのに。それに自領以上に魅力的な場所なんて無いと思っているのが、しっかり顔に出ているわ」

「それは失態だった。まだまだ面の皮を厚くしないといけないらしい」

「『面の皮』だなんて庶民の言い回しが、妙に馴染んでいるわね。相当遊び回っているとみたわ」

「悪い遊びはしていないから。そこら辺は信用してくれ」

「そんな事を公言する人間の、どこを信用しろって言うのよ」

(自分の家と領地について、単なる虚栄心だけではなくて、本当に誇りを持っているのね。シェーグレン公爵家の方々にお会いするのが、楽しみになってきたわ)

 気安く小気味良いやり取りをしながら、カテリーナは終始楽しく昼食を食べ終えた。その後もナジェークの視察に付き合い、充実した一日を過ごしたカテリーナは、夕刻に待ち合わせ場所まで迎えに来た馬車に乗って上機嫌で屋敷へと戻った。


「ただいま戻りました」

「妹君をすっかり案内役にしてしまってすみません」

 まず帰った二人が真っ先にジュールに挨拶に行くと、書斎で待ち受けていた彼はそれに笑顔で応じ、カテリーナに封書を、ナジェークには小ぶりな箱を差し出した。


「カテリーナは存分に気晴らしができたようなので、お構い無く。クオールさんの調査は進みましたか?」

「はい、順調です」

「それは良かった。カテリーナ。王都の義姉上から、手紙が届いているよ。クオールさんにはワーレス商会から、荷物が届いています」

「ありがとう、ジュール兄様。部屋で読みますね」

「ありがとうございます。それでは、私も部屋で休ませて貰います」

「ええ、ごゆっくり」

 それから二人で書斎を引き上げ、それぞれの部屋に戻る途中で、カテリーナは手にしていた封筒の端をいきなり乱暴に破り、中の便箋を取り出した。それを見てもナジェークは驚いたり咎めたりはせず、からかうように声をかける。


「行儀が悪いな」

「どうせ、書いてある事は決まっているもの。『足は治っただろうし、さっさと帰って来い』一択よ。ほら、見て頂戴」

 便箋に目を走らせたカテリーナが不機嫌そうに差し出してきたそれを見て、ナジェークは苦笑しながら再度問いかけた。


「だが現に、君は歩行に支障は無くなっているわけだが、どうするつもりだい?」

「私の足は、確かに治ってきたけれど、まだまだ普通に歩くには不安があるのよ」

 力強い足取りのまま、きっぱりと言い切ったカテリーナを見て、ナジェークが笑みを深める。


「こちらに居座れるだけ居座る気か。相手が痺れを切らさないかな?」

「痺れを切らして、誰かを迎えに寄越すかもね。さすがにそうなったら、王都に帰る事になると思うけど」

「そうだろうな……」

 そこで頷いたと思ったら急に笑みを消して真顔で考え込み始めたナジェークに、カテリーナははっきりと危険な物を感じ取り、慌てて彼の袖を引いて足を止めながら問い質した。


「ちょっと! 一体、何を企んでいるの?」

「……いや、別に何も?」

 ナジェークがそう答えた時の不気味な薄笑いで、カテリーナは確信した。


「嘘よ! 絶対、ろくでもない事を考えているような顔だったわ!」

「酷いな、これが普通なのに」

 苦笑いしたナジェークは、それから暫くの間しつこく追及されても口を割らずにはぐらかし、カテリーナは言い様のない不安を抱えながら部屋の前で別れる事となった。


「さて、こちらも大方の予想は付いているが……。ああ、やはりこれか。間に合って良かった」

 独り言を呟きながら、中に入れてあった物を確認したナジェークは、安堵の表情になりながら同封されていた便箋を引っ張り出して広げた。


「そうだな……、そろそろ潮時だし、工作活動も無事に終了して、二人ともこちらに向かっているか。せっかくだから王都に戻る前に、もう一働きして貰おう」

 側近からの報告書に目を通しながら、ナジェークはちょっとした、しかし結構容赦のない事を企み始めた。


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