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もしマッチ売りの少女がマッチを売ってくれなかったら……

作者: レブナント

 「マッチは……マッチはいかがですか?」


 雪の降る町の片隅で、粗末な布の頭巾を被り、継ぎはぎだらけの夏物の服を着た小さな少女が声を上げる。

 大勢の人に踏みしだかれ、石畳に積もりかけた雪はジェルのようにってあちこちに溜まり、走り去る馬車の車輪がそれを跳ね飛ばす。

 少女は自分の脚に飛んだその飛沫を払うと凍える寒さで身を縮こまらせた。


「寒い……、ひもじい……、誰もマッチを買ってくれない……、このままではパパに怒られてしまうわ……」


 少女を哀れんだのか、一人の紳士が少女の前で足を止めた。


「お嬢ちゃん、マッチを売ってるのかい? 値段はいくらかね?」

「はい、1ブクマになります」


「えぇぇ……、それはちょっと払えないなぁ」

「お願いします! これを全部売り切らないと家に帰れないんです!」


「いやだってこれ……」


 紳士は少女の持つ籠に手を入れて商品を一本取り出した。


「棒じゃん……」

「こうやって! こうやって使うんです!」


 少女はしゃがみこみ、窪みと切れ目の付いた板切れを地面に置き、木くずを少し掛けた。

 そして棒をあてがって合掌した手でしごき始める。


 シュコシュコシュコシュコッ! シュコシュコシュコシュコッ!


「…………つかないよね…………火……」

「いやっ、大丈夫っ! 大丈夫ですからっ!」


 シュコシュコシュコシュコッ! シュコシュコシュコシュコッ!


「無理だよ……こんなに寒いし、地面も湿ってるでしょ……」

「着きます! 着きますからっ!」


 シュコシュコシュコシュコッ! シュコシュコシュコシュコッ!


「……もういいよ……。商売するならもうちょっとまともな物を売りなさい」

「まっ、待ってください! 別のマッチもあるんです! ほらっ、これなんてどうでしょう!?」


 少女は茶色い竹を半分に割った棒を2本取り出した。

 竹には細かい刻みがたくさんつけられている。

 1本を地面に置いて足で踏み、もう一本をクロスさせて激しく擦る。


 ゴリゴリゴリゴリゴリッ! ゴリゴリゴリゴリゴリッ!


「いや、無理だよ。それ棒よりもっと力が要るからお嬢ちゃんには着火出来ないよ」

「あっ! あそこに七面鳥がっ!」


「えっ?」


 紳士は少女が指さす方を振り向く。

 少女は素早くチャッカ〇ンを取り出し、木くずに火をつけてからチャッカ〇ンを籠に隠した。


「七面鳥なんて居ないじゃないか……あれ?」

「ほら、どやっ!」


 確かに木くずに火が着いている。


「何かズルしたでしょ?」

「してないっすよっ!」


「いやいやいや、おかしいって」

「してないですってっ!」


 少女と紳士が問答をしている間に馬車が通り、車輪が水を跳ね飛ばし、木くずにぶっかけて火を消した。


「じゃぁ、もしそれが本当にマッチだっていうなら、もう一回着けてみてよ」

「いいですよ?」


 ゴリゴリゴリゴリゴリッ! ゴリゴリゴリゴリゴリッ!


「あっ、あそこにクリスマスツリーが生えてるっ!」

「…………」


「ほらっ、あそこですよっ! あそこっ!」

「……その手には引っ掛からないよ? (^ ^)」


 少女は黙って2本の竹を持って紳士に背中を向けた。

 手元を隠すようにゴソゴソ動き始める。


「いやいやいやいや、何してんの。ちゃんと私に着火する瞬間を見せてよね。

 ほらっ、こっち向いて」


 紳士は強引に少女の両肩を掴んで180度反転させ、再び自分と向き合わせる。

 少女は黙って紳士の顔を見上げ、しばらく沈黙する。

 そして再び180度回転した。


「いやいやいやいや、ちょっと待った。ちゃんと私に見せてくれないと認めないよ?

 それがマッチだって。ほらっ、こっち向いて」


 紳士は強引に少女の両肩を掴んで180度反転させ、再び自分と向き合わせる。


「何ですか? おじさんは私の事を疑ってるんですか?」

「だって怪しいじゃん。後ろ向いてコソコソしたりさ……」


「ヒッ……、ヒッ……。おじさんは初めて出会ったこんな小さな女の子を嘘つき呼ばわりするんだ……グズッ」

「……いや……困ったなぁ……。信じる。信じるから」


「本当!?」

「そのマッチで火をつける事が可能かも知れないというのは若干信じる」


「あっ、あそこに私のお祖母ちゃんがっ!」

「えっ?」


 少女は素早くチャッカ〇ンを取り出そうと動き始めた。

 ……しかし紳士は顔は後ろを振り向きつつも、両手で少女の両手をしっかり掴んでいて離さない。

 少女は振りほどこうとするが、紳士は絶対に手を離さなかった。


「ちょっと……離して……は――な――し――てっ!」


 少女が必死で手を揺するが、紳士は後ろを振り向いたまま、少女の暴れる反動で体を少し揺らしつつも決して少女の手を離さない。

 そしてしばらくして少女のほうに向きなおった。


「いないじゃん。お祖母ちゃんなんて」

「……ふぅ……」


 少女は180度反転した。

 即座に紳士が少女の肩を掴んで180度回して元に戻す。


「あっ、流れ星があそこにっ!」

「えっ?」


 少女は再び素早く動こうともがく。

 ……しかし紳士はやっぱり両手で少女の両手をしっかり掴んだ状態で後ろを見ている。


「離しなさいよっ! なんでわざわざ私の両手を封じるのぉぉ――――!」


 やっぱり紳士は暴れる少女の反動で両腕を少し揺らしながらも後ろを眺めている。

 そして再び少女に向き直った。


「手…………離して……」

「はい、離したよ」


「何? おじさんが後ろを向いている間に、私が何かズルをすると……そう思ってるわけ?」

「(^ ^)」


「はぁぁぁ……、これだから心の汚れた大人ってやつは……」

「無かったよね? ……流れ星」


「仕方ない……もうおじさんのしつこさに根負けしたわよ。

 今度こそ本当のマッチを出すから……」

「だから最初からそうしてよって。おじさんも早くタバコ吸いたいんだからさ」


 紳士はポケットから煙草を取り出し、口に咥えた。

 実はさっきから煙草が吸いたくて吸いたくて仕方が無かったのである。

 しかしライターはオイル切れ、マッチも切らしていた。

 本当に、ただ純粋にマッチが欲しかったのだ。


「はい、じゃぁもう直接タバコに着けてあげるからタバコをこっちへ寄せてぇ――」

「フン!」


 少女は籠から爆竹を取り出した。

 そして爆竹にチャッカ〇ンで火をつける。


「フグ!? のわぁぁあぁぁぁ――! のわぁぁぁぁぁ!」

「ほらほら、火が欲しいんでしょ? 早く着けなさいよ! ほらほらほらほぁ!」


 パパパパパパパン! パンパン! パパンパンパン! パパパパパ!


 少女は次から次へと籠から爆竹を取り出し、チャッカ〇ンで着火して紳士の周囲にばら撒き続ける。


「ちょ、ストップ! ストップぅぅぅ――――!」

「何よ? 私のマッチに何か文句でも!?」


「爆竹作る火薬あるんだったら、最初から普通にマッチ作って売ろうよ!

 なんでわざわざ木の棒や竹を売ろうとしてるの!?」

「…………」


 少女はしばし沈黙した。

 そして再び次々と爆竹を取り出し、チャッカ〇ンで着火して紳士の周囲にばら撒く。


 パパパパパパパン! パンパン! パパンパンパン! パパパパパ!


「のわぁぁあぁぁぁ――! のわぁぁぁぁぁ! ストップ! ストップぅぅぅぅ!」

「何? まだ懲りないの!?」


「私は普通にマッチが欲しいだけなの! 別に虐めてる訳じゃないんだからね!?

 もういいよ、さっき使ってたよね?

 チャッカ〇ン。

 それでタバコに火をつけてくれたらそれでいいからさ。

 そしたら1ブクマ払うから」

「分かったわよっ! 仕方が無いからそのタバコに火を着けるわよ! このロリコンがっ!」


「ろ、ロリコンって……、まぁいいよ、タバコに早く火を着けてよ……フン」


 紳士は新しいタバコを口に咥え、顔を少女の前へ近づけた。

 少女は籠からダイナマイトを取り出した。


「ちょ、まっ」


 少女はチャッカ〇ンを取り出し、ダイナマイトの導火線に火をつけた。


 シュワシュワシュワシュワシュワ…………


 導火線の火はどんどん燃え進む。


「いやぁあああぁぁぁぁ!」


 ドカ――――ン!


 少女も紳士も黒焦げである。

 頭はもちろん爆発ヘアー。

 紳士は炭になったタバコを口からポロッと落っことした。


「ゲホッ、ゴホッ…………駄目だコリャ」


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[良い点] 吹いたw [一言] アンドロイド救世主の方も続きお願いします!
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