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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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九十六日目 俺の一日:その4

 そろそろストックが無いです……

 んー、これ以上は危ないかもな。


 仕方ない。証拠はいくつか盗ん……貰ってきたんだし、十分だろう。というわけでドローン撤収。


 ここから先は一応地域視察だ。その為に来たって事にしてあるんだし。


「ブラン。あれはなんだ?」

「? 井戸じゃん」

「その横にあるものだ」

「ああ、あれ?」


 実物は始めて見たなぁ。噂には聞いてたけど。


「あれは子供でも井戸の水が汲めるように作られたちょっと特殊な道具で、最近発明されたらしいよ」


 こんな町に置いてあるなんて思わなかったな。


「魔力取っ手の方から流して、レバーを引きながら回すと……ほら」


 実践して見せると、面白いものでも見たかのように身を乗り出してそれをしげしげと確認するエルヴィン。


 たまにこうなるんだよね……。


「成る程……」

「ほら、行くよ」


 このままだと分解でもし始めそうだったから直ぐに引っ張って離させる。


 寄り道しすぎて忘れてたけど俺たちの本来の目的はこの土地の視察だからね?


【貴方も忘れてたんじゃない】


 いやまぁ、そうなんだけどな?








 畑を見て回ったが、やっぱりなんとなく成長が悪いように見える。所々雑草も見えたしそれどころじゃないんだろう。


 農家の人に話も聞いてみたけど、税収が重すぎて自分の暮らしがギリギリなんだそう。


 それだけじゃなく、兵として徴収されてもそれにかかった費用は自分持ちだから、剣や鎧の買い替えなんかあったら即座に赤字が出るんだそうだ。


 真っ黒だなこの領地。


「あっ」

「どうした?」

「さっき先行させた鳥ドローンが着いたみたいだ」


 ちゃんとじっちゃんに届いてるな、よしよし。そりゃそうだよな。自室に直接飛ばしたんだもん。


 証拠も十分。さて、帰りますかね。


 レイジュに収納から出てきて貰って空を飛んで帰る。


 ドローン達は先に回収済みだ。じっちゃんの方に送ったやつも先に拠点に帰ってもらっている。


「ブラン」

「ん?」

「いつもあんなことをやっているのか?」

「いつもって訳じゃないけど、領地視察だとあんな感じだな。気候や年間温度、降水量と畑の大きさを計算して毎年どれくらいの収穫が見込めるか、それに対して今の税収はどうなのか、とか」


 本当にこれは俺の仕事なのかと疑問になる。


 俺は一応貴族だがこういうのは情報屋の仕事じゃないだろう。


「でもじっちゃんもじっちゃんだよな。俺こういうの専門じゃないのに」

「しっかり迅速にこなすから仕事が回ってくるのだろう」

「そうなのかもしれないけどさ……」


 拠点に着いたら黄昏時に入っていた。一緒にいたいと拗ねるレイジュと馬舎の前で別れるのに五分かかった。


 ドローン達を拠点周辺の見回りに参加させてから玄関に入る。


「「「お帰りなさいませ。マスター、エルヴィン様」」」

「帰ったぞ」

「ただいま……いや、だから皆立ってる必要ないって」


 靴を脱ぎながらそういうけど誰もその辺りは反応してくれません。


「あ、そうだ。マーサさんの件だけど、これから準備するから来月お引っ越しするってさ」

「わかりました。あちらのメイドに伝えておきます」

「頼むよ」


 首を回すとゴキゴキ音がなる。肩凝り最近酷いな……


「マッサージいたしましょうか?」

「いや、大丈夫だよこれくらい」


 人に触られるの苦手だしな……マッサージとかくすぐったくて耐えられない。


 これからやることもあるしな。


「地下室行ってくる。なにかあれば呼んでくれ」

「はい」


 新しく届いた情報をとにかく頭のなかに入れる。この世界に来てからどうやら記憶力も向上したようで、その辺りはとても助かってはいる。


 二時間ほどしてから呼び出しの明かりがついたので地下室から出ると、キリカが待機していた。


「夕食のお時間です」

「ああ、ありがとう」


 俺だけ妙に少ない夕食を皆でとって風呂にはいる。


 だが、たまに。ごく稀に。


「「あっ……」」


 メイドの誰かと一緒に入ることになる。時間が被ってしまえば、だけど。


「い、今すぐにでますっ‼」

「いや、大丈夫だから。今入ったばかりだろう? 俺は全然構わないからさ」


 一度に5、6人入ることを想定しているような広い空間に一人は寂しいしな。


「「…………」」


 ただただ、体や頭を洗うお湯の音が響く。


 なにか……なにか話題を……


「君、最近入った子だろう? 確か……ジュリアさん、だっけ?」

「け、敬称なんて……マスターは私のことをご存知だったので?」

「家で働いてくれてる子なんだから一週間もあれば流石に覚えるよ。いつも俺の部屋の花瓶の水、取り替えてくれてるだろ?」


 よし、いいぞ俺。会話を繋げろ。


「え、あ、はい………」


 え、何でそこで黙っちゃうの。


 コミュ障の俺には中々キツいよ?


「この家はどう? ちょっと変わってると思うけど」

「そ、そんなことは全然‼ ですが……とても楽しいです。大変ですけど、充実している、といいますか」

「そうか。それは良かった」


 バシャッと泡を洗い流してから風呂に浸かる。ジュリアさんも先に入っていたので俺が前の方、ジュリアさんが後ろの方で浸かることになる。


「ひっ!」

「えっ⁉ なに⁉」

「い、いえ、その、突然お背中が、目に、はいりまして……」

「ああ、この痕? 気持ち悪いよな。よく死ななかったなって今でも思うよ」


 確かに、突然これはショッキングだよな……。刺青並みにビビられるだろう。


「痛く、ないのですか?」

「今では全然。昔は痛かったけどな。風呂に入る度に滲みたんだよこれが」


 今ではただただ気持ち悪いだけだ。ソウルにも見せたことはないかもな。羽を出せば見えないから割りとこれを見たことがある人は少ないかもな。


「これは、一体どんな……?」

「説明し辛いんだけど……俺ってほら、色々と恨まれるようなことやっちゃってるからさ。背後から狙われてもおかしくないだろ?」


 まぁこれは情報屋始める前の傷だけど。


 そろそろのぼせそうだな。出ようっと。


「のぼせそうだから俺はもう出るよ。じゃ」


 さてと、書類仕事しますかね。


 風呂から出ると服がすでに無く、代わりにタオルとバスローブが置いてあった。いつの間に……


 うちのメイドに忍者でも紛れ込んでいるのでは……?


 そういえばこの世界に始めてきたときくらいに忍者っぽい人と遭遇したような気がする……あれなんだったんだろう。


 ま、いいや……。もう関係ないし。


 髪や体を適当に拭いて自室で届いた手紙やら書類やらを確認する。髪は扇風機みたいな道具で乾かし中だ。


「もう少し人を増やすか……? いやでもそろそろキツいんだよな……」


 手が足りなくなってきたのも事実だ。俺への依頼は半分くらいが人探しだから必然的に人数は多くなっていく。


 ただ、そうすると給料も中々大変だしな……。


「マスター。そろそろお休みになられては?」


 蜂君ドローンが集めた蜂蜜の瓶とホットミルクの入ったマグカップを持ってキリカが部屋に入ってきた。


「もうそんな時間か」


 確かにもう大分眠い。さっきから何度も欠伸が出てくるし血の補給も少なくなるようにちゃんと無理せず休まないと………。


 キリカは蜂蜜を掬ってホットミルクの中に垂らし、それを俺の前に置いた。甘い香りが漂ってくる。


「ジュリアと同じ時間にお風呂に入ったそうですね?」

「ああ、うん。偶々一緒に」


 舌を火傷しないようにホットミルクをちびちびと飲む。その間キリカは会話しながら見事な手際で書類を片付けていく。


 やっぱりなんか悪いよな……。


「お背中の話をしたと」

「ん? ああ、キリカは知ってるんだっけ」

「はい。そのお怪我の経緯、私に教えてはいただけませんか?」

「これは……」


 確か……そう。


「10才頃だったか。当時姉がモデル……って言ってもわからないかな。えっと……服を着て雑誌に掲載される仕事があるんだけど、それで大きく世間で有名になって」


 トップモデルとか言われてた姉ちゃんは俺にとって誇りだった。友達に自慢するほどに。


「俺も俺で……その姉の妹だからってので意外と近所では有名だったんだけど」


 それ以外にも理由はあるが……。


「姉の仕事についていったとき、ちょっとした事故が起きて……撮影で使った機材が何らかの原因でショート……発火して火事になったんだ。大騒ぎになったんだけどそれほどまでの被害はなかったから特に問題にもならなかった。……俺からしたら大問題だったけど」


 冷めてきたホットミルクをグッと煽る。


「逃げてる途中に姉の近くにあった機材が大きく揺れてて、それに気づいたのは俺だけだった。急いで声をかけたけど周りが大騒ぎしてたから聞こえなかったみたいで……咄嗟に姉の後ろに回って姉を突き飛ばしたんだけど、間に合わなくて背中に熱っされた機材が当たって。それからずっとこんな感じ」


 丁度羽の生える辺りに皮膚が爛れている。今ではもう気にもならないけど、あの時は色々と辛いものがあった。

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