九十二日目 卵ふたつと鍋ひとつ
「んんー♪ んまっ♪」
材料から拘った甲斐があった。プリン最高!
ハーピーの卵をとってくるのはちょっと大変だったけど。
魔物なのに知性がある人面鳥、ハーピーの卵は市場では滅多に出回らず、出たとしても一個50イルク、日本円で5万は下らない。
一個がダチョウの卵みたいに大きくて、黄身の部分が相当大きいのが特徴。知り合いのハーピーに頼んで貰った。
なんでハーピーに知り合いがいるのかって?
前に龍を狩ったって話したよね? あの時に塒をとられたって言ってきた相手がそいつだったんだ。
ハーピーは群れで暮らし、鶏並みの速度で卵を産める。
けどまぁ魔力使うから極力産まないらしいんだけど、いつでも産める。卵頂戴って言ったら目の前で産まれた。
なんか凄い申し訳なく感じた。
その代わりにカレー鍋ごとあげたけど。
「あ、なんか甘い匂いすると思ったら」
「んぐっ。皆の冷蔵庫にあるよ」
陶器のカップ大量に作ったからな。この為に!
「まーたどうでもいいことにポイント使っちゃって……」
「どうでもよくはないぞ。甘味がなかったら生きてけないからな俺は。少なくとも俺は」
そうこう言いながらソウルだって食べてんじゃん。
「結構濃厚なんですね」
「二種類あるんだ。寒天入ってるプルプルのやつと生クリームのしっとり滑らかプリン。俺はどっちも好きだけど強いていうならプルプルの方が好きなんだよねー」
生クリームの方が手間がかかってはいるけどスーパーとかで昔からよく食べていたちょっとリーズナブルなプリンの方が好き。
三個セットで売ってるよね。
「本当にどうでもいい才能こういうところで発揮してますよね」
「一言多い」
二つ目のプルプルの方のプリンを食べてみる。
「んー♪」
やっぱ美味い!
自画自讃とかそういうんじゃないけど、プリンが美味い!
やっぱり甘いは正義だよ。
………? なんかめっちゃ見られてる。
「どうした? 食べないと冷たくなくなるぞ?」
そういえば暖かいプリンってあったよな。今度試してみようかな。ああ、焼きプリンとかもいいな。
そういえば高校の友達に誕生日プレゼントでどんぶり並みの大きさのプリン貰ったっけ………。一日で食べきったけど。
「いや、急に女性らしい行動をとったなと……」
「お前俺のことなんだと思ってやがる」
黙らっしゃい。
「ソウルは暖かいプリン食べたことある?」
「暖かいプリンですか? ないです」
「んじゃ今度作るわ。材料があれば」
「そういえばこれなんの卵ですか? 妙に濃厚……」
ふっふっふ。
「ハーピー」
「はい?」
「ハーピーの卵だ。中々貴重なんだぞ?」
「高級食材じゃないですか⁉」
そうなんだけどね。カレー鍋ひとつと交換させてくれるほどチョロいし。
「ちょっとハーピーの友達がいてね。産みたて卵を貰ってきた」
「それ、ハーピー的にはいいんですか?」
「さぁ? けど卵頂戴って言ったら目の前で産んだし」
中々にシュールだったよ。
その後、続々とメイド達やエルヴィン達が来て俺のプリン試食会になった。
「これがハーピーの卵ですか」
「舌触りが非常にいいですね」
だろう? あ、そういえば。
「もう一個貰ってきたんだった。夜ご飯に皆で食べよ」
真っ白な卵を収納から出すと途端にメイド達がざわめき出す。
「これがハーピーの卵ですか………」
さっきも同じこと言ってたよね?
ま、いいや。
「知ってるかもしれないけどこれ中身ほぼほぼ黄身だから。好きに使ってくれ」
「では今晩はオムレツにしましょうか」
「「「おおー」」」
キリカのオムレツ美味しいんだよな。
夕御飯には期待するとしまして。
俺は俺で仕事がある。
国王であるじっちゃんも七騎士の事は知らないと言っていた。なら自分の足でなんとか探すしかない。
「夕飯には帰ってくるから。行ってきます」
「「「行ってらっしゃいませ」」」
無駄に豪華で漫画でしか見たことがないメイド達のお見送りを体感しながら町の中心に歩いていく。
町には様々な動物がいて、その動物達の中でも独自の情報網が存在している。俺の情報網が白黒ネットワークならアニマルネットワークといったらいいだろうか。
彼らは素直だが一度機嫌を損ねるような事をしてしまったときには動物達は一斉にどこかに行ってしまう。
「この辺でいいか」
人がいないことを確認して家屋の壁を蹴りあげ、屋根の上に出る。この家が空き家なのは調査済だ。
どうしようかな。よし、『海○ともに』にしようかな。
【それ、なんの曲?】
東日本大震災……って言っても通じないな。俺が昔住んでいた国のとある地域を中心として起きた大震災があってな。
島国だから海に囲まれてるんだけど自信の影響で津波が起こってな。多くの人が命を落としたんだ。
その後、復興中の被害を受けた町にボランティアで行った人がそこで暮らす人に話を聞いて作った曲らしい。作った人に会ったぞ。合唱曲だけどな。
中学の時、部活でやったんだ。
この伴奏が俺結構好きなんだよね。長調なんだけど、全体的に悲しげに進んでいく感じとか、サビの所で少し明るくなるところとか。
っと、来た来た。今歌ったのは無駄に歌いたかったからじゃなくて、
「ピイッ」
「よっ! お勤めご苦労様」
鳥や猫、鼠等の動物達が俺の乗っている屋根の上にどんどん集まっている。俺の歌には込める魔力で様々な効果が得られる。
レベルが低ければ出来ることはあまりないが上がれば上がるほどやれることの範囲は広くなっていく。
動きを遅くさせたり、味方の攻撃力を上げるだけじゃなく治癒や浄化、人寄せなんかもできる。これは動物寄せだけどな。
パン等を千切って与えながら話を聞くことにする。
サラサラっとあの人の絵を描いて、
「こんな格好の人見たことある?」
全員にそう訊いてみる。
「「「………」」」
ないかー。ま、この気持ち悪い格好で歩き回ってたら大騒ぎになってるだろうし。
「じゃあこんな紋章をつけた人は?」
また絵を描いて見せると、
「ピッ!」
「にゃん」
「チチチッ」
数匹反応があった。この紋章はあの七騎士を名乗る人が服につけていた紋章だ。
何らかの手掛かりになるかもと覚えておいて良かった。
「じゃあもっと詳しく教えて。パンならあげるし猫さんには魚か肉あげる」
「ニャッ」
動物達から詳しく場所を訊いたりしながら行動パターンを割り出せないか探ってみたが少し情報が少ないかな。
「この紋章の人を見掛けたら追っかけたりしてみて、なにかあれば俺に教えてくれ。それ相応の報酬は出すよ」
こくり、と頷く動物達。ここまで頭がいいのには少し理由がある。
俺の召喚獣契約で使う言語魔法を少しアレンジしたもので、対象の知能をあげるという付加効果もある魔法を歌ったときに発動させたから。
暫くは人間の子供並みの知能で動けるはずだ。イベルは除く。あいつは別格だし。
「それじゃあ頼んだよ、皆」
俺も帰りますかね。




