表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 一冊目
9/374

九日目 俺って鈍いの?

 泣いてたやつらが落ち着いてきた。


「連絡先交換してください」

「いや、それは良いけど近すぎねぇ?」


 ヒメノからミントみたいな爽やかな香りがする。さっすがイケメン。俺? 一応ファ○リーズしてきた。


 女子力なんて俺に求める方が間違ってると思うよ。


 L○NE交換したのクラスの人以外じゃ初めてかもしれない。家族? 入れてねぇよ。精々家の固定電話が入ってるくらい。


 だって興味ないし。


「おおおお、ギルマスの携帯…………!」

「ヒメノって中身で損するタイプ?」

「ギルマス。それ思ってても言っちゃ駄目だ」


 残念イケメン。そんな言葉が似合う。似合ってしまう。そう思ってしまうのは俺だけじゃない筈だ。良いやつなんだろうけど。


 天然っていうか、素直っていうか。いつもの毒舌はどこ行ったって感じ。ゲーム内だと性格変わる人かな。







ーーーーーーーー《ヒメノサイド》







「ぴゃああああ⁉」


 エレベーターが混んでいたから階段を使って聞いていた場所にあがると不自然な格好で扉を覗いている人が見えた。


 髪が長いから女性、しかも高校生だと思う。うちのギルドにあんなに若い人いたんだ。


 声をかけてみたら階段から落ちそうな勢いで飛び上がってビビってた。半泣きしている。


 話しかけてみたら、やっぱりギルドのオフ会参加だったみたいだった。僕も入る勇気がなかったからその子を無理矢理引っ張って中に入った。


 ギルマスはどの人かな。流石にドタキャンしないと思うけど。


 探していたら、女の子とはぐれた。大学生くらいの人に捕まっているようで、人見知りなのかマフラーの端を握りしめながら顔を赤くして話している。


 …………?


 僕はその子の挙動をじっと観察した。


「………似てる」


 これがカーソルとかで動かすタイプのゲームだったら気付かないだろうけど僕らがやっているのはバーチャルだ。VRゲームだ。


 その人がアバターという着ぐるみの中で動いているのと同じ。だから癖とかは完全にそのままなんだ。


 ………やっぱり凄い似てる。


 緊張すると何か掴むところとか、相手の顔あまりハッキリと見れないところとか。


 中の人が女性だってのは何となくわかってたけど、あんなに若いのかな。もしそうだとしたら、僕らがギルドを組んだとき、ギルマスは小学生だったってこと?


 ………いや、あの落ち着きようでそれはない気が。確かに度々子供っぽいところは見かけるけど、流石に小学生レベルではなかった気が……


 ああ、もう! 気になって仕方ない!


「こういうときは早く動いた方がいい」


 誰かもそんなこと言ってたし‼


 ギルマスですかって聞いたら、目を逸らしつつ笑った。あ、これギルマスだ。戸惑うと目を合わせずに笑うんだよね、ギルマスって。


「ヒメノです」

「……………ええええええええええ⁉」


 本気で驚いているようだった。反応がいちいち可愛い。もって帰りたい。


 そのままの勢いで告白したら、一旦距離を置かれた。ギルマスってそういう人だよね………。


 これでも僕それなりにモテてたから告白したの初めてだ。今まで全部断ってたから付き合ったこともないけど。


 ギルマスって可愛かったんだ………もしおばあさんとかだったらどうしようって思ってたよ。年下だったのは意外だったけど。


「えっと、あ。何飲むか聞いてくるの忘れた…………」

「お、兄ちゃんヒメノなんだろ?」

「? はい」

「俺だよ俺。エッグ」

「ああ! パーティ6の」

「そうそう。で、ギルマスの飲み物か?」


 なんでわかるんだろこの人。頷くとグレープジュースとオレンジジュースを指差して、


「ギルマスは刺激の強いものとか苦手だから甘いのでいいと思うぞ」

「あ、ああ、確かに……いつも酒飲んでるから」

「だな」


 逆に酒飲んでないときなんて見たことない気がする。無意識に酒頼んでるもんなぁ………。


 グレープジュースとオレンジジュースを持っていったらどっちでも大丈夫だって言われた。流石はエッグ。本名知らないけどありがとう。


 それにしても、ギルマス可愛い。


 なんで男のアバター使ってるんだろう………あのままでも全然いいと思うんだけど。


 前になんで顔を大分変えたのかって聞いたら『自分の顔に自信がないからだ』って言ってたけど。あれで自信なかったら世の中の可愛いって言われてる女の子の半分はブスだと思う。


 それにしても細い手だ。いや、細すぎないか?


「ギルマスってダイエットしてる?」


 そんな風に聞いてみた。今時の子って皆してるイメージあるけど。


「食べてないだけ」


 え、どういうこと?


 考えが顔に出ていたようで、ギルマスが話してくれた。今まで聞かなかった事、聞いても逸らされてた事。ゲームの世界大会って実は滅茶苦茶厳しい。


 その人の身体能力は一切関係なしにほぼ同じ条件で相手を倒さなきゃならない。相手も自分も殆ど疲れないから純粋な反射能力と勘が他のどのジャンルよりも求められる。


 小学生で世界大会に出れるレベルなのは本当はとてつもないこと。しかもドラゴン・ファイアなんて操作が難しいゲームの代表格みたいなものだ。


 コントローラに置いている指が数センチずれただけで勝敗が決まるって言われてるほどに。


 ギルマスは悲しげな目をしながらそれでも明るく話してくれる。たまにゲームの時にする表情だ。誰もいない場所で、酒飲んでる時。


「ギルマスゥゥウウ」


 気付いたら泣いてた。っていうか泣かずにはいられないでしょ、これ。ゲームやってる身としては物凄い共感できる。


 ギルマスは困った顔をしながら僕の濡れたところとかを拭いてくれた。ギルマスっていつもボーッとしてるようで世話焼きだ。


 それは一番近くでギルマスのことをみていた僕が一番知っている。今も適当に相手しているようで全員の面倒を見ている。


 どっちが大人なんだか。







ーーーーーーーー《セドリックサイド》







「そろそろお開きか」

「そうだな」


 ダイテークとルートベルクの二人と一緒に椅子とかを片付けていく。


「ごめんな、ギルマスとはいえ女の子にこんなことさせて」

「女の子扱いやめてくれよ。なんか変な感じだし。それに力にはそこそこ自信があるんだ。ま、男には勝てねぇけど」

「へぇ? どれくらい?」

「んー、この前のスポーツテストでは7位とったよ」

「何人中?」

「どれくらいだったかな………450人くらい?」


 二人の表情が固まった。え? いや、高校生のスポーツテストだよ?


「ギルマスって運動部?」

「まさか。音楽科じゃ怪我するといけないからって暗黙の了解で運動部禁止だよ」

「それで7位か! 凄いな!」

「筋トレはしてるからな」


 父親から逃げるためには屋根だってのぼるし、そのための筋力ならつけないとな。


「それに、他があの状況で手伝わねぇのも、な………」

「それはすまないな………」


 泣き疲れているやつらが続出してるし寝てるのもいる。ヒメノ? 寝てるけど。


「ギルマス」

「んー?」

「ヒメノと付き合ってやってくれないか」

「え」


 あぶなっ! 椅子落とすところだった!


「なんだ、唐突に」

「俺実はヒメノと知り合いなんだよ」

「リアルの方で?」

「そう」


 初耳だ。ああ、でもルートベルクとヒメノってたまに同じくらいの時間にログインしてるよな。


「仕事仲間ってところ?」

「ああ。まぁ、そんなとこ。って言ってもヒメノはまだまだ新人社員だけどな」

「へぇ。先輩なんだ」


 なんでも偶々社員食堂で会ったんだって。世間って狭いよな。


「それでなんでヒメノと付き合うって話に?」

「いや、見ればわかるだろ? ヒメノの顔」

「ああ、性格さえ気にしなきゃ凄そうだよな」

「ギルマスの前だからテンション上がってるだけだって。社内でも狙ってる女たちがうじゃうじゃいるぜ」


 なんかその言い方だと女が生ゴミにたかるハエみたいな言われ方だな………。


 たとえが気持ち悪い時点で俺も女捨ててるかもしれないけど。


「俺は虫除けじゃないぞ」

「そうなんだけどさ、ギルマスなら信じられるっていうか」

「でも俺リアルではさっき初めて会ったんだぞ? それになんかこういう詐欺あった気がする」

「ヒメノに詐欺師できると思う?」

「無理だと思うけど」


 素直すぎるんだよな、ヒメノ。ゲーム内での毒舌もそれが原因みたいだし。


「寧ろギルマスが盛大にフッてみろ。ヒメノ自殺するかもしれないぜ? そうでなくとも変な女に引っ掛かりそうだし、それこそ詐欺に」

「いや、詐欺とか変な女に引っ掛かるとか判るけど流石に自殺はないだろ」


 俺がそういうとダイテークが、


「いやいや、そうとも言い切れないぜ? なんで気づかないって俺が思うくらいだし」

「何の話」

「「ヒメノがギルマスに惚れてるって話」」

「いや、それは………」

「別にワールドマッチの時に気づいたわけじゃないからな」


 え? じゃあいつ?


 ………っていうかいつから⁉


「三年くらい前じゃないか?」

「あー、それぐらいだな」

「マジで?」

「「マジで」」


 ヒメノって俺のこと好きだったの?


「でもゲームだよ?」

「見た目じゃなくて中身に惚れたんだろうが」

「俺全然気付かなかった………」

「「おい管理人」」


 気づけよってか。


「そもそも俺にそういう感情を抱けと求める方がおかしい」

「開き直んな。思考が女子高生じゃないぞ」

「もう女は捨ててるようなもんだし………」


 そんなこといわれても。じゃあ、もしかして長年のヒメノの毒舌って…………照れ隠し?


「やっと気づいたか」

「気づくかよ、普通。だってゲーム越しだし」

「それ通り抜けてもわかるくらい露骨だったのに」

「いつ気付くかって賭けてたくらいだよ」


 一体何やってんだお前ら。


「兎に角、いいやつだってことは判ってるだろ」

「それは、まぁ……」

「とりあえず付き合ってみるって手もあるんじゃないか?」


 …………とりあえず、ねぇ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ