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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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八十九日目 本気を出せ

 俺は強くなるために様々な方法で自分を鍛えてきた。


 足技だけでクエストをやったり、魔法使用無しで物理がほぼ効かないボスに挑んだり。所謂縛りプレイというやつだ。


 だから大抵の相手には余裕をもって戦えるんだが。


 ルーンを小指で書いて発射、発動させるが全く効いていない。


 一応基本属性は全部使ったが……初級魔法ごときじゃ一歩すら止められないのか。


 こういうときに使い魔が役に立つんだが、呼び出せない。いや、近くにいるにはいるんだが干渉できないというのが正しいだろう。


 やはり俺達以外の時間が止まっているようだ。


「ぐっ……」


 リリスで相手の拳を受け止め、弾く。


 俺の手が痺れるってどれだけ固いんだよあの鱗。しかも魔法も散らしてるみたいだし……


【石化させる?】


 いや、奥の手はとっておいた方がいい。今ここで見せても万能薬でも持ってたら意味無く体力を使うだけだ。


氷弾アイス・バレット!」

断絶カット


 俺の氷弾アイス・バレットがあいつの手刀で綺麗に真っ二つにされる。


 さっきからそうだ。断絶カット、だっけ? それを使われると絶対に斬られる。


 石とかどさくさに紛れて投げてみたけど結果は同じ。


 氷の内部を弄ってなにかに触れた途端粉々になるように設定し、打ってみた。もし当たっても殺傷性はない。


 それをあいつは断絶カットで斬った。断面は綺麗に真っ二つ、落ちた途端にバラけるように粉々になった。


 やっぱり固さに関係なく同じ効果が出るようだ。


 多分あの魔法はどんなものも断ち切る魔法なんだと思う。ただ、一回の使用で切れるのは一つ。その代わり多分どんな武器も壊されるだろう。


 リリスの強度でも無理かもしれない。


 ……相性が悪い。もし遠距離で仕留めようとしてくれたら羽で防ぐなり暴食で食うなり出来るけど、勢いを喰らうなんて器用なことはできない。


 重ねてルーンを書いている暇もない。故に魔法を打つなら初級レベルがせいぜい。でもそれは鱗のせいで通じない。あまり近付くと断絶カットで殺られる。


「「はぁっ!」」


 踏み込んで拳を受け止めつつリリスで殴り付けるがあっちも左手でリリスを止める。


「なんなのその鱗。固いし」


 普通リリスで殴ったら吹き飛ぶっつーの。


「ククッ! それは我も驚いている。全力を受け止めて涼しい顔をしているやつなど始めてみたからな」


 防御に徹すれば多分下手に攻められることはないだろう。だがその前に血のストックが切れる。もう喉が乾いてきた。


 早く仕留めないと動けなくなる……!


 かといってこんな町中ででかい魔法使うわけにもいかないし……そうだ!


 小指でルーンを5つ重ねて書いて相手に向けて発射する。


衝撃インパクト!」


 衝撃インパクトにはあまり強い効果はない。ぶん殴った方がずっと効果が出るくらいの魔法だ。子供が対格差を補うために使うような魔法。例を出すなら俺のような例外を除いた普通の女性のパンチくらいってところか。


 だからルーンは二つでいい。だが、俺が書いたルーンは五つ。


 衝撃インパクトの有用なところは発動のしやすさと消費魔力の少なさにある。その代わり少し当てにくく威力も弱い。


 だが、その威力でも十分通用させられる。


「拡散、強化‼」


 声にあわせてルーンが反応、衝撃インパクトは見えない打撃。それが一気に数を数十倍に増やし、一つ一つの威力が女性のパンチから男性のパンチになる。


 それを一気に浴びたら少なくとも内側に少しくらいはダメージが入るはず。


発動(アタック)‼」

「なっ⁉」


 よし、効いてる! やっぱりそうだ。魔法の力は散らされはするがあの鱗、あの人のものじゃない。


 いわば鎧のようなものだ。だから斬撃や簡単な爆発は効きにくいけど中に伝わる衝撃はその限りではない。


 一斉に襲いかかる衝撃に一回吹き飛ばされたが尻尾で上体が倒れないように持ちこたえたようだ。


「中々面妖な魔法を使うな」

「誰でも覚える初級の魔法、それの応用だ。上級なんて書いてる暇ないしな」


 無詠唱はムラが多すぎて使えない。


 その時突然飛びかかるように爪で襲いかかってきた。


「っ、障壁ブロック!」

断絶カット!」


 そう来ると思ってたよ! 直ぐに両手を引っ込める。攻撃を仕掛けてきてるのに武器を引っ込めるなんて普通はありえない。だからあっちも一瞬動きが止まった。


「おりゃぁああ!」

「ぐげっ……⁉」


 その隙に思いっきり羽を打ち付ける。


 想像以上の重みがあったそれは事前に魔法で硬化してあり、叩きつけると鉄の塊をぶつけられたようなことになるはずだ。


 遠心力も加えた上に俺のバカ力だ。人間には使える技じゃない。やった瞬間に首の骨ポッキリでお陀仏だ。


「ぐ、ふっ……」

「そ、想像以上に俺も痛いわこれ……」


 羽が数枚抜けた。痛いです。っていうかあいつ本当に固いんだけどどうしたらいいの⁉


「ククク……ハハハハ!」

「な、なに⁉」

「面白いな、一本とられた。それは認めてやろう」

「そりゃどうも」


 じんじんと痛む羽根に魔法をかけてまた一段と固くする。


「もっと殴ってあげてもいいよ?」

「ククク……本気を出せ、これくらいでは時間稼ぎにしかならんぞ」


 俺もこいつも互いを殺さないようにと戦っている。こいつは何故かは知らんが俺を連れて帰るために、俺は自分ルールのために。


 ただ多分その枷が外れれば、要するに本気の殺し合いになれば、もっともっとやれることは増える。


 こいつはそれを求めてる。


「あんたは強いから殺しちゃうかもしれない。だから嫌だね」

「ハハッ! その甘えが自分を殺すぞ?」

「でもあんたも俺を殺す気はないだろ」

「ああ、そうだな。お前にはやってもらわなければならないことがあるからな」


 俺にやってもらわなければならないこと? この感じからして本職(情報屋)の仕事ではなさそうだな。


「俺は気に入ったことしかしない主義だ」

「ああ、だろうな。きっと気に入るさ」

「そんなのわからないだろう。そもそも俺はかなりの飽き性だ」


 羽根がクリーンヒットした腹部を押さえながらゆっくりと立ち上がる。相当思いっきり吹っ飛ばしたのに……不死身かよ。


「本気を出せ、白黒」

「無理だし、嫌だ」

「そうか。ならこうするしかないな」


 パチンと指をならす。その瞬間とてつもない音量の声が頭に響いた。


 耳をいくら塞いでも頭のなかに直接響くその声がガンガンと脳を締め付けるように唸り声をあげる。


「ぅああああああっ!」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


 何もかもが聞こえてくるせいで寧ろなにも聞こえない。感覚がおかしくなるようだ。


「ぅっ……ぁあ……!」


 地面にしゃがみこんで苦痛に耐える。ポタ、と鼻から血が垂れて地面に落ちた。

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