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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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八十七日目 ここどこ?

 もしもし、こちらはブラン。


 ……もしもしってなんだっけ? あ、申し上げます申し上げますの略だっけ。


 それはどうでもいいんだ。いいんだよ。


 問題は、今のこの状況だ。


「……わー、下に雲が見える………」


 顔を回してみてみると烏のような巨大な鳥が俺の体をガッチリ掴んで空を飛んでいる。


 わー、たかーい! ここまで上に上がったのウィーンに旅行したときの飛行機以来だぁ♪


 ……うん。落ち着こう。まずここは何処だ。


 とりあえず烏っぽいのにガッチリまるで餌でも運ぶように掴まれて高度5000メートルくらいを恐らく飛行中。


 星操りのコートのお陰でそれほど寒くはないが高山病っていうの? なんか心なしか頭痛くなってきたんだよね。


 えっと、確か俺は拠点に帰って……ご飯食べて寝たよな。うん、寝たな。で……あれ? まさかそこから記憶ないの俺⁉


 まず降ろしてもらわないと。リリスを収納から出す。それだけで俺の体重は倍になる。


「グァッ⁉」


 急激に重さが増えたせいか烏擬きがプルプルと震えだした。限界なら手を離してくれていいよ。俺自力で飛べるし。


「ぐ、グァアアア……」

「お、根性あるね君。でもそんな飛び方じゃいつか落ちちゃうよ?」


 重力魔法、負荷倍増(ロード)。ルーンを俺自身に書いた途端に烏が手を滑らせた。


「あ、落ちる」


 当たり前だけど、重りが増えた今の俺、落下スピードは尋常じゃないことになる。


 直ぐに魔法を解除し、リリスを収納にしまった。


「ガァアアアア!」


 ヤベェ落とした! とでも言いたそうな焦りっぷりを披露しながら烏が俺に向かって急降下する。


 俺も馬鹿じゃない。このままだと烏の餌で終わりだ。


 風のルーンと重力のルーン、風を防ぐための結界を用意。


「fly!」


 空中で俺の体が止まり、一気に逆方向へ向かって飛ぶ。先程の烏の数倍の速度で。


 んー、ソウルの気配はあっちか。


 烏が追い付いてきた。必死だね。


「んじゃギアを上げますか」


 空を蹴って飛ぶ。最初の10倍は出ている筈だ。流石に烏も諦め……てはいないな? 諦め悪っ。


 もう一段階ギアをあげる。


 グングンと引き離されているのに烏はまだ追ってくる。まぁ、もう豆粒くらいにしか見えないけど。


「そもそもなんで烏に捕まってたんだ俺……?」


 今更すぎる疑問。


 それから数分飛行し直ぐに拠点についた。


「あ、どこ行ってたんですか」

「いや、俺にもさっぱり……」

「はぁ?」


 ソウルから話を聞くと、なんでも朝早くに突然外に出ていったのでどこに行くかと問い詰めたところ『行かなければならない場所がある』の一点張りでそのまま出掛けてしまったとか。


「え、どうしよう。全く記憶にございません」

「あんなに切羽詰まった表情してたのにですか」

「なになになに怖い怖い怖い」


 すっごいゾッとしたんだけど⁉


「覚えてないんですか」

「少なくとも夕飯食って寝たところから覚えてない」


 夢遊病の域を越えてるよな⁉


 しかも普通に受け答えしたどころか表情まで動いているとなると寧ろよくそれで寝てんなって話に……


「やだやだやだ怖い」

「おお、ブランか。帰ってきていたんだな? 早朝から何だったのだ?」

「なんにも覚えてない……」


 起きたら鳥にガッツリ掴まれてたというところから話すと二人とも目が半目になっていく。


「う、嘘じゃないって! 情報屋の名に懸けてそれは嘘じゃない!」


 だって起きたら雲の上だったんだって。怖いのなんのって。


「まずよくあの状況で俺逃げるって判断にでたよな」

「いやそれは知りませんよ……」


 しかも結構疲れた。


「っていうか俺が外に出てくって言ったとき違和感感じ無かったの?」

「「あー……」」

「それはどっちだ」


 はいなのかいいえなのか。


「なんかやけにお淑やかな言い方だったな」

「ごきげんよう、とか言いかけてましたね」

「お前ら寧ろなんでそこで気づかない⁉」


 脳内に俺が柔らかな笑みを浮かべて御機嫌よう、と挨拶している姿を想像し、本気で気持ち悪いと思った。


「っていうかそれ誰だよ……」


 辟易とするしかないだろう。


「まぁでも帰ってこられたならそれでいいじゃないですか」

「雑だなお前ら……少しは心配してくれ」


 一応俺婚約者よ? 女だよそれ以前に。誰よりも女っぽくはないけど。寧ろソウルの方が女性っぽい性格してるよな。


「あー、もういいや。なんか頭のなかこんがらがってきた。ちょっと散歩してくる」

「では私も同行いたします」


 スッと出てきたのはライトだった。


「別に俺に合わせんでもいいよ?」

「いえ、どちらにせよ散歩ならば適当に歩かれるのでしょう? 買い出しもありますし、近頃体が鈍っているので一試合お願いしたいのですが」

「ああ、そういうことね。いいよ」


 靴を履いてライトを待つ。すると何人かのメイドが横を挨拶をしながら通っていく。


 ………見覚えないの3人居たな。


【今気付いたの?】


 あ、リリス! 忘れてた。お前なら俺がなんで烏に掴まれて空飛んでたかわかるよな?


【何の話?】

「え?」


 何の話って、お前見てたんだろ?


【?】


 え、どういうこと? リリスでさえも知らないって一体なにが……


「お待たせいたしました」

「おう」


 いつもよりラフな(それでもなんかスーツっぽい)格好のライトが扉を開けてくれたので外に出る。


 綺麗に切り揃えられた石の道を二人で歩く。


「本当にこの町は歩きやすいよな」

「そうですね。平らですし石畳も綺麗に噛み合っていて挟まったり躓いたりしませんし」


 道や水も綺麗だし、観光名所なのも頷ける。壁がないのも開放感があっていいよな。


「で、ライトが行きたいのは何処だっけ?」

「食料と香辛料、それとペンのインクですね」

「確か……こっちに文房具屋あったな」


 角を二つ曲がると文房具屋があった。


 前ここに粘土を買いに来たんだ。魔法の練習で使った。


 扉を開けるとカランカラン、と可愛らしい鈴の音がなる。


「インクは……ああ、あったぞ」


 ライトがよく使ってるのはこれだっけ。


「ありがとうございます」


 俺もちょっと見て回りたいな。ライトにそう伝えて店内を回る。


「……? なんか見覚えがある気がする」


 小さなナイフ、それも彫刻用のやつだ。まぁでも俺も少し位はもの作りするし、買っとこう。


 手に取ってみるとやっぱり初めての触り心地なのにどこか見覚えがある。


 最近こういうのが多いな俺。ボケ初めてんのかな、この年で。


 カウンターにインクとナイフを置いてお金を払う。


「1イルクと30アルクだよ」


 おう、思ったより高いな。ナイフよりもインクの方が高いのに少し驚いた。


 銀貨一枚と銅貨を3枚出して商品を受け取った。


「わ、私が払いますよ⁉」

「いいよいいよ。どうせ金には困ってないんだし」


 インクとナイフを収納しながらそう言うがなんか納得いかないらしい。


「ですが」

「いいんだって。んじゃ次は香辛料だな」


 いい店あったかな。


 あ、そういや唐辛子の粉末売ってる店あったな。胡椒とかもあったと思うけど……


 ?


「どうした?」


 ライトが突然立ち止まった。


「いえ、不甲斐ないなと思いまして」

「なにが?」

「いつもお役にたてていないので……」


 なに言ってんだよ。


「凄い助かってるぞ?」

「ですが……主が一番大変なときにはいつもお役にたてず」

「突然どうしたんだよ」


 寧ろ自分が全く役に立ててないなと苦悶する毎日だよ。周りが優秀過ぎるんだもん。

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