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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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八十四日目 カレー大人気

「先程の痺れたのは一体?」

「君、右手から斬りかかる癖あるでしょ? だからあの辺りに力が入ってるんじゃないかなって思って」


 何かを物で殴ったときには自分にも反動がくるだろ? あれを大きくしたやつを一瞬感じるようにしただけ。


 武器も持てないくらいに手が痺れている筈だ。俺もそれなりの反動は受ける技だけどね。


「貴重なお時間をありがとうございました」

「いや、俺も勉強になったよ。ありがとう」


 握手をして離れた。


 帰ってみるとゼクスが感心していた。


「ブラックってやっぱり凄いんだな……」

「いや、俺だって多分まだまだだよ。この前も危うく拉致されそうになったし」

「拉致⁉」

「よくあることだぞ」

「よくあるんだ……」


 俺にとってはな。仕事にいけば大体一回は拉致られそうになる。ま、叩き潰してるけど。


 ……数人、本当の意味で叩き潰してしまったが。


【あの股間を本当に潰しちゃった子達でしょ?】


 人の回想に勝手に入ってくるなよ。


【あら、いいんじゃない。それにしても不憫だったわねぇ。でもまぁいいんじゃない? 本人も幸せそうだったし】


 その言い方だと誤解されかねんぞ?


 俺が股間を叩き潰しちゃったやつらは今アレックスさんみたいになってるんだよね……うん。


 なんなんだろうね。引っ込むと女になろうとするのかな。


「どうしたの?」

「へぁっ⁉ あ、いや、なんでもない」


 変なこと考えたら馬鹿になる。やめとこう。うん。忘れよう。


「ブラック」

「ん?」

「俺のパーティに来てくれないか?」

「ははは、そいつは無理だな。俺は冒険者資格永久剥奪されてるし、それ以前に仕事がある」

「そっか、そうだよな」


 昔、いつか強くなったらパーティに入れてやるって言ってたのまだ覚えてたんだな。


「気持ちだけもらっとくよ」

「じゃあ今度来たらまた剣を教えてくれ」

「おう。それぐらいでよければ付き合うぜ」

「ありがとう」


 なんか誰かと被る反応するんだよな……あ。レクスだ。


「なんで突然笑う」

「いや、ウィルドーズにレクスっていうお前と似たような名前のやつがいてな。反応がそっくりだ」


 クスクスと笑うとちょっと不機嫌そうな顔をして、そっぽを向いた。


「ブラックっていつもそうだよな。なに考えてるかわからない」

「良く言われるよそれ。特に王族から」

「王族ってどれくらい仲がいいんだ?」

「ただの友人だよ。たまに互いの家で茶を飲む程度さ」


 そう言うとゼクスが長い溜め息をつく。


「なんかブラックが遠い存在になったみたいだ」

「何言ってんだ、俺こんなに近くにいるぞ?」


 ゼクスの頬をつまんで伸ばす。


「い、いひゃいいひゃい」

「ははは、引っ掛かったー‼」

「ちょ、狡いぞブラック‼」


 孤児院に帰るまで、鬼ごっこを続けた。孤児院についた頃にはゼクスはへろへろになっていた。


 で、夜。


「はーい、皆並んで並んで。押すと溢れるから順番にな」


 今俺はこの前の夜営で好評だったカレーを振る舞っている。この世界の人の口にも合うようだったし肉も野菜もとれるしな。


 食べ盛りの子供たちには嬉しいだろう。


「ここ、こんなに、い、いいんですか?」

「前よりスムーズに話せるようになりましたね……全然いいですよ。自分もそれなりに食べ物をせがまれて嬉しかったものですから」


 作るのは嫌いじゃないんだ。後片付けが面倒なだけで。


「そんじゃあ皆手を合わせて。いただきます」

「「「いただきます!」」」


 見たこともない食べ物にも子供たちは臆せずがっつき始めた。すげぇ。食いつきっぷりが。


 あ、子供用に甘口にしてあるぜ。


「おいしい!」

「こんなのはじめて食べた」

「色は変だけどいい匂い!」


 うんうん。皆たくさん食べてくれたまえ。俺はスプーン五杯で十分だ。


「お代わりは沢山あるから慌てなくていいぞー」


 俺がそう呼び掛けるとゼクスがスプーンをくわえたままこっちに来た。既に皿は空っぽ。


「お代り」

「早いなお前⁉」


 飲んだの⁉ ッてくらい早いよ⁉


「はい、追加な」

「ブラックはいいのか?」

「まぁ俺燃費いいから。もう腹一杯」

「一番チビのキルシュでもその倍はあるのに?」

「色々あんのさ。ほら、座って食べないと行儀悪いぞ」


 続々とおかわりを要求する子供たちを相手しながらどんどん注いでいくと思ったより減るペースが早い。


 結構な量作ったと思うんだが。


「す、すみません。お、おかわ、おかわりを」

「先生一番食べてらっしゃるんじゃないですか……?」


 注ぐけど食い過ぎじゃない? ゼクスとタメはってるよ?


「あ、あと二、三人だ」


 そう呟いた瞬間、全員の目がギラリと光った。鍋に目が釘付けになっている。


「「「お代わり‼」」」

「いや、もうそんなにないよ。ジャンケンして三人決めて」


 三人決まった。そこまで真剣にならんでもいいのに……。









「そんじゃ、またなー」


 手を振ると孤児院の子供たちが手を振りかえしてくる。


「バイバーイ!」

「また来てねー」

「約束忘れんなよブラック‼」

「またお土産持ってきてねー」

「カレーも‼」

「わたあめ今度たべたーい!」


 お前ら食い意地で生きてるのか。


 後半ほぼ食べ物の催促だろあれ。


「いやー、子供には敵わんなぁ……」


【あら、貴方も子供じゃないの?】


 もう俺大人だよ。19才だよ。


 車の免許だってとれるし選挙権もある。もう少しすればお酒もタバコも解禁される。ま、タバコは吸う気ないけど。臭いが駄目なんだよね。


 ……そっか、俺もう19なんだ……


 日本はどうなってんのかな。ずっと考えないようにしてきたけど、俺にだって勿論友達はいるし、ギルメンのやつらもいる。


 会いたいなぁ……。


 こっちのあれこれが終わらないと帰れないんだろうけど。


 もし帰ることになったらレクスやエルヴィン達はどうなるんだろう。この世界はゲームの中ではない。簡単に言うならゲームの世界のパラレルワールド。


 リリスや使い魔のライト達は一緒に帰れるとしても、ここで出会った人達はどうなるんだろう。


 そのまま二度と会うこともなく平行して時間が進んでいってしまうんだろうか。


 そう思うと。帰りたくない気も、しないわけではない。


 日本よりこっちの方が俺にはあっているんだと思うでもそれは逃げだ。人間関係が上手く行かないからって俺があっちを蔑ろにしているだけだ。


「俺はどうすればいいのかな……」


 天を仰ぐと流れ星が空を横切っていったのが見えた。

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