八十三日目 懐かしの孤児院
「ブラック!」
「おう、久し振りだな。随分背が伸びたんじゃないか?」
町について孤児院へ行った。あのエルダートレントの件の時の孤児院だ。
「俺冒険者になったんだぜ!」
「ほう? ランクは?」
「まだFだけどもっともっと強くなってSランクになるんだ」
「それはいい心がけだな。頑張れ」
それにしてもなんか見覚えのある顔立ちなんだよなぁ……ま、いいか。
子供達と鬼ごっこをして遊んでいると、
「ブラックっていつまで町にいるんだ?」
「ここは通り道だからなぁ。明日にはもう出るよ」
「ええ、そんなに早く⁉」
「俺も仕事が忙しいの」
小さい子から速足で逃げながらそう話す。走ると足の長さとかで全然追い付けないからって俺は駆け足も禁止になっている。
誰が気づいてるだろうか? リアル鬼ごっこしてるんだよ実は。俺鬼族だからね一応。
「仲間を見せたかったのに……」
「? 孤児院の子達じゃないのか?」
「まぁ、そうなんだけど。二人だけギルドで会ってパーティに入ってるやつがいるんだ」
「へー」
俺は最初から固定メンバーだった上に数日も経たず辞めちゃったからそういうことがあるとは知らなかった。
「貼り紙で募集するんだよ」
「そうか……」
なんか見掛けたことあるかもしれん。気にしてなかったけど。
「はい、ブラックの兄ちゃん鬼ー‼」
「あっ、やられた! ちょっと待ってろお前らー」
「キャハハハハ!」
ボケッと考え事していたら太ももにタッチされた。
早歩きで追いかけてタッチしてからゼクスの所へ戻る。
「これが本当の鬼ごっこだよゼクス」
「なに言ってるんだ?」
「いや、なんでもない。それよりもし時間があるなら少しくらい手合わせしようか?」
そう言うとキョトンとしたような顔になる。
「いいの?」
「どうせこの町ではやることもなくて暇だし俺は構わないけど?」
「やった! 頼むよブラック!」
おお、予想以上に喜んでいる……
「そんなに喜ぶことか?」
「だって白黒のブラックに指導してもらえるなんて普通ないし」
「まぁ、そりゃあそうだけど」
俺も教えないし。
「どっか開けたいい感じの場所はないかな」
「あ、じゃあ……」
とゼクスに連れてこられて冒険者ギルドの中。
「お、俺ここに居るの気まずいんだけど……」
何せたった数日で『ケッ、やってらんねぇぜ!』的なこと言って地味に迷惑かけたし……。
幸い今日はお休みだったのかアレックスさんはいなかったけど。
「バレなきゃ大丈夫だって」
「そ、そうか……」
念のためにフードを被る。けど多分これ服装でバレる。
「ブラックって剣士?」
「一応なんでもできるけどどれの対策を知りたいとかある?」
「じゃあ槍を」
「了解」
収納から刃を鋳潰してある槍を取り出す。
「それじゃあ好きなように攻めてごらん」
「はぁあああ!」
「槍はね、長さを生かすために大抵は突きをしてくる」
ゼクスの剣の先端を軽く弾くと驚いた顔をして剣を見た。
「今なんか凄い変な感じがした……」
「重心をついたからね。で、槍の対処法だけど槍は点で攻撃を仕掛けてくる。逆に言えば刃があるのは尖端だけ。そこさえ抜けてしまえば一気に懐に飛び込めばいい」
やってごらん、と言って少し遅めに槍を突くと、ゼクスは剣の腹で尖端の向きをほんの少しだけ逸らしてその勢いのまま低い体制で一気に入り込んできた。
「そう、そんな感じ。だけどこうやって防がれることもあるかもしれない」
胴を狙って動かされていく剣より奥にある穂先を地面に突き刺して腕の力だけで体を持ち上げ、棒高跳びの要領で跳躍しすれ違うときに首に指でトン、とつついて地面に降りる。
「えええええ」
「ま、これが咄嗟の判断でできる人は少ないかもしれないけどね。少なくとも今の一瞬でゼクスは一回死んでるよ。ここが戦場ならね」
そんな避け方すると思わねーじゃん、とぶつくさ言うゼクスに剣の使い方をもう一度教える。
剣の腹で刃を逸らすのはいい判断だけどもし敵が口でも魔法を詠唱できる人だったらその間にやられてしまう。
ま、そう言うやつの対処法を細かく説明、実践を交えて反省点と良かったところを二人で話し合う。
気付けば二時間経っていた。
「さてと、こんなもんかな?」
「凄いねブラックは……もう疲れた」
「ははは」
ゼクスに飲み物を渡して休憩し、孤児院へ帰ろうと立ち上がった……その時。
「あ、あの‼」
訓練場の入り口付近に女の子が立っていた。多分俺は知らない。
「今の訓練見てました……かなりの腕の槍使いなんですね」
「自分槍使いじゃないですよ? 普段は剣や魔法で戦っているので。たまに使うだけです」
本当、槍なんて久し振りに握った。
すると女の子が二本の剣を握って、
「戦って、貰えませんか? 勿論剣でいいので」
「もう帰ろうかと思ってたんですが……」
「ブラック。どうせ暇ならやってあげてよ」
「どうせ暇とか言うな」
間違ってないけど。
「わかったよ。一回だけね」
刃引きをしてある剣を一本取り出して訓練場の真ん中に行く。
「じゃあ剣以外の使用は禁止、致命傷になりそうな攻撃もなしで」
「はい。お願いしますね」
互いに礼をして剣を構える。彼女は二刀流のようだ。
「ハァァアアッ!」
「わっ、びっくりした」
突然飛び込んできた。これは舐めてかかると危険だな。
剣筋が二本、重なるように同時に動く。
防ぐ度にキンキンッと軽快な金属音。
「ふっ!」
「ひゃっ」
逆手にもって柄でグリップの上辺りを弾くと一瞬取り落としそうになったようで握り直してから一旦離脱した。訓練だし深追いはしない。
「ひゅー、中々ヒヤッとするところもあるね」
「それを全部防がれるのですからこちらの背も立ちませんわ」
二本の剣をクロスして再び回り込むように剣を当ててくる。
一本を逸らしてもう一本に当てたりしてるけど手数は段違いだな。ただ、両手でそれなりの重量のあるものを扱っているから隙も大きい。
「よっ」
「ハァッ!」
んー、中段は防がれたか。カウンターはまだ使ってないけど多分見切られる。
ガキン、と中心で三本の剣がぶつかり合い火花が散る。
一本で止められてもう一本で攻撃されては不味いので下から剣を回転させるようにしてクロスしてある部分を左右に弾き飛ばし、一旦後退する。
「まるで二刀流の戦いを熟知しているような動きですね」
「ははは。まぁ、仲間に数人居たからな。二刀流」
俺も一時期それだったけど使いづらくて止めた。
彼女の息が整うのを待って、もう一度踏み込む。
斬り上げ、袈裟斬り、中段突き。全て防がれる。俺も本気じゃないからかもしれないけど本当にこの子強い。
魔法なしで戦うのは割りと大変かもね。
剣の右、中央より少し下を突くと彼女が剣から手を離した。そのまま剣を喉元に当てて、
「はい、俺の勝ち」
「……参りました」
左手の剣を腰にしまいながら肩を竦めた。




