八十一日目 メイド馬車集団
「じゃあなイベル。シシリーに作法を教えてもらえよ」
「うん。行ってらっしゃい」
イベルと数人のメイドを家の管理に残して俺達は次の町に拠点を移すことにした。
ついでに言えば………
「たまには王城にも来るんだぞ、婚約者よ!」
レクスも見送りに来ている。
一瞬ついてくるとか言うのかなと思ったら『やるべきことを終え、強くなったらブラックを迎えに行く。それまで暫しの別れだ!』とか泣きじゃくりながら言ってきた。
鼻水さえなければ格好がついた台詞なんだとは思う。
多分ゼインに言われたんじゃないかな? 強くなるまではついていくのは禁止だ、みたいなこと。
「はいはい、通るときに寄るから」
「その時には白馬に乗って迎えに行くからな!」
「ああ、うん頑張って」
ネタが古いなぁ。白馬の王子様って。
「さてと、行こうかレイジュ」
「ブルルルルル!」
久し振りの出番でレイジュもご機嫌だ。
俺の使っている亜竜車の後ろには三台馬車が並んでいる。
誰だって? メイドだよ。
移動の時くらい大変だからメイド服きっちり着こなさなくていいと思うんだけど全員バッチリとメイド服を装備している。
こう考えるとこの集団行列カオスだよな……
町の中を進むだけで人の目が集まる。そりゃそうだよ。いたるところにメイドがいるんだもん。
周囲の護衛でさえメイド。見張り台にもメイド。御者にもメイド。なかにいるのもメイド。
一番前で普通に御者してる俺が寧ろ目立つくらいにメイド。
周囲からの目を向けられながら門を出て南に向かう。
ガタゴトガタゴトとかなり車輪は揺れているがこの馬車、全部俺が作った。まぁつまり現代日本の技術が使われている。
サスもそれなりにいいもの使ってるぜ。
それにしても道行く人絶対に一回は俺達の事ガン見するんだよな……そんなに異様なのか?
チラ、と後ろを確認。
メイドメイドメイドメイドメイドメイドメイドメイドメイドメイドメイドメイドメイドメイド。
うん、これは目立つわ。
特にメイド服なんて日常生活であまりお目にかかれないものだしフリッフリモノトーンのワンピースが余計に目に入ってくる。
そして少したってからの休憩中。
馬の世話や馬車の整備点検をしていると近くの原っぱで野宿をしていたのか、冒険者らしき人が近付いてきた。
「お、おい、兄ちゃん」
「はい、なんでしょう?」
もう兄ちゃんって呼ばれることが多すぎてそれがデフォルトになってきてる気がする。
「この集団はなんなんだ?」
「ただの引っ越しです」
「何人使用人雇ってんだよ」
「自分もあまり把握していないんですよね……気付いたら一人増えてるとかよくありますし」
挨拶されて返したけど、あれ? あの人見たことないな? ってなることがたまにある。
それだからいつの間にか人が減っているということも……ない。それはない。増える一方で絶対に減らない。
俺の世話をしてくれる人っていうよりまるで俺を信仰する宗教集団みたいになっている。
「一人くらい譲って欲しいもんだな……」
「自分も皆には好きにしていいよって言うんですけどほぼ100パーセントの確率でメイドに……」
そう考えると怖いな。自分の意思で入ってきてるからいいけどまるで洗脳しているような気分になる。
「が、頑張れよ……?」
「ありがとうございます……?」
励まされることなのだろうか?
「マスター、整備終了しました。いかがなさいましょう?」
「じゃあ準備しておいて。もう少しで馬の世話の方も片付くだろうし」
「承知いたしました」
そのやり取りを聞いていたのか冒険者の人が、
「じゃあな、頑張れよ兄ちゃん」
「はい。ありがとうございます」
レイジュの毛をブラッシングしていると全員の準備が整ったという連絡が入った。
「じゃあ行くぞー」
「「「はい!」」」
気合い入りすぎじゃないすか?
「よし、ここまで進めばいいだろ。今日はここで野宿しようか」
「「「はい!」」」
収納から食べ物やら机やらを取り出しているとピネが頭の上に乗った。
『便利よね、相変わらず』
「確かになー」
『それがあるから夜が更けてもある程度進めるし美味しいご飯も食べられるし』
そう、普通は真っ暗になればテントを建てるのも難しくなるので夕暮れ時には移動をやめて夜営の準備をしなければならない。
俺達の場合、テントは以前大量にポイントショップで買ったカプセルテントだったりを全員に支給してある。
もしも俺とはぐれてもなんとか数日間は生きられるようにと寝る場所や簡単な食料は全員に持ち歩いてもらっている。
食べ物についてだが、俺が調理台をそのまま持ち出せるので屋外で料理可能。相当便利です。
「それでは調理を開始します」
手術を開始します、みたいなノリで料理が作られていく。一言も言葉を交わしていないのにそれぞれが役割を理解しているようで、二つしかないコンロに人が殺到することはない。
流れ作業のように料理が進んでいく。
な、なんか怖い……
メイドの料理風景を見ていても仕方がないのでシャワーを浴びた。浄化の魔法を一回かけるよりシャワーで全身洗う方が実は消費魔力は少ない。
水を大量に使ってるからシャワーの方が疲れそうだけどね。
魔力の供給はピネにしてもらった。
俺の後に数人が入れ替わり立ち替わりしていたらいつの間にか料理が出来ていた。
「あれ、こんな肉あったっけ?」
「先程そこの森で狩って参りました」
このメイド達恐ろしすぎる。有能すぎて怖い。
「あ、ありがとうね……」
「……お嫌いでしたか?」
「いや、そういう訳じゃなくて全部してもらって悪いなぁ、と」
そう言うと周囲に立つメイド達の目がフッと穏やかになる。というか、全員同じ表情になる。
「いえ、私共はマスターの所有物ですので、当然でございます」
こういう言葉を素で言っちゃうんだよね……お嫁にいきたくてもいけないよなぁ……
しかも全員同じ表情だから余計に怖い。
「いや、ほどほどでいいからね? 疲れない程度で」
「勿論でございます」
本当にこのメイド達は尊敬する。暴食を使ったときの俺以上に体力があるんじゃないだろうか。




