八日目 リアルでの初対面
会って即告白って今時の子はどうなってんの。
いや俺も今時の子なんだけど。
でも、よくよく考えてみたらもう全世界にヒメノの告白は見せつけられてるし、今さらっちゃ今更。
「えっと………」
「僕が一生養います!」
「なんかめっちゃ必死⁉」
とんでもなく俺に惚れてくれてるみたいなんだけど、あれはセドリックであって俺ではないというか………いやまぁセドリックも俺なんだけど………。
「流石に即決できるほど付き合いは長くないかと………」
「ギルマスと会って今年で5年目ですよ」
「ああ、うん。ソウデスネ……」
もう普通に付き合い長いわ俺たち。
「今ここで決めるのはこの先ゲームする身でもギクシャクしそうなので……少しだけお話、しませんか?」
「あ、は、はい! ギルマスに会えて嬉しくて………」
なんだこの可愛い動物。ヒメノは一旦飲み物を取りに行った。よしこれで飯が食え………
「ギルマスがこのゲーム始めたのって幾つですか⁉」
「LI○E交換してください‼」
「ギルマスのお家ってどの辺りにあるんですか⁉」
飯が! 飯が食えねぇ‼ 俺腹へってんだけど。っていうかこんなに人に囲まれたら抜け出せん。
「はいはいお前らー。ギルマス泣きそうだぞ」
泣かねぇよ‼ っていうか誰だよ‼
「リアルでは初めましてギルマス。ルートベルクだ」
「…………は?」
あのド変人がこのいかにも仕事できそうなおじさん?
「大体リアルでは驚かれるんだよ。まぁ、ギルマスが女でしかも高校生ってことには驚いたけど」
「家族にバレないように自分とはかけ離れた容姿にしてったらあんな風になっただけです………」
「そっか。じゃあいつもの態度もキャラ?」
「いや、あれは素で…………元々あんな性格だから、男の方が良いのかも知れないんですけど」
「じゃあここではいつものギルマスでいいんじゃない?」
え?
「どうせ皆ギルマスのことは知ってるし、隠したって無駄だと思うよ」
「それは、確かに………」
「それにギルマスのイメージって股大開きにしてガバガバ酒飲んでる感じだから今のままじゃ調子狂うかな」
「俺そんなにだらしないか⁉」
ちょっと傷ついたぞそれ。俺ってそんな風に見えてたんだ………っていうかそこまで股開いてたっけ?
「ま、今のは半分冗談だけど」
「おい」
「まぁでもそんな感じで良いよ。ギルマスは。そっち方が良い」
「どうかなぁ………」
今時の女子高生からみたら俺は落第点だ。ネナベでゲームしてるなんて、普通はないし。
「でも、可愛らしい女の子の顔でその口調だとあんまりモテないかもしれないよね」
前言撤回。こいつルートベルクだ。
「っと、ごゆっくり」
ヒメノが帰ってきた。手にはグレープジュースとオレンジジュースが握られている。
「ごめん、なに飲むか聞かずに行っちゃったから適当に持ってきちゃった」
うん。それ俺も思った。
「どっちでも大丈夫で………大丈夫だ。俺未成年だから酒は飲めないけどな」
「あ、なんかギルマスっぽい」
ちょっと顔が赤くなった気がするけど気にしない、気にしない。ヒメノからグレープジュースを受け取って飲む。
「それにしてもギルマスってダイエットしてる?」
「いや、してないけど」
「それにしては痩せてるね。そういう体質?」
「いや、食べてないだけ」
言うかどうか迷ったけど、こいつには話そう。話したい。いつものバーチャル越しでしか話したことなかったけど、俺もこいつにはなんでも話せるような気になっている。
「………ドラゴン・ファイアってゲーム知ってるか?」
「ああ、昔やってたよ」
「俺さぁ、あれの日本代表になる筈だったんだよね」
ヒメノが驚いた顔をする。話したことなかったしな。
「筈だったって?」
「俺の親………ってか父親が滅茶苦茶厳しい人でさ。ゲームしてることとそれの世界大会に出るってことを自分から話しちゃって。目の前で壊されるのを見てることしかできなかった」
人間不信になったなぁ、あれは。
「勿論世界大会には行けなかった。けど、それよりも残ってる言葉があってさ」
パスタを飲み込んでから話した。
「『お前はうちの恥さらしだ』ってね。そこまで名門でもない癖に、天才の姉と妹がいるから俺の評価なんて不良品、失敗作だよ」
そこまで言ってしまえば、もうあとは怖くない。
「俺はどれだけ頑張っても二番にしかなれないんだよ。だからゲームに逃げた。身に付いたものは消えることはないし、身に付ければ身に付けるほど強くなれる。こんな単純なもの、他にはない」
言っていて、わかった。ああ、俺は父親を恨んでいただけじゃない。認めてほしかったんだ。ゲームをすることと、その楽しさを。
勿論恨んでるし、多分一生感情の共有はできない。けど、それだけじゃなかったんだ、俺。
「っと、ごめんな。面白くない話して。忘れてくれ。それにしてもこのケーキ旨いんだよ」
「ギルマス」
「ん?」
「もっと早く言ってくれれば良かったのに………」
「ちょ、なんでお前が泣く⁉」
涙脆いのかヒメノは⁉ ああ、もう服濡らしちゃって………
「なんかギルマスがおかんみたいな……」
「誰がおかんだ!」
そこの野次馬煩いぞ!
「ギルマスゥゥウウ」
「汚え! 拭け!」
ハンカチで涙を拭く。リアルとゲームでここまで違うとは………
「それで? どうした突然」
「だってギルマスが可哀想で………」
「ヒメノに心配されてもなぁ………」
見れば周りにいた野次馬共も泣いていた。
「なんだよお前ら揃いも揃って⁉」
「ギルマス、悲しい子供時代だったんですね」
「哀れむの止めてくんない⁉」
俺まで悲しくなってくるだろうが!
「ギルマス」
「なに。っていうかちゃんと拭いた?」
「僕やっぱり一生養います」
「だから重いんだって! なにその無駄なまでに絶大な信頼感‼ どこから出てきたんだよ⁉」
俺が突っ込み要員に混じらなきゃいけないほどこの場はボケしかいなかった。
「まぁ、でも絶大な信頼感ってのは納得だ」
「ダイテーク……」
「俺達の中で一番最初にパーティの話を持ちかけたのってギルマスとヒメノだろ?」
「んー? そうだっけ?」
あの頃のことあんまり覚えてないんだよな。必死だったっていうか。なんていうか。
「だから親愛メーター振りきってて当然なんだよ、ギルマスは」
「そういうもんかなぁ」
「そうだって」
ていうかこいつらなんとかしようぜ。グスグス、ズビズビ煩いぞ。
「っていうか今気付いたんだけど………俺が一番年下?」
「このゲーム自体大人向けだしなぁ。飲み物とか殆ど酒だし」
「それもそうか」
だから俺みたいな奴がガバガバ酒飲めるんだけどな。現実はストローでグレープジュース飲んでるけど。
「あ、そうそう。気になってたんだけど」
「ん?」
「ギルマスのアバターってあれ何かに影響されてる?」
「さぁ。とりあえずバレないようにって俺とは真逆の要素を入れてったらああなったっていうか」
家族にバレるのは絶対にアウトだ。だから仕方なく男にしてみたんだけど、
「男の方が思ったよりはまってたんだよなぁ」
「ああ、うん。だろうな。今の方が違和感あるし」
キャッキャウフフしてる高校生じゃなくて悪かったな。
「ギルマスって彼氏いんの?」
「居るわけないだろ」
「即答」
「だって趣味がゲームでネナベな時点で中々ないだろう。出会いが。出会いが」
「クラスとかは」
「あー、俺のクラスほぼ女子なんだよね」
数人いるけどな、男子。
「え、女子校?」
「いや、音楽科」
「スゲェ!」
「そこまでやってることは普通科と変わらないけどな」
「何やってる?」
「歌。声楽専攻だな」
オペラとか、そんな感じの。
「歌ってよ」
「嫌に決まってるだろ。誰が歌うか」
「ケチだな」
「言ってろ」