七十七日目 俺の家の中の立場がとんでもないことになってる気がする
なんだったんだろうあの人……
「じ、自爆でしょうか」
「いや……逃げられました。結界に穴開けて出られるとは迂闊でした」
あの爆発で結界は上から半分が大破、ギリギリで追加の結界を重ねて維持し、周辺の被害は免れた。
土魔法でボロボロになった石畳を直す。まだまだ魔力には余裕があるが、喉が乾いたな……
「ブラン! なんなんだ先程の光は⁉ レイジュが怯えて帰ってきたので心配したぞ」
「ああ、ごめん。なんか襲われたんだけど逃げられた」
「ブランが逃がすとは一体どんな化け物だ」
「えっと、個人の戦闘力はほぼないと思う。ガードも下手だったし隙だらけだったし」
ただ、俺からすればとんでもなく相性が悪い。
「最初尾行に気づけなかった。多分十分くらいだけど」
「何らかの魔法具か」
「だと思う。それと、予備動作も音も無しにハイグラスウルフの風魔法並みの破壊力の攻撃をしてくる」
「ハイグラスウルフ……A級か」
「その攻撃だけで判断したら特S級の魔物より戦うのは難しいと思う。いつくるかわからないし普通に強いから」
エルヴィンが首をかしげた。
「では何故ブランはわかった?」
「勘で対応した。この辺にくる気がする、って思ったところを片っ端から防御してた」
「それはブランしかできないな……」
うん。だから俺以外の人間からしたら脅威でしかないね。簡単な防御魔法じゃ防げないし。
「速度は」
「少なくとも俺の氷弾弾き壊せる程度の速さはある」
「そうか………厄介なやつを取り逃がしたな」
「結界で囲ってたんだけどな。あれはちょっと防ぎきれんかった」
それと、喉が乾いた………
「無茶するな。心配するこちらの身にもなれ」
「そういわれても不可抗力だから………」
リリスをしまってから立ち上がろうとして、しゃがみこんでしまった。
「あ、ダメだ……」
「全く……」
「あ、ちょ、わっ⁉」
背中と膝に手を当てて持ち上げられる。まぁ、要するにお姫様抱っこってやつなんだけど、せめて背負って欲しい。
「これはマジで恥ずいから!」
「何をいっている? いつも倒れたときはこうやって運んでいるぞ?」
「なんだと……」
まじすか。
それにしてもエルヴィン背が高い。かなり地面から遠い気がする。体の上と下がガッチリ固定されてるから意外と……
「拘束した相手を運ぶならこの運びかたの方がいいのかな……?」
「男にはやめてやれ」
担ぐより自由度は少ないから丁度いいかもしれん。よし、今度やってみよう!
「それより、何があったかしっかり説明してくれるか?」
「ああ、そうだな……とはいっても俺もよく理解できてないんだけど」
運ばれながら事情を説明。
「ふむ、グリフとエルメニア、か」
「え、知ってるのか?」
「神話の類いのあまり確証のないものならな。それは食事の時に話そう」
そのままドアを開けるエルヴィン。
え、これ直ぐそこに人がいたら見られるだろ?
「「「お帰りなさいませ、マスター」」」
「いや、わざわざ全員立っとらんでも……っていうかこの状況にはノータッチなんだね……?」
っていうかいつからいたの君達。
降りようと身をよじらせると何故か抱え直される。
「先に風呂に行った方がいい。砂埃だらけだぞ」
「あー」
確かに俟ってたな……壁づたいに移動したりもしたし、結構汚れてるかも。
「ちょっと降ろして、靴脱ぐから」
「どうぞマスター」
「早すぎない……?」
これ履くのも脱ぐのも結構大変なんだけど……俺がすれ違った瞬間にメイドの一人が流れるような動作で靴を持っていった。
あれ、魔法で毎回殺菌してるんだよな……ありがたいけど凄く申し訳ない。自分で自分のことできない人みたいじゃん……
いや、事実この家に来るまでの道のり一歩も歩いてねぇ。
「俺やっぱりなんにもできない鼻摘み者なのかな……」
「何をいっているかわからんが……風呂に行くぞ。キリカ、風呂は?」
「準備ができております」
「ご苦労」
なんてこったい。本当に人任せだな俺⁉
しかも俺よりもエルヴィンの方が使用人慣れしてるよね? まぁ、エルヴィンは元々いいところの坊ちゃんみたいだし当たり前なのかもしれないけど。
っていうかそろそろ降りたいんだけど。
「えっと、エルヴィン? 俺もう大丈夫だから」
「途中で倒れられてはこちらが困る。厚意はありがたく受け取っておくべきだと思うぞ」
「いや、うん。そうかもしれないけどね? 良心が痛むっていうか、その、全部人任せってのも」
「それでいいのではないか? 皆がやってくれるなら動く必要はあるまい」
お坊ちゃん理論ですか⁉
来るもの拒まず的な。あ、それはまた違うか?
俺としては厄介者扱いされたくないってのが大きいんだけど。
「! そういや俺この家の管理とか基本全部他人任せじゃん……」
どこの社長だよ。親父はどうだったかって? ハッ、知るか。少なくとも俺の世話は基本お手伝いさんだったな。
「仕事をしているからいいのではないか?」
「仕事とプライベートは別だろ……?」
「それだとブランがずっと動き回っていることになるが」
俺的には別にそれでいいんだけど。そうこうしているうちに風呂場についた。
「では外にいるから風呂から出たら呼べ」
「いやいやいやそれは悪いって⁉」
二十分以上荷物運びとして待たせるとかどんなやつだよ⁉
「別に構わないぞ?」
「俺の良心が痛むから! ほら、もしヤバそうでもこの家にはゴーレム達がいるし! な、な⁉」
「何故そんなに必死なんだ……?」
最悪這っていけばいい。ここの床かなり綺麗だから問題ない。メイド達が毎日二時間おきに床掃除をしてるから‼
………俺、クズで怠惰な生活送ってるなぁ……。
風呂場に入って直ぐに体と頭を洗ってから髪を結ってピンで留め、巨大な浴槽に浸かる。別にこんなに広くなくてもいいのにな。
「……」
あいつは、俺の収納を見てから目付きが少し変わったように見える。あれを見せると大抵は羨ましそうな顔か少し欲深い顔になったりするんだけど、あいつは少し違った。
納得したような表情をしていた。それに手加減していたとはいえ俺の一撃をその場から動かずに受けきったところも不思議だ。
まぁ、股間の痛みには負けたみたいだけど。
「リリス、聞いてるか?」
【ええ、あれの威力を聞きたいのね?】
「そんなところだ。で、どれくらいだした?」
しばらく考え込むような声が頭に響き、
【そうね……節制を使っている間の全力ってところね】
じゃあソウルに思いっきりやられたくらいの威力か。うん、ワイバーンくらいなら余裕で吹き飛ばせるな?
体格差からして吹き飛ばないのはおかしい。
「……あの見たことのない攻撃といい、よく解らんことばかりだ……」
風呂からでて裸足で廊下を歩く。あ、絨毯だから冷たくはないよ。
「スキルでも魔法でもない……格闘術か? でもそれなら予備動作もないのはおかしい……」
ボーッと歩いていたら角で頭をぶつけた。結構痛かった。




