七十五日目 見えない攻撃
婚約者三人とかちょっとがめついっていうか、節操無しだな俺……。しかも一人ショタ。
「あー、なんかどっと疲れた……」
レクスが絡んだ話になると一気に体力が奪われるというかなんというか。
「よくよく考えてみたら俺の周りキャラ濃いな……?」
男装女子、上位悪魔、亜竜の霊獣、ツンデレ精霊、魔神、吸血鬼最後の生残り、最早ヒロイン、ショタ王子。
あと、各国の王族に『マスターこそ至高!』主義のメイド達……
よくよく考えてみると凄い面子だ。
しかも皆何かしら強いっていう……権力も物理的な力も。
そりゃ犯罪ギルドに目をつけられてもしかたないわな。
「んー、散歩でもしてこようかな……」
よし、散歩しよう。どうせ暇だし。
バレないように裏口からこっそりとでて人混みに紛れる。
お腹すいたな……どっかで適当に済ませるか。とは言ってもこの辺の店は冒険者向けの店が多いから量が半端じゃないんだよな。
俺の胃袋かなり小さいらしいしサンドイッチ小さめのを一個くらいどっかに売ってないかな。
適当に歩き回ってフランクフルト的なものを買った。なんの肉かは聞かない。聞いたら最悪食べれなくなる。虫とかだったら無理だから……
んー、微妙。味が薄いなぁ。
ケチャップでもありゃいいんだが……
「ん?」
横を見ると、男の子がこっちをじっと見ている。なんなんだと思ったらどうやらこれが食べたいらしい。
ちょっと動かしてみたら目がこれに固定されてた。
「……おっちゃん。もう一本ちょうだい」
「はいよ」
既に焼けていたから直ぐに貰えた。
それを持ってその子のところに行き、
「食べる?」
「え、でも、えっと……」
「あ、これ苦手だった?」
だとしたらこれどうしよう。収納しておいても冷めるだけだし。
返答に迷っている様子だったので、
「俺、これ一本でお腹一杯なんだ。残しちゃうのは勿体無いから君が食べておいてくれる?」
「い……いいの?」
「いいよ」
必死にそれを頬張る男の子。そんなに慌てて食わんでもいいのに……。
俺とほぼ同じタイミングで食べ終わってるじゃん。
「ねぇ」
「?」
「なんでくれたの?」
「さて、なんでだろうね」
口周りが汚れているその子に浄化をかけて立ち上がる。
全身が綺麗になったことに驚いているようだ。
ちょっと魔力使っちゃったけど、ま、これくらいはいいだろう。
【全然よくないと思うわよ】
煩いなぁ。放置はできねぇよ。
さてと、暇だし小銭稼ぎでもするか?
【いいわね。張り切っちゃうわよ】
程々にしてくれよ、お前使うと喉乾くんだから……
魔力が減りそうだったら月光とかで戦うからな。
【わかってるわよ】
壁門から外にでてレイジュを呼び出す。
「ブルルルル」
「おう。軽く運動するぞ」
首の辺りを撫でてやると、くすぐったそうに身をよじらせた。
「そうだな……あっちに行ってくれ。ある程度進んだら飛んでもいいぞ」
「クルルルル」
しばらく街道沿いに走り、そこから空に浮き上がる。
なんとなく道を見ていると不自然なことに気がついた。
「……なんか人がいなさすぎやしないか? 今まだ十分交易の時間帯なのに商隊のひとつも見当たらない」
「クルルルル?」
ゴーグルをかけて見てみるが、俺達以外にマップ上に光点がひとつもない。
おかしい。魔物すらいないなんて異常だ。
生体反応で確認してみたいがそれをやったら木々や植物にまで反応してしまうから寧ろ光点だらけになる。
一回確認してみるか?
「レイジュ。街道の近くに一旦降りてくれ」
「ブルルルル」
翼で空気を打ちながらゆっくりと下降し、地面に足を下ろす。
なにか変わったところはあるだろうか……?
特にないな。いつも通りだ。他の道はどうなってるんだろう?
「レイジュ。少し大回りをしながら街道を見ていくぞ」
「クルルルル」
もう一度飛び上がり、ぐるっと壁がギリギリ目にはいるくらいの遠さの場所で別の街道も見てみた。
すると、
「北側の街道だけか……」
他の街道には人もいた。が、魔物がいない。
誰かが駆除でもしたのか……?
この町には北側に一本、東と西に二本ずつ、南に一本の街道が通っている。それ以外はほぼ森なんだが上空から見た限りでは全く魔物がいない。
「これ、冒険者が暮らしてけるのか?」
俺みたいに小遣い稼ぎ的な役目で魔物を狩る人ばかりではない。寧ろ俺みたいなのが少数派だ。
それで食っていこうと思っている人も勿論沢山いる。
そういった人たちからすれば迷惑だろう。
「……? まぁ、とりあえず帰るか」
【えー⁉】
「いや、魔物いないのにここにいる意味がないだろう」
もと来た壁門からなかにはいる。一応偵察用ゴーレムは置いてきたけどどうなってるのかな。
首をかしげながら歩いていると違和感を覚えた。
「クルルルル?」
「いや、なんでもない」
俺が一瞬立ち止まりかけたのに気づいたレイジュが心配そうに声をかけてきた。
レイジュの背を撫でながらゴーグルをはめてマップを起動させる。
………やっぱりつけられてるな?
店に入ったりするとわざわざ近くの店に入って時間を潰している。しかも俺も直ぐには気づけなかったし、手練れだな……
【動けないくらいまで?】
いや、そこまでする必要はないだろ。普通に気付いていない振りをし続ければいいからな。
残念ながらどっかの野次馬や貴族共のせいで俺の自宅バレバレだし隠すこともないだろう。
……イベルの件で移動するつもりはなかったが、そろそろ別の国に引っ越した方がいいかもな。頃合いだし。
「レイジュ。帰ろっか」
「ブルルルル」
いつ襲われてもいいように腰にあるリリスの持ち手を掴みながら帰路につく。
まだ襲ってこないな……そろそろ周りに人もいなくなったし直ぐに来るかと思ってたのに。
その瞬間、わざとらしい足音が響いた。つけていたやつはどうやら相当自分の腕を信じているのかそれとも襲いに来た訳じゃないのか自分から居場所を知らせてきた。
俺も直ぐには振り返らない。
「白黒のブラック、だな?」
「……商談ならお断りですよ。生憎今日は休むと決めているので」
「なに、直ぐに話は終わる」
「別日に正規の方法でいらしてください」
嫌な予感がして目の前にリリスをつき出すと何かがリリスに当たって鋭い金属音を鳴らす。
「まさか、不可視の刃を止められるとはな」
「っ……何の真似です?」
正直今のは危なかった。リリスに深く傷が入っている。生身で食らったら防具の防御力でも抜かれてしまうかもしれない。
攻撃が全然見えなかった。勘でなんとなかったけど次はわからない。
念のためにリリスをもう一本取り出して構え、小さくルーンを書いて物理結界を作る。魔法は自分で何とかするしかない。
この攻撃の恐ろしさは見えないだけじゃない。予備動作が全くないのもある。撃たれたことにすら直前まで気づけなかった。
……こいつはヤバイかもしれんな。
リリスを構え直して小さくため息をついた。




