七十一日目 花壇を荒らすと
ーーーーーーーーーー《ブランサイド》
「「「是非、ご検討願いたい」」」
「お断りします。全員っ‼」
扉を閉めて鍵をかける。あー、しつこい。
「またですか」
「まただよ」
ライトが小さくため息をつく。
「買い出しに行く予定だったのですが……変更します」
「すまんな」
「いえ、主のせいではありませんので」
本当、使い魔なのに執事が板についてきたよな……。
家の奥へ入っていくライトを見送って外の様子を窓からチラリと確認する。うっわ……まだまだいるよ……
「ブラン?」
「ん? ああ、イベルか」
本当に神出鬼没だなこいつ。
「あのひとたちだれ?」
「気にすんな。相手しなきゃいいんだ」
「なんでそとでれないの?」
「出れないんじゃない。出ない方がいいってだけだ」
「なにがちがうの?」
「えっとだな……外にいるのが野次馬だけならまだいいんだ。だがな、外にいる半数以上は貴族の使いのやつらだ」
要するに、だ。
「縁談の話の量がヤバイんだよ………」
寧ろあそこにいるやつらほぼ縁談の申し込みだ。
まさか異世界に来て恋人探しに苦戦するどころか縁談の多さに苦戦してるってどういうことだ。
「だれに?」
「俺への縁談だよ……名前だけが一人歩きしてるせいでおかしなことになってやがる。地域によっては性別がそもそも違ったり、年齢が違ったり、面倒なところだと王族ってことになってるし……」
『それだけ王族と縁があるんじゃない』
「俺はなにも嬉しくないからね⁉」
王族と縁があって良かったことってあんまりないよ? 金を沢山もらえるって点ではいいかもしれないけどリスクと天秤にかけたら実はそんなに儲けはないからね?
これまでに何度死んだと思ったか。死んでないけど。
「あいつら皆強かだから俺あんまり好きになれないんだよ」
『強かだからこそ王様やってるんでしょうが。諦めなさい。そういう仕事を選んだのはあんたでしょ』
「わかってるよ」
俺が選んだ仕事だ。だから別にいいんだけど。
その時、手首のブレスレットが光りだした。
「っと、地下室いってくる」
『また?』
「俺だって好きでこんなに働いていないからね?」
地下室で色々と集まってきた情報を纏め、依頼別に分類し、各国の俺の拠点に送る。白黒ネットワークって便利だよな。名前はダサいけど。
家の中にいながら様々な情報が得られる。信憑性があろうとなかろうと自分の目で一回確かめなければいけないんだけどね。
色々と情報を弄っていると、家中の警報機が鳴り響いた。
「?」
地下室から出ると、なんだか慌ただしくメイド達が……
「なんで完全武装?」
「侵入者です。マスター」
「偶々敷地内に入っちゃったんじゃなく?」
「明らかな敵対行動を見せております。何故なら」
「何故なら?」
「お坊っちゃまを人質に捕らえているからです」
へぇ………? ?
なんでこんな悠長にしとんの君ら⁉
「いや、そういうとき真っ先に俺呼ぼうぜ⁉」
「マスターのお手を汚すわけには」
「いや、殺す必要もないし」
とりあえず相手がいるという中庭へ。
うわぁお、本当にイベルが捕まってるよ。
「……お前が、白黒のブラックだな?」
「ええ、まあ」
「一緒に来てもらおうか」
「何故?」
「惚けてんじゃねぇ‼」
男が持っていたバトルアックスでバゴン、と花壇の煉瓦が破壊した。あーあー、キリカが怒るぞ?
イベルは恐怖で固まっているのか、落ち着いているのか。わからないが動く気配はあまりなさそうだな。まぁ、賢明な判断だ。
「お前のせいで俺達が奴隷の生活を送ることになったんだろうがぁ!」
「俺のせいで? ……すまん、心当たりが多すぎて思い出せん」
盗賊団とかの犯罪集団を壊滅させて衛兵に引き渡すなんて数えたことがないほど行ってきた。
「マスター。そんなゴミ屑と話してはなりません。空気が汚れます」
「いや、それは酷いだろ……」
「これくらいの雑魚程度、私一人でなんとかなります」
「あー、うん。なんとかなるとは思うけど」
花畑の中にさらに数人隠れてはいるが、俺が危惧しているのはそれじゃない。
「やめとけシシリー」
「何故?」
「これ以上中庭を荒らしたらキリカが烈火のごとく怒るだろ」
「あ………」
もう踏み荒らされてる時点でこいつらの命はないけど。
「お前には落し前つけてもらうぞ‼」
「落とし前云々の前にちょっと花壇から退いた方がいいと思うよ。俺でさえ花壇には入らないし……」
キリカ怒るとめっちゃ怖いんだもん。
「黙れっ‼ ガキがどうなってもいいのか‼」
「それはちょっと止めて欲しいかなって思うけど。それ以前に落とし前ってなにするつもり?」
「テメェを殺す‼」
「殺す? ………フフフ、アハハハハ!」
シシリーが突然笑いだした。何事かと思ったよ……っていうか今の会話で笑いどころあった? ただただ物騒だったと思うんだけど?
シシリーはひとしきり笑い終えて、目に浮かぶ涙をハンカチで拭いながら、
「傑作です。マスターを殺す? 何をいってるんですかゴミ屑共。マスターには私たちが指一本触れさせませんし、そもそもマスターを殺せるのは龍種でも不可能です」
「いや、そんなことは……あー、でも龍種なら勝てるか……」
反論しようと思ったけど、数ヵ月前に龍を一匹狩ってきたことを思い出した。
近隣の村に被害が出るってんでいってみたら思いの外弱かったんだよな……本人(本龍?)も悪気あってやってたし、ま、倒しちゃってもいいかなって。
この世は我のもの。だからどこから何を盗んでもいいのだー、みたいなこと主張してたし。
それに先に襲いかかってきたのはあっちだからね?
節制は解除したけど暴食を使うまでもなかった。あの龍が弱い方だったってんなら話は別かもしれないけど。
「そんな人間がいてたまるか‼」
「俺の人生全否定だね……?」
まぁ、今俺はもう鬼だけど。
「おいテメェら! さっさとこいつを射ち殺せ‼」
花畑に隠れている仲間に話しかけているようだけど。
「ごめん。話長かったからやっちゃった」
「はっ⁉」
この家には幾つも警備用ゴーレムが置かれている。その中には俺のアニマルゴーレムたちも勿論紛れ込んでいて、
「はーい、よくやったなお前ら」
俺の周囲に飛んできたのはアニマルゴーレム蜂君29号達。蜂君29号は数個で一個の隊として自立して動き、連携を作りながら高速で敵に突っこみ貫通させることによって攻撃をするちょっとおっかないゴーレムだ。
今回はそこまでの威力がでないよう手加減するようにと伝えてあるから昏倒用の毒でも打ち込んだんじゃないかな?
「なんなんだよ、それは……!」
「さぁ、なんでしょう? さぁ蜂君29号達! 頑張ってイベルを救出するのだ!」
蜂の形をしているけど羽音は凄い静か。それが数十匹群れになって一斉に飛んでいくんだから向けられたら結構怖いよね。
「ギャアアアアア⁉」
「はーい、ありがとー」
あっさりイベルを救出した蜂君29号達は暫く男を襲った後、蜜を集めにいった。あれは後日蜂蜜になるのです。数少ないこの世界の甘味だからね。
ゴーレム作ってまで回収する手間は惜しまんさ。
数十分後、中庭から男達の叫び声とキリカの恐ろしい程怒り狂った声が聞こえてきたけど、書類整理をする振りをして無視した。




