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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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六十四日目 不本意に総司令官

 アニマル型ゴーレム、ネズミ君1号で向こうの様子を探り、ため息をつく。


「あっちが、来るようだぜ」

「いよいよか」

「ネベル王、震えておるぞ?」

「こ、これは武者震いじゃっ!」


 なぁ、今凄い事に気づいたんだけど。


「……このテント襲われたら終わりじゃね?」

「「「そうだな(じゃな)」」」


 各国の王と俺がテントの中で作戦会議って、なんか新鮮。いや、いつも通信具越しで話してはいるけど。


「それで良かったのか? 家臣達に反対とか」

「されるに決まっておろうが」

「ふん、臆病なやつらじゃ」

「その割りにはよく見える武者震いですなぁ?」


 こいつら仲良すぎじゃないか? いや、仲が悪いより全然良いんだけど。


「去年まではこんな仲良くなかったよな?」

「お主、自分が何をやったのか忘れたのか?」

「俺?」


 ……? なんかしたっけ?


「各国共通の敵が出来たら共闘するしかあるまいて」

「………俺って敵なのか?」

「貴殿がいると国庫がいくらあっても消えていくのでな」


 あ、情報料っすか。


「俺だって結構危険なことして情報集めてるんだからな?」

「それぐらいわかっておるわ」


 共通の敵が俺なら魔族はなんなんだよ。


「まぁ、いいか……で、各国のお偉いさんよ。兵は言った通りに配置してくれた?」

「ああ」

「抜かりなく」

「勿論だとも」


 各々が頷いて地図の上に各国の旗を模した置物を置く。


「だが、こんなに遠く兵を小出しして攻められないのか?」

「攻めてくるだろうな」

「なっ……⁉」


 なに驚いてるんだよ。そもそも敵が攻めてきてんのに止まるわけないだろ。


「だからここで空城の計くらいでも用いようか。まぁここでは砦だけど」

「以前言っていた城をわざと空けるやつだな?」

「そうだ。だがこれは失敗してもしなくてもいい。食料は全て引き上げてから、下手に深追いせず時間稼ぎを優先してくれ。敵を混乱させることが狙いだからな。そして………」


 ゼインとミルドレッド国の王、ラルンレイト(俺はラルって呼んでる)を指差し、


「ゼイン、ラルの兵は中央をわざとがら空きにし、横を守ってくれ。近くに要塞があるからアルカンドの時みたいに立て籠ってもいい」

「それは構わんが、一気に侵入されるな」

「それは俺が何とかする」


 ………? 何で全員こっち見るんだ?


「お主、病み上がりであろう?」

「もう治ったわ。魔力も十分。血もストックしてある」

「その血のストックは何回分だ?」

「う……2回分」


 二回分っていっても大技使ったら直ぐに一回分無くなることをこいつらは知っている。


「持たぬだろう、確実に」

「だ、だって……献血の概念こっちにはないし……血なんて売ってないし……」


 街中で売ってたら苦労しないよ。


「「「はぁ………」」」

「なんなんだよ揃いも揃って‼」


 ため息つきたいのはこっちだボケ‼


「なんとか持たせるからいいの!」

「そう言って前回の亜人戦争はウィルドーズの右大臣に噛みついたではないか」

「ヴッ………」


 だって喉が乾いて死ぬかと思ったところに来ちゃったんだもん。あんなに美味しそうな匂い普通しないし………


「で、味は」

「最高だった……」


 流石は右大臣様。血も最高級。


「「「はぁ………」」」

「だからため息つくなって‼」


 信用できないのはわかってるよ!


「会議中失礼いたします! 現在魔族が移動を開始したとの連絡が!」

「あー、はい。ありがとうございます。持ち場に戻ってください」

「は、はっ‼」


 あんまり俺たちが驚いてなかったことに驚いてるな。


「侵攻してきたってさ」

「それはお主が最初に言っただろう」

「我が国の諜報員より12分……ふむ。ブラックよ。やはりネベル専属の情報屋にならんか?」

「なっ⁉ 抜け駆けは禁止ですぞネベル王!」


 はいはい。俺を取り合って喧嘩始めるな。


「俺はどこにもつかんと言っただろう。そんなことより……始めるぞ。各国自国の兵を頼む」


 全員が頷いた。


「そういえば、ブラック。貴殿はどう動く?」

「俺は必要があれば遊撃、後は適当に見てるよ」

「そうか」


 俺の『見ている』という言葉の意味を知らないやつはこの中にはいない。


 それにこの戦争はあくまでも人間の領地を守るためのものだ。


 過剰な動きはかえって敵を逆上させる。


「では頼んだぞ、総司令官殿」

「総司令官? その呼ばれ方嫌いなんだけど」


 こう言ってしまったのが不味かった。


「ほう」

「そうなのか」


 なんか全員が厭らしい笑顔をした気がした。


「ではな、総司令官殿!」

「頑張れよ、総司令官殿!」

「血がなくなっても平静でいるんじゃぞ、総司令官殿!」

「お、お前ら………」


 それからことあるごとに戦場で総司令官殿、といわれたのは言うまでもない。


 クッソ、あいつら……今度の情報料予定より一ウルク増やしたろ。









「今のところは順調か……」


 問題はアルカンド要塞からさきの土地だ。ここからさきは一本道ではないのでまっすぐ進んでこない可能性がある。なんとしてでも平原までは誘い込みたいが……


【あら、結局一年前とは真逆のことやってるじゃない】

「確かにな………」


 戦争参加してるな、俺。


 まさか自分から進んでやるなんて。一年もこんな所にいたら考え方も変わってくるわな。


「報告です! アルカンド要塞が突破されました!」

「そうか……」

「そ、そんなに落ち着いていられるんですか……」

「いや、何となく知ってたしな。それにそこは予定していた通りだ。死者は?」

「あ、ありません。ですが重傷者が数名と軽傷者が多数出ております」

「ならよし。回復は急がなくていい。ゆっくり治してやってくれ」

「はっ‼」


 バタバタとテントを出ていった。さて、俺も動きますかね……


「総司令官殿!」

「違うって‼」

「ネベル王から連絡が!」

「……? なんて?」

「これです」


 紙には予定通り進んでいることと、敵の本隊が未だ現れないことを事細かに説明してあった。


「相変わらず足は小鹿なのにマメだな……」

「こ、こじか?」

「いや、なんでもない。了解と伝えておいてくれ」

「はっ‼ 総司令官殿!」

「だから違うって‼」


 あれ絶対俺の反応楽しんでるよね?









「ゼイン、ラル。二手に別れたか?」

「ああ。問題ない」

「此方も準備は出来ている」

「んじゃ、巻き込まれないよう注意しとけよ」


 空中にルーンを書いていく。氷のルーンを中心に風。空間や幻といった所謂特殊属性を交えて。


 確か氷は範囲指定するためにはプラスで火のルーンも必要だから……こうか?


 あ、ヤベェ。ちょっと思ってたより規模がでかくなるかも。


 …………ま、いっか。殺傷性はあまり無いんだし。


 その時、俺のドローンから送られてくる映像に魔族の軍勢が映った。


「うっわぁ……結構な人数で。やっぱり成功報酬倍にしてもらおうかな」


 敵将と思われる人が馬に乗って出てきた。やけに豪奢な鎧つけてるね? 重くないのかな。


「我輩は中央魔王軍少将、ギーク・ベゲッドだ! 貴様は何処の将だ!」


 ………? あ、俺に言ってんのか?


 そりゃそうだよな。平原のど真ん中に突っ立ってるやつなんて将軍に見られてもおかしくはないか。


「情報屋、ブラックだ!」

「情報屋? そんなものがなぜここにいる!」

「戦争を止めに来た‼」


 魔族さん、シーン。


 その直後大爆笑。あ、でも少将さんは笑ってないね?


「貴様、そんな嘘が通じるとでも?」

「嘘じゃないさ。でも申し訳ないね。……ちょーっとだけ寝ててもらおう」


 一気に魔力をルーンに注ぎ込み、転移で離脱。


「これはッ⁉」


 はい残念でした。


氷の城(アイス・キャッスル)。その中は時間すら普通に進むことを許されない。俺の切り札ってやつさ」


 氷漬けになった魔族軍を見ながら血の入った水筒をぐいっと煽る。これで人質は確保した。

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