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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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六十三日目 戦争の下準備

 一ヶ月ぶりにゼインの城へ行く。


「ブラックゥゥゥウウウ!」

「はいはいお久しぶりですね王子サマーっと」


 しがみついて離れないレクスを引き剥がしながらゼインを待った。ゼインは割りとすぐ来てくれた。


「ブラック! 体は大丈夫なのか」

「一応ね。起きたら一ヶ月経ってるって聞いてびびったよ」

「あまりにも目を覚まさないから皆心配したのだぞ」

「そいつはどうも」


 紅茶を飲みながら俺が寝ていたときの話をする。


「で、アルカンドの要塞を襲われたって聞いたが?」

「そうだ。お主が指摘した通りに来たからお主が中で繋がっているのではないかと少し不安にはなったぞ」

「あらゆる可能性の一つだと言ったろ? それがたまたまあたっただけで」


 砂糖いれたいな……


「ブラック」

「ん?」

「砂糖はダメだぞ」

「なっ⁉」


 何故ばれたし⁉


「い、いいじゃん」

「駄目だ。ソウル殿からも言われているだろう?」

「そうだけどさ……」


 砂糖。今の俺はその依存性に抗えるほど体力がない。


 だから食べるなって言われてるけど………? ってことは、


「お茶請けがやけに甘くないのもそれか……」

「ソウル殿から頼まれてな。お主は絶対に砂糖を食べようとするから見張ってくれと」

「ぐぬぬぬ……」


 この場合の砂糖を食べるっていうのは、上白糖をそのまま口に含む事だ。お茶に少しいれる分には問題ないんだけど、そのまま食べるのがどうもいけないらしい。


 ………どうやって食べるのかって? スプーンでシャリッと。


「……話を戻そう。アルカンド要塞は何とかしたんだよな?」

「それは籠城戦でな」

「ならいい。で、そこからは今のところないんだよな?」

「今はな」


 あそこを突破できないと見ると次に攻められるのはどこだろうな………一ヶ月進展がなかったのも不思議だ。


 内部の裏切り者はなるべく炙り出すようにしてるけど俺は全ての国を見張っている。誰か一人にかかりきりにはなれん。


「そもそもやつらの目的とはなんなのだ」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「以前聞いたが調査中だと言われた」

「そうだったか」


 まぁ、この情報はただであげてもいいかな。その内判るだろうしね。


「やつらは食糧難に陥っている。それで極端にものが値下がりし始めててデフレスパイラルが魔族国家全体で起こってしまっている」

「デフレスパイラル?」

「あー、不景気だ不景気。金の巡りが悪くなってものが売れない状態の事だ」


 ただ、これを下手に脱却しようとすると不味いことになる。


「なら金の流通量を増やせばいいのでは?」

「勿論それもひとつの解決手段だ。だが、それを下手にやってしまうと金の信用度が低くなり、金の価値が極端に下がる」

「? もっと詳しく説明してくれるか?」


 具体例を出すか。第一次世界対戦後のドイツあたりでいいか。


「とある国が戦争に負けたとしよう。その国は戦争で多くの領土と人、そして金を失った。それに加えて先勝国から多額の賠償金を支払わなければならなくなった」

「当然だな」

「そう。当然だ。だが賠償金はその国の金ではなく、金……価値の変動の少ない黄金での支払いを命じられた」


 そろそろレクスが鬱陶しい。


「自国の経済の回りを出来るだけ早くしようとその国は貨幣を大量に製造した。だがそれが非常に不味いことになった」

「金があるのだろう? なら……いや、そういうことか」

「わかったようだな、ゼイン。その金はその国の中でしか意味をなさない。どれだけ増やし、もの()が増えても人は潤わない。その結果、国内のものの値段があり得ないほどに跳ね上がった」


 紅茶のカップを前に突きだし、


「例えばこの紅茶一杯を100アルクだとしよう」

「この城で最も高価な茶葉なのだからそんな安くはないのだが」

「わかってるよ。例えだよたとえ」


 っていうかこの紅茶そんなにいいやつだったのか。うまいとは思ってたけど。


「で、砂糖を一回かけるのに50アルクだとしよう」

「かけるなよ?」

「か、かけねぇよ」


 チッ、どさくさに紛れてかけようと思ったのに。


「その国ではこれ一杯飲むのに100ウルク必要になり、砂糖一回かけるのに50ウルク必要になった。ただ、それだけのこと」

「それは……とんでもないな」

「ああ、そうだ。今まで二度と見ることができないと思っていた白金貨や光金貨がただの土塊なみに価値が落ちてしまった。ま、その国は紙幣を主とするところだったから紙切れといった方が正しいけど」


 それで返せないまま第二次世界対戦にはいるんだっけ。


「ま、こんなところだな。もっとも、魔族国家はまだここまではいってない」

「まだ、か」

「そう。その内これに近い状況にはなるかも」


 それに魔族領は元々植物が育ちにくい。マナも濃いから必然的に魔物も強くなる。


 食糧難に陥ることは、目に見えてわかっていた。


「それだけじゃないけどね」

「それだけではない?」

「魔王が代わった」

「なっ……⁉」


 魔族の王、魔王は地方魔王と中央魔王っていうのがあって、地方魔王の中から選挙で中央魔王が選ばれる。


 というか、地方魔王さえも選挙で選ばれるから俺としては日本の政治家と似たようなものだと考えている。


 衆議院と参議院の二院制でないということを除けばほぼほぼやってることは同じだと思う。


「あっちは平民だろうが貴族だろうが平等に王になれるチャンスがあるからな。突然変わるということはほぼないから多分選挙があったんだと思う」

「国民が選んだものが王になるという考えはこちらとしては理解しがたいな」

「まぁ、あんた王だしね。俺からしたらどっちもどっちだけど」


 日本の経済も上手く回っているとは言い難い。寧ろ大企業だけが得をして中小企業は追い詰められていっているのが現状だ。


 過労死って日本くらいでしかないらしいしね。富んでいる人は富んでいるし貧乏な人は明日の食べものすら危うい。


 王政だろうが議会制だろうが貧富の差はどうやったって縮まらないんだ。


「それで、次代の魔王をお主はどう見る?」

「どうだろうね? まだ情報が少なくてなんとも言えないかな」


 でも、なんだかこのタイミングで王選ってなんかおかしいとも思うけどね。


 そもそもこちらは戦う理由はないから。


「どちらにせよ軍隊は来る。王が代わっても少しの間は前王が政治をするはずだから」

「攻め込むか?」

「いや、逆だよ。長期戦に持ち込む」


 この世界の地形は粗方頭のなかに入っている。


 なら、この作戦もできない訳ではない筈だ。


「俺の言う方法なら、敵の侵攻を少しは食い止められる筈だ」

「迎え撃たんのか」

「迎え撃ったらこっちが殺られる。敵は魔族だぞ? 俺のような希少種族やこっちにいる人間以外の種族はきっとこの戦争には興味はない。人間が種族の中でかなり弱いことを考えると正面突破なんてキツすぎる」


 もしかしたら、だけど。


「ギリギリまで被害を出さないように砦を盾にして足止めする」

「して、どうする?」

「………交渉する。停戦条約を結ぶために」

「本気か?」

「本気だ。勿論これは俺の意見だ。一情報屋の意見に耳を傾けるあんたもおかしいと思うけどね。どうするかは、俺が決めることじゃない」


 俺はあくまでも情報提供者。だから兵を持っているわけでも莫大な金があるわけでもない。


 戦争をするのは俺じゃなくゼイン達だ。本人に決めてもらうしかないだろう。

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