六十一日目 なんか凄い夢
なんか頭がぼんやりしてて暑いなとか考えてたらどうやら俺は倒れたらしい。そうじゃなきゃこんな状況にはならない筈だろうから。
「おい、29番はどうした」
「朝方死んだ」
「早かったな。もっとメテルノ剤を増やした方が良かったんじゃないか?」
「かもな。ま、実験的にやってたことだからなんにも言えないさ」
誰だよこいつら………まぁ、明晰夢っていうんだっけ? 夢の中で『あ、これは夢だな』って思う事のこと。
確実に夢だ。エルヴィンの時みたいに勝手につれてかれたのかとも思ったけど頬をつねっても痛くないし。
………こんな古典的な方法で夢かどうかを確かめるとは自分でも思わなかったけど。
暑い………体が動かないから目だけを動かして周囲を観察する。
何かに固定されていることはわかるんだがそれ以上は確認のしようがない。それになんか口に違和感がある。
これは………あれだ。口元を全部覆う酸素ボンベ的な。
檻の一種なのか、これは……。
「次は」
「16番だな」
「あー、あの」
「もうそろそろ死にそうだな」
「今日中に死ぬに俺賭けようかな」
「なっ、じゃあ俺は明日に賭ける」
何言ってんだよ………ああクソ、頭痛い……。
っていうかこの夢長すぎ……。
そうこうしていうるうちに目の前にいた二人はどっか行った。
やっと周りがはっきり見えるようになったけど、どうもガラス越しじゃ見えづらい。なんかテレビらしきものはあるけど……あ、あと試験管?
変な夢だな………
ビーッ、ビーッ、ビーッ! 突然警報器みたいなのが鳴り出した。
ビビったぁ………なんの音だよ。侵入者です、みたいな?
いや、まさかそんな漫画みたいな……
「ヤバイぞ、侵入者だってよ」
「誰だ」
「例の取り逃がしたやつだ」
「チッ、面倒だな」
マジで侵入者ですか。いや、これは俺の夢なんだから割りとそんなもんなのか?
さっきの二人が戻ってきて、慌てて何かを取り出す………って何それ⁉ ガトリングガン的な⁉
やけに物騒なもの持ってんな……
「どこだぁっ!」
たぶん自動ドアのハイテクな扉からなんか凄い形相したお兄さん登場。あ、この人侵入者なのね。なるなる。
で、手にはドでかい大剣……って世界観ヤベェ。流石は俺の夢。突っ込みどころが満載過ぎる。
「うちの……うちの娘を返せぇっ!」
え、子持ちっすか? あんたいくつ? どう見積もっても20代前半なんですけど⁉
若作りなのか張り切っちゃったのか。
「これを見てそれが言えるか?」
「なっ……!」
ってこのガトリングガンの二人俺にそれ向けんじゃねーよ⁉
人質に向ける武器としては過剰すぎるでしょ! 拳銃で十分だわ‼
侵入者のお兄さん、どうするか迷ってる。俺今にも身体中穴だらけになりそうなんだが。主に横のガトリングガン二人のせいでな!
「止めてくれ………その子がいなくなったら、俺は……」
あ、俺が娘設定すか⁉
斬新だねー。
そもそも誰やねんこの人。親父ではない。確実に。
だって親父こんなにカッコよくないもん。
でも親父(仮)よ。今それで剣置いても俺もあんたも殺されるよ、多分。
その瞬間、ガトリングガンの二人が吹っ飛んだ。
「グハッ」
「ギャアアアア」
一人は机の角で頭うって、もう一人は変な薬品浴びたようで叫びながらどっかに走っていく。あ、両方とも生きてます。
「助かった。クレハ」
「全く。すぐに突っ込むんだから」
横の壁をぶち抜いて現れたのは親父(仮)の嫁と思われる女性。なんでそう思うかって? なんとなく。雰囲気で。
「良かった………!」
なんか俺抱き抱えられてますね? 多分。赤ん坊かなにかになってるのかな。この辺りも斬新だ。
奥さん奥さん。嬉しいのはわかるけど逃げた方がいいよ? ここ多分敵地だよね?
警報はいつのまにか止まってるけどさぁ。
「クレハ、直ぐに移動しよう。いつ崩れるか……!」
はいフラグー!
もうなんか壁が軋んでるんだけどこれ倒壊するんじゃない? 親父(仮)の言葉を信じるなら、だけど。
それに変な音もする。
「にげるぞっ!」
視界が揺れるウウウウ!
奥さん奥さん‼ もうちっと揺れないように持ってください‼
気持ち悪いです。
「きゃっ⁉」
「大丈夫かっ⁉」
奥さんんん⁉ 今一瞬俺空とんだよね⁉
親父(仮)がキャッチしなかったら落下で死んでたよ⁉ 多分だけど。死因が抱かれてて落下の頭部強打って嫌すぎる。
そこから先は親父(仮)に抱かれたまま脱出。どうやら地下だったらしく、階段を上ったら直ぐに外に出れた。
「な、なんとかなったな……」
全力で走っていたのでかなりお疲れのご様子。運んでくれてあざす。まぁ、そのでかい剣のせいかもしれないけど。
「とりあえずここから早く離れましょう。セイラを呼んでいる筈だから……あ!」
奥さんが手を振ると何かが飛んできた。おおー! ドラゴンだ、格好良い!
………よくよく考えてみれば俺んとこのモフモフ荷物運びもその一種だったわ。
「お願いねセイラ!」
「グォオオオオ!」
おお! やっぱドラゴンぽい鳴き声! レイジュはどちらかというと馬だし。
魔法で空気抵抗でも減らしているのか全然風とかこない。安全で快適。ちょっと寒いのが難点だけど、それ抜いたら飛行機よりずっと快適だ。
飛行機のふわってしてるあの感じなんか苦手なんだよね………ジェットコースターとかフリーフォールとかは嫌いじゃないんだけど、なんか飛行機は気持ち悪い。
それから結構乗っていたと思う。気づいたら降りてたけど。多分俺寝てたな。夢の中でも寝れるとか器用すぎるだろ。
「大丈夫だった⁉」
「ああ。ほら」
俺を二人の女性が覗きこむ。………? なんか見覚えあるような?
誰だっけ? まぁいいや。どうせ夢だし。
いや、これ………あ。あああああああ⁉
髪色と目の色変えたら俺の姉妹やん⁉ 姉ちゃんと鈴菜だ⁉
「良かった………心配したんだからね」
「ははは、すまんすまん」
親父(仮)よ。あんたらどういう関係なん?
まさか姉ちゃんと鈴菜も親父(仮)の子供とか……いや、それはないな。俺が一番成長してないっておかしいし。姉ちゃんと親父(仮)の年齢が近すぎる。
その時、爆発したような音がした。目を向けてみると全方位で火の手が上がっている。
ちょっとまってどういう状況?
「またやつらか………!」
「どうするの?」
「………」
親父(仮)は俺の上に何かをのせて俺をそのまま姉ちゃん(仮)に渡した。掴んでみてみると蒼い………ブローチ?
トルコ石みたいなのじゃなくてサファイアみたいに透き通っている石で出来ている。
「それを」
「え………嫌っ! 駄目だよ、一緒に行こうよ!」
「大丈夫だ。まだ予備はある。俺も追い付くさ」
「じゃあ私も残るわ」
奥さんも立ち上がる。
「私も―――」
「駄目よ。その子を、守ってあげて」
泣いてる。親父(仮)も、姉ちゃん(仮)も鈴菜(仮)も。俺の目には魔力がこの石に籠っているのが見えた。多分、転移の魔法具だと思う。それも一回限りの。
どこに通じているのかはわからないが、きっと逃げるための物なんだろう。それぐらいは会話で察せれる。
「頼む。もう時間がない」
「嫌っ!」
俺は、どうすりゃいいんだ。
迷っていると親父(仮)と目があった。堪えきれなくなったように涙が出ていたが、覚悟が決まっているようだった。
………あんた男だぜ、親父(仮)!
俺は魔法具に魔力を送り込む。目映い光を放ち始めた。
「なんで……⁉」
全員が驚いた目でこっちを見ている。前にたっている二人は複雑な表情だったが、どこか満足げだった。
「その子を、頼んだ!」
転移の感覚と共に、俺の魔力が切れて意識が途切れた。




