五十一日目 これ作ってみたかったんだよね
それから少し。俺はやっと自分で自分の事ができるようになった。
まだ激しい運動は無理だけど、風呂くらいなら自分ではいれるようになった。ニキが羽を数えたいからって一緒に入ってくるけど、これの何が楽しいんだろうか。
よくわからないので自分でも数えてみた。17枚目で飽きた。
俺は動けなかったときに考えていた案をもとにとある試作品を作ってみた。まぁ、案っていうか、うん。
節制を使っているときは身体能力が全て10分の1になる。その状態で戦うためには俺の武器であるスピードを活かす方法で戦う必要がある。
平地なら魔法をぶっぱなせばいい。だが、この前のトレント戦で実感した障害物の多さによる戦いにくさから学んだ。
俺は背が低い。日本人女子高校生の平均ど真中だ。だから対格差で押しきられては危険だ。
それを覆すためには自分の力以外のところからそれを引っ張ってこなきゃならない。重力とか、遠心力とかな。
魔法でそういうのを常に弄り続けるっていうのは結構重労働だったりする。
そこで、日本で観たことのあるアニメ(原作は漫画)から知識を借りて、障害物を寧ろ利用する方法を考えた。
俺がそれをこの世界風にアレンジして魔法を組み込めばとてつもなく威力の高い移動手段になるはず。
「それなに?」
「……空を飛ぶ道具?」
「空を飛べるの⁉」
ああ、この世界じゃ飛行系の魔法は難易度が高いんだっけ?
まぁ実際に飛行系の魔法って消費するMP多いから日常で使ってたら疲れでぶっ倒れそうだしね。
「道具って言ってもそれなりの魔法が使えないと使えないけどな。これはその設計図」
「せっけいず? これ、何てかいてあるの?」
「秘密」
最悪見られてもいいように日本語で書いてある。
ニキは俺の設計図を見ながら何度も首をかしげていた。
俺はエルヴィンにこれを作る許可をとった。俺の足の代わりになると説明したら監視つきで作ることを許された。なんか相変わらず甘いな俺に。
まだ歩けるようになったとはいえそんなに長い間は作業もしていられないし、疲れも出る。
俺は馬車の部品なんかをもらってそれを改造しながらちまちまと作業していった。ニキは途中から俺の作っているものに興味が湧いたのか横で見ているようになった。
数時間それが続き。
「できた、と思う」
動作確認をしながら壊れたりしないかをもう一度確認する。
試運転してみるか。
この屋敷の敷地内には巨大な庭がある。っていうか、これ森だ。どっからどこまでが敷地内なのかわからんレベルで広い。リハビリついでに散歩してみたら大分進んだところに柵があったから一応仕切ってはあるらしい。
「よし、どうなるかわからないから離れてろよ」
正直不安だ。魔力で空気を圧縮、後方に噴射する。それは今までもやっていたこと。だがそれはかなり周囲の建物や障害物が密集していないとできなかった。
何故ならば俺がチビだからだ。
足場が届かないとそういった戦法も使えない。
で、俺が思い出したのがこれだ。ワイヤーを使い、周辺の障害物に引っ掻けて一気に巻き取りつつ圧縮した空気を噴出してスピードを上げる。
立体○動装置だ。
原理はそれと全く一緒だ。まぁ、やってることは大分違うけど。
でもあれを思い出したとき、とても画期的だとわかった。だって両手は基本コントローラーを握ってはいるけど俺の場合イメージでクリアできるから両手は空くし、ガスが切れたら終わりっていう仕組みだけどそれも俺なら空気を直接使ってやればいい。
おんなじもの作った訳じゃないから刃も必要ない。
手や足にワイヤーの入ったバングルみたいなのをつけるって案もあったけど、それだとどこかの四肢が一瞬使えなくなるし、事故が起こったときのために血管の集中している場所は避けたかった。
で、バランスのいい場所を探した結果、やっぱり腰でした。
いやー、立体機○装置便利だ。
ワイヤーの先端を木に打ち込んで少量の空気を圧縮、噴射。一気に巻き取り、それを何度も抜いたり別のところに方向転換したりと繰り返す。
うん、これなら行けそうだ。戦闘にも問題なく使えそう。上からの重力、ワイヤーを使った遠心力も加わるから結構強い。
地面に降りるとニキがキラキラした目をこっちに向けてきた。
「凄い! 本当に飛んでた!」
「これ考えたのは俺じゃないけどな……」
いやー、漫画家って凄いよ。確かこれ実写化もされたよな。
実写は観てないけど。
「私もできるかなぁ」
「風魔法と脚力強化、簡単な重力魔法が使えればいけるよ」
「え、そんなに使うの……?」
「まぁ、俺専用機だからな」
消費魔力はかなりギリギリまで少なくしているぞ。その代わりに技術が求められるってだけだ。
逃げ出されると困るからという理由でリリスも月光も今はエルヴィンの自室に保管されている。俺のところにあってももって走れる自信はないけどな。あれ全部あわせたら俺の体重越えるし。
そう考えると俺って自分よりも重い武器を腰につけて走り回ってたんだなと今更ながらに気づく。筋トレしなくても歩くだけでそれができるっていうね。
動けなくなってはじめて気づいた。俺って意外と凄かったんだなぁって。
「よし、一先ずはこれで完成ということにしておこう」
試作品一号だな。ワイヤーの引っ掛かりも十分なようだし巻き取りも問題ない。実戦で使えるかどうかはわからないけど。
ただ、いきなり動いたせいで足に大きな負荷がかかっている。ちょっと怠い。
その後は暫く庭(森)を二人で散歩して屋敷に戻った。
扉を開けると目の前にエルヴィンが仁王立ちしていた。
「………」
「………」
いったいなんなんだ。
エルヴィンの目は俺のベルトに集中している。試作品一号だ。
「先程、それを使っているところを少し見させてもらった」
「へぇ」
「それを、私にも作ってはくれないだろうか」
「?」
……あれ? 柵を越えられたりしたら不味いからそれは回収する、みたいなこと言われても仕方無いかなって思ってたんだけど。
「でも、まだこれ完成してないし……」
そう。まだ完成していない。少し使ったことで見えてきた改善点や、実戦で使ったときの使いづらさなんかはまだ何もわからない。
そもそもこれ俺が考案したものじゃないし。
「それに、これ両手でルーンを書きながら口で詠唱して使うものだから、それも出来るのか?」
「そんな高度な事をしていたのか」
「慣れれば難しくはないからな」
なれるまでが大変だけどな。三年かかったもん。
「それに………これ俺の体に合わせて作ってあるからエルヴィンは入らないと思う」
「なに……」
重量制限は120キロだけど、軽い方が魔力消費も少なくすむし動作も早くなる。何も持たないのが一番いい。
え、俺の体重? 45キロ。
エルヴィンは諦めたらしくどっかに歩いていった。なんなんだ、一体?
………俺がここに連れてこられて10日経ってしまった。そろそろヒメノが泣き出してもおかしくはないだろう。
ということで、脱走を計画した。エルヴィンには悪いけど実家に帰らせてもらいます! 実家じゃないけど。
俺の居場所はここじゃないんだ。ヒメノと一緒じゃなきゃ嫌だ。このわがままを俺は通しきる!
そもそも拉致られてる時点で俺は逃げる気でいたし。
決行は夜中の二時。この世界風にいうと地の刻だ。ただ、その時間に俺が意識を保ってれば、の話だけど。
まず、エルヴィンの部屋に侵入しリリスと月光を暴食のスキルで回収する。
試作品一号を使って脱出、そこから先は節制を使って感覚を鋭くしてからバレないように逃げ出す。
うん。我ながら適当だな。ニキも連れていきたいけどニキの指揮権はエルヴィンが握っている。俺にはどうしようもできない。
ただ、ひとつ。とてつもなく重大な事が起こった。
いつものようにエルヴィンが部屋に来て、早々にこう言った。
「ブラン。貴殿、逃げる気だろう?」
って……。




