四十六日目 納得できない
ちょっとだけ会話内容とかを変更しました。本編に変わりはないのでそのままお読みください。
帰って直ぐに寝てしまいました。はい。
だって眠かったんやもん………ソウルも朝早くから出掛けてるみたいだし話すタイミング失ったな。ま、いいか。大した問題じゃないし。
もしエルヴィンが無理に来るようなら力業で何とかしよう。………これって正当防衛にはいるよね? ………うん。正当防衛だ!
「ブラン、顔が恐い」
「え、あ、ごめん。殺気でも出てた?」
「いや、昨日みたいなのはなかったけど今から獲物を狩りに行くような目だよ」
「具体的にどうも………」
やることはないから普通にギルドに行って簡単な依頼でも受けますかね。ぐっとのびをしてからサンドイッチを頬張る。
冒険者の朝御飯はかなりガッツリしてるものが多いんだけど、俺そこまで朝には強くないからいつも少し軽めのものにしてもらってる。
リオおばさん(シャオのお母さん)にライトから頼んでもらったら一撃だった。ついでに言えば最近レイジュがちょっとポッチャリしてきた気がする。
おばさん。おやつはほどほどにしておいてね。そいつ一応荷物運びだから………。
ギルド内は妙にざわついていた。
「なんなんだ、この人集り……?」
『見てこようか』
「頼む」
ふよふよとピネが人の山の上を通って直ぐに帰ってくる。
「どうだった?」
『緊急依頼みたいね。でもブランの名前が載ってたわよ』
「俺?」
なんで俺? 心当たりがあるようでないような。ってことで失礼して………
足の隙間をぬって最前列へ。衝立のようなものがあり、そこにはこの世界の文字が大量に敷き詰められている。俺はまだ読めません。
ゴーグルで画像を撮って一旦離れ、離れた場所でじっくりと見る。
「えっと……エルーズへの緊急依頼………参加で金貨10枚、功績によってランクのポイント、報酬の増額あり。最低ランクはD」
俺には関係ないじゃん。俺Fランクだよ?
【その下よ】
「え?」
えっと、下記の者は強制参加とする? ……………俺の名前入ってる……。
しかもこれよく見るとただの依頼じゃない。これ、戦争の最前線だ。そこに行けってことは要するに。
「赤紙……」
まさか平成生まれの現代っ子に赤紙が届くとは思いませんでした。いや、この紙赤くないけど。
ここに名前が載っているということは、まぁ、そういうことなんだろう。正直、ふざけんなと怒鳴りにいきたいところだけど。
となりには当然のようにソウルの名前もあった。……ちょっとこれは我慢できない。ソウルは確かにそれなりに強いが上の下くらいの腕だ。
あいつの真価は戦闘ではなく回復系のサポート魔法。あれに関しては俺はあいつより下手だ。
「アレックスさん‼ あれ、どういうことですか!」
「……会議で決定したのよ。貴方がトレントを二万体倒したという証拠はないからそれを実証するために」
「意味がわかりません! 別に実証する必要はないじゃないですか!」
「そうよ、貴方が高ランク冒険者だったらなかったの。でも貴方は最低のF。信じられないと言われても仕方ないわ」
遠回しに信用がないやつに金は払えないと言ってきた。どうやらアレックスさん達の意思ではなく、もっと上の命令っぽいな。
トレントの報酬は確かに高額だから払いたくないのもわからないことはない。それは俺だってそう思う。けどじゃあなんで戦争に参加する話しになるんだよ!
「じゃあ信じてもらわなくていいです。討伐分も全て返金します。今回の件、全てなかったことにしてください。トレントも、前線も」
金ならいくらでも作れる。トレント分全て返金してもこの前暇潰しで狩った魔物で充分潤っている。
「それは、ギルドへの反逆行為になるわ」
「反逆行為をすると、どうなるんです?」
「永久権利剥奪ね」
「じゃあ構いません」
アレックスさんが眉間にシワを寄せた。ギルドの行動が大分頭に来てる今の俺は全然怖くないけど。
「戦うことしか出来ない貴方にはキツいんじゃない?」
「ですね。でも魔物を狩れば金は出来る。自分は戦争するために戦ってるわけではないですよ。魔物を狩るために、家に帰るためにその過程としてギルドに入った、それだけのことです」
最悪の場合、自給自足もできる。それだけのスキルは持ち合わせている。
「誰かに立場を守ってもらわなきゃ生きていけないほど弱くないですよ、自分は」
ギルドカードを取り出してその場に置く。
「では、お世話になりました」
こんなところでやっていられない。俺はソウルと帰るための方法を見つける。今はそれだけを目標に生きている。変なところで寄り道をするつもりはない。
人殺しなんてごめんだ。死んでもごめんだ。
この世界ではそれが普通なのかもしれない。でも。
俺達はこの一線は越えてはいけないんだ。
日本では人を殺すことなんてない。感覚が染み付かない。魔物を斬るのには抵抗がない。まるで俺はこの世界の住民なのではないかと錯覚してしまうほどに。
でも、人殺しはできない。それをやったら、
「俺は、本当の化け物になっちまう………」
帰る事になったとき、異端扱いされたくない。俺は俺として、普通の人間として暮らしたいんだ。
後ろでアレックスさんがなにか叫んでいるが、俺の耳にはもうなにも届かない。もう、俺は関係ないのだから。
ピネが耳元で何かを叫んだ。あーちゃん、という単語が聞こえてくるから恐らくアレックスさんのことなんだろう。
でも、なんだろう。水のなかに沈んでいるように、耳に言葉が入らない。
その時、視界が………歪んだ。
「ぐっ………⁉」
壁に手をついて目眩に耐える。けど、体が言うことを聞いてくれない。膝が震え、徐々に視線が下に落ちていく。
貧血か、この感じ………?
息が出来ない。喉に何かが詰まっているみたいに、いくら吸い込んでも吸った気になれない。
支えきれなくなって、とうとう膝をついた。そこからは重力に逆らうことなく地面に倒れる。
暑い………気持ち悪い………酷く、眠い………。
ピネが必死に叫んでくるのが見える。だけどそれすらも段々見えなくなって、完全に意識が途切れた。
最後になんとなく感じたのは、何かが俺の体を持ち上げたような感覚だった。




