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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 二冊目
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四十五日目 メノン家のエルヴィン

 矢筒やらなんやらを購入し、宿に戻る。流石にもうあの人は居なかった。部屋に入るとピネが既に中にいた。


『あ、帰ってきた』

「いつからここにいた?」

『さっきよ。どこ行ってたの?』

「武器の補充」

『じゃあ一緒にいけば良かったわね』

「それもそうだな」


 時計をみると日本と同じ形をした時計がコチコチと音をたてて動いている。


 それなりに時間を潰せたから今は夕方の6時頃だ。


「あ、夕飯どうしよう」

『ソウル達は食べてたわよ』

「マジか」


 一人で夕飯ですか。別にいいけど。


 1階に降りてささっと夕食を済ませた。俺が芋虫肉駄目だって知っているからか通常とは少し違うメニューが出た。


 シャオが気を使ってくれたみたいだった。抱きついてありがとうって言ったら周りから凄い目で見られた。クラスメイトにやるようなノリでやってしまった。いかんいかん。


 でもシャオって同級生って感じがするんだよな。二つ下だけど大人っぽいから余計にそう感じる。


 シャオに礼とチップを渡してから蹄鉄亭を出た。


 因みにピネには部屋で寝ててもらうように言っておいた。ソウルとライトにはすぐ帰るからって書き置きもしておいたし問題ないだろう。


 ゴーグルをはめて直ぐに戦闘に移れるように集中をしながら広場へ向かった。


 あの様子だと直ぐにでも襲い掛かってきそうだったし。


「………来ましたけど」


 小さな噴水の側にあるベンチに腰を下ろしていた相手にそういうと、射貫くような視線を向けられて一瞬動揺してしまった。


 ………? ん?


 あの人って、目、こんな色だったっけ……?


 この色は……そう、アメジストのような色だ。


「………ひとつ聞きたい」

「なんでしょう」

「貴殿は人間か?」

「……はい?」


 想像の遥か上の質問を投げ掛けられて首を捻ってしまった。


「ただの人間ですけど」

「それでその気迫か………面白い」


 俺はなんも面白くない。


「ここに来たということは、わかっているな?」

「わからないですけど、何となく今理解しました」


 要するに、こういうことだ。


「メノン家の嫡子、エルヴィンだ」

「………ブランです」


 互いの武器と武器がぶつかり合い、火花が散る。


 この人、あれだ。俗に言う『戦闘狂』だ。


 俺と間合いをとってわざわざ離れ、武器を見せるように取り出した時点で何となくわかったよ。


「「っ!」」


 1撃が、重い。速さは大したことはないけど、下手に手加減したらこっちが殺られそうだ。


 咄嗟にリリスを取り出して助かった。月光じゃきっと耐えきれない。


【これ、相手も中々に手強いわね】


 リリスがそういうくらいには強い。けど、リリスには遠く及ばない。それだけリリスが異常なんだろうけど。


 相手が使っているのは両手剣だ。よくみるとただの剣じゃなくて魔剣と呼ばれるもののようだ。


 でも、リリスはそういったくくりで名前を付けるなら神剣レベルに達しているのは間違いない。


 この人は普通に強いが、魔法を使っていない俺を圧倒できてないということは結局それまでなんだろう。


 上段から振り下ろされた剣を左手のトンファーで滑らせて逸らし、軌道から外れた一番脆い部分にMPを注ぎ込んだリリスをぶつける。


 軽い爆発がおき、魔剣が簡単に圧し折れた。


 鍛冶のスキルを持っているとどの武器はどの辺りが脆いのか、どこが弱くなっているかが感覚で判るから破壊には便利だ。


 リリスには元から武器を壊す能力があるし。


「ぶ、ブラッドソードがっ⁉」


 ぉおう、結構物騒な名前だった。ブラッドって血だよね。


 リリスを止め、相手に確認する。


「こちらの勝ちでいいですか?」

「………ぁ」

「え?」

「気に入ったぁっ!」

「ファッ⁉」


 ビックリするだろ⁉


 っていうか剣壊されてニコニコしてる。何が嬉しいんだろうか?


「家宝の剣を人間に壊されるとは思っていなかった」

「あ、家宝だったんだ……ごめんなさい」

「それでだ。貴殿を我が嫁に迎えようではないか!」

「え、嫌ですけど」

「………なに?」


 迎えようではないか! って言われても。っていうか俺にはソウルがいるし。


「一生の生活の不自由はないぞ」

「今ので満足してますし。やることもあるし、それ以前に恋人いるし」

「………何?」


 ………何? って酷くない⁉ 俺そんなに恋人いなさそうですか? ………ああ、いなさそうだなぁ、俺………。


 変人の集まりと言われる音楽科の俺っ娘女子高生でしかもゲームで世界一って……我ながらキャラが濃い。


 変人なのはもう諦めてる。っていうか理解してる。そもそもこの年であのゲーム毎日数時間プレイしてる時点で色々とアウトだと思う。


 友達? 遊びに行くほどの仲の良い子はいるにはいるけど俺がコミュ障だから誘えねぇよ。誘えないから誘われないし。


「無理だ」

「は?」

「もう此方で決めた。着いてきて貰うぞ」

「え、ちょっと理解できないんですけど」


 意味不明なんですけどこの人⁉ ちょっと後退る。


「待て、何故逃げる」

「逃げるに決まってるじゃないですか⁉ 自分恋人いますし図図しい人厄介すぎて嫌いです!」


 本人の前で言うことだったか? と少し経ってから気づいたが、まぁいいだろう。


「………ふ、ふふ、ふははははは! 私に近づいて来る者は多いが、拒否されたのは初めてだ! 愉快、実に愉快だ!」


 笑いの三段活用を使ってエルヴィン(?)は言う。俺は思った。


 ヤベェ、ガチの変人だ………って………


「ああ、町に出てきて本当に良かった。ではまた後日準備が整い次第迎えに来よう。さらばだ」

「はっ⁉ ちょっと、何言ってんのかさっぱり―――⁉」


 ………消え、た?


 魔法じゃない。ゴーグルの索敵範囲から一瞬で消え去った。勿論俺の目にもゴーグルにも映らずにこの場から去るなんてリリスでも俺でも不可能だ。


 空気に溶けていくように消えた。闇に紛れたとかそんな次元じゃない。


「何がどうなってるんだよ………」


 早くこの町から出ようかな………あ、でも宿一週間とっちゃったわ。勿体無いな、その分は。


 仕方ない、今日の事はソウルには話しておくだけにして宿代の分泊まったら町を出ることにしよう。


 この町で収穫できるものは全てした。町の図書館で調べた魔導国家に次は行くつもりだ。日本に帰る術が、見つかるかもしれない。

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