四十三日目 月光
「あのー、すみません」
武器を作るために工房を借りようと思ったんだけどこの町には鍛冶屋が二軒あった。一軒目に頼んだところは素人に貸せるかと突っぱねられました。そりゃそうだよな……。
で、二軒目。物凄い暗いんですが。誰かいますか?
「……なんだ、おい。起こすんじゃねぇよ………ガキが」
「あの、とてつもなく厚かましいのは重々わかっているのですが、その、炉を貸していただけませんか?」
「はぁ⁉」
怒らないでよ………。
奥から出てきたのは髭も髪もぼうぼうに生えた俺とそう背丈のかわらないお爺さんだった。
町中にいたら、ホームレスなのかと一瞬疑ってしまうほどにぼっさぼさ。せめて切ろうよ。
「突然なんなんだよ」
「あの、その、一時間だけでいいので貸していただけませんか? 勿論使用料金は払います」
「炉ってのはな、神聖な場所なんだ! ガキが遊ぶための場所じゃねぇんだよ! さっさと帰ってくれ‼」
「そう、ですか………」
ここまで拒否られると泣きたい。しかたない、柄の部分とかの炉が要らない部分を先に作るしかないな………。
「話聞いていただいてありがとうございました………お邪魔してすみません」
どうしますかね。別に今すぐ必要って訳じゃないんだけど、リリスじゃ破壊に特化しすぎてて討伐証明部位まで破損させちゃいそうだし。
「………あ、そこのカットクリームください」
そういや切れてたんだよね。カットクリームっていうのは油とか血とかを弾くクリームで、リリスには特に塗っとかないとキツいやつだ。
「ガキ、これを知ってるのか」
「これに塗らないと血が弾けないんですよ」
リリスを見せると目付きが変わった。
「まさか………神鋼か? それもほぼすべてか」
「ええ、まぁ」
「これを使っているお前はバカだな。修理費が半端じゃない筈だ」
「自分でやってるんで、ほぼタダです………それよりクリームください」
もう俺帰って寝る。疲れたし、素人だなんだって罵られるのもキツい。
「作ったのは、どんな阿呆だ」
「阿呆で悪かったですね」
つい反射的にそう答えてしまった。印象悪いな、俺。もういいや。クリームもやろうと思えば薬草で作れるし。眠い。帰る。
「じゃあ、ありがとうございました」
「お、おい。カットクリームは」
「もう自分で作るんで大丈夫です。では」
頭を下げた瞬間にその頭を掴まれた。振りほどけるくらいの力だけど、逆らうのも面倒なのでとりあえずそのままの体勢で。
「………なんでしょうか」
「気が変わった。貸してやる」
「え」
「何してる。貸してやるといっているんだ」
さっさと奥に入っていくお爺さん。え、これはなに? リリスを見たから反応が変わった?
でも神鋼って確かに難しいけどそれほど作り方が難しい訳じゃない。材料が中々ないだけだけど。
「なにを作るつもりだ」
「刀を」
「刀? ……ああ、あの薄いやつか」
「ええ、まぁ」
「材料は」
「今、手持ちがないのでヒヒイロカネかオリハルコンですね。炉を見てから決めるつもりです」
つれてこられた炉は、小さいが使い込んでありそれでいて綺麗だった。
「綺麗ですね」
「掃除は欠かさないからな」
「……この大きさだとヒヒイロカネで良いかな。では一時間ほどお借りします。料金はいくらですか?」
「お前の腕を見てから決める」
「自分、そんなに上手くはないですけどね……?」
1ウルクくらいならどうとでもなるけど。
まぁ、いい。始めてしまおう。
予め鉱石は抽出してある。ほぼ純度は100パーセント。完全に100パーセントにしないのは軽い衝撃で壊れないようにする為にほんの少し手に入った神鋼を混ぜてある。
この鉱石達は夜営中にちょちょっと採掘してきた。どこからかって? ………川とか?
それを薄く伸ばし、叩いて均一にしていく。このとき必要なのは力じゃなく同じ威力で叩き続けること。多少力が弱くなっても同じテンポで同じ威力で叩き続けなければならない。
これはドラムやってた経験があるから得意なんだ。
引き伸ばしては魔法で水を出して突っ込んで、冷まし、もう一回火に入れて伸ばして、冷まし。それをなんども繰り返す。
気づいたら汗だくだった。でもそのお陰で刀はどんどんうち上がっていく。
「………そろそろ入れるか」
ポケットから魔石を取り出してMPで無理矢理棒状にし、それを核にしてまた打つ。あの洞窟の魔石を折った時に出たかなり小さい魔石の欠片だけど刀を作るぶんには充分だ。
打ち終わったそれを眺めて、均等に作れているかを確認する。
「ふぅ、これでいいか。とりあえず木の鞘におさめとこ」
鞘はまた後で作らなきゃな。
いくら払えって言われるんだろうか。今ちゃんと浄化かけたし壊れたところも無い筈だけど。
「あの、終わったんですけど、おいくらでしょうか?」
「あ? あー。いや、いい。その代わりそれを見せてくれ」
「え? は、はぁ………?」
なんかめっちゃ食いついている。もしかして俺の作り方って一般的じゃないのかな?
ゲームのやり方でできたのはちょっと驚いた。
「これ程の純度の剣か………」
「ああ、それわざと別の金属混ぜてるんですよ。じゃないと一回刃こぼれしたら完全に折れちゃうので」
そこが難しいところなんだよな。純度100パーセントにするとどうしても壊れやすくなる。その代わり威力は高いんだけどね。
「これ、どこで習った」
「どこで? ………どこでだろう?」
ジョブについたときに、とでも言えばいいのだろうか。ああ、でも一応師匠はあの人になるのか。
「基礎は友人に教えてもらいました」
「そいつの名前は?」
「オコメです」
白米ラブとか度々叫んでた変人だけど、鍛冶スキル持ってたから基礎はあいつから教わった。
漢字じゃ名前で登録できないじゃないかって喚いた結果、武器に米の名前をつけるためにジョブを選んだらしい。本気でアホだと思う。
あいつの作った武器、性能は悪くないんだけど名前がなぁ。コシヒカリとかあきたこまちとか、正直ちょっと………。
「オコメか………覚えておこう」
覚えても会える確率多分ゼロですけどね………。あいつ米のことしか頭にないから全種類のジョブ終わらせるとか面倒なこと絶対しないだろうから。
「それで、そいつの銘はどうするつもりだ?」
「あー、決めてないですね。でもどうせなら音楽にちなんだ名前がいいな………じゃあ『月光』とかどうです?」
有名なベートーベンのピアノソナタのタイトル。まぁ、月光って名前で書いてる作曲家も多いから無難かなぁと。
自分の名前もかけてたりする。
「ほう、月光か。こいつも喜んでいるようだ。良かったな。製作者として認められているようだぞ」
喜んでいるとかわかるのお爺さん⁉ すごいね。俺わかんないや。リリスに翻訳してもらえばわかると思うけど。
「ははは。じゃあ早く鞘を作らないといけないですね」
布に包んで背に背負う。つけるベルトがないから背負うしかないんだよね。あってもリリスがいるし。
「もし何か作りたいものがあれば来るといい。俺はガーヴァン。ドワーフだ」
「自分はブランです。人族です。またよろしくお願いします」
「ああ。また来い」
なんか思ったより気さくな人だったなぁ。話しやすかったし。ちょっと鍛冶に対しては頑固な人だろうけどいい人なんだろう。
【私もちゃんと使ってよ】
「はいはい」
? …………なんか忘れてる気がする?
「あ、カットクリーム忘れた」
【本当にその辺忘れっぽいわよね】
「うるせぇ」




