四十日目 セカンドラウンド
まだあっちは四分の三ほど残っている。一万五千くらいか。あれだけのことやってまだ一万五千も残ってるとか正直泣きたい。
けど、泣いてばかりもいられない。
男性Aは「君なら自力で帰れる」的なことを言っていた。なら、俺は自力で帰るために力をつけなきゃいけない。
んでもってこんなことに巻き込んでくれた男性Aを一発殴りたい。助けてくれたと言えば聞こえがいいが、正直に言わせてもらうと別に俺は助からなくてもよかった。ヒメノさえ助かればそれでよかったのに。
それにこっちの世界で生きてたってあっちでは死んでいることになっているのならそれ意味がないんじゃないだろうか。
今は得体のしれないことを考えるのはやめよう。集中しろ、集中。
ルーンを書き連ねていく。小さな文字の塊がそこには出来上がっていた。
やつらから放たれる無数の攻撃を全て避けながらそれを空に向かって放ち、攻撃範囲外に急いで離れる。
「今日の天気予報ー。晴れのち曇りのち………槍の雨が降るでしょう」
ふざけた俺の言葉に反応して氷の槍が降り注ぐ。凄まじい勢いでポイントが増えていった。
断末魔すら聞こえない。聞こえるのは地面に氷が突き刺さり、砕け散る音のみ。
俺のMPを結構な量注いだからなかなか途切れることもない。
一分程降り注いだ。少し離れたところで隠れていたんだが、見てみると酷い有り様だった。
まるで巨大な落とし穴が出来たかのように効果範囲内が大きく窪んでいる。ゴーグルで確認してみたが、今の一撃で全部のトレントを屠ることが出来たようだった。
………自然へのダメージも計り知れないけど。
ごめんね、森。
こんだけ倒してしまったのに罪悪感というものはほぼない。申し訳ないなとは思うけど、それ以上はなにも感じない。
………俺、頭がおかしくなったのかな。というかこの世界に順応し過ぎなんじゃないんだろうか。
まるで最初から知っていたかのように空気が肌にあっている感じ。本質的には俺はこの世界があっているのだろうか………。
細切れになっているトレントの残骸を見ながら、そう思ってしまった。
「ただいま………」
「主、あの、凄く焦げ臭いです」
「え?」
手榴弾かな。確かに火薬の臭いや焦げた臭いがする。
適当に浄化しとこう。
「ん。よし。こっちでなにかあったか?」
「借金取りに襲われたこと以外はなにも」
「おい、なんだそれは」
話を聞いてみると。どうやらこの孤児院、元々教会の持ち物だったらしいんだけどその教会がどっかの地主にここを売ってしまったらしく。
場所を移動することもできないので借金してここだけを買い取ったそうなんだが借金はいまだに返せずじまいなんだとか。
「で、矢文か」
「そういうことだったそうです」
子供に当てて、人質を取りたかったのだろうな。毒を消す代わりに金払えと。残念ながら狙ってた相手間違えてるがな。
「ふぁ………まぁ、孤児院は孤児院で何とかしてもらうしかないだろう。肩代わりできるほど俺たちに金はない」
「それもそうですね」
俺達が貴族並みに大金持ちだったらまた話は別なんだろうが。それだけポンポンお金を出せることが出来るほど俺も甘くはないし、経済的にもキツい。
ライトと話し合っていたら子供達の中で一番大人びている女の子が近付いてきた。
「ねぇ」
「ん?」
「あなたのお父さんとお母さんっているの?」
「俺のか? いるっちゃいるけどここ数年会話してないな」
正直顔もみたくない。
「いるのに、会ってないの?」
「まぁな。両親とは根本的に合わないんだよ」
恥さらしだ、何て言われたくらいだし。ハッ、好きにいってろって感じだけどな。恥とか正直どうでもいいね。家の誇りなんてそれこそ埃以下だ。
「いいなぁ、いるってだけで」
「確かにいるけど、俺の家には帰る場所がない。君の方が羨ましいよ。まぁ、無い物ねだりだけどな」
「家なのに帰る場所がないの?」
「居場所がないって言った方が正しいかな。家族の誰とも話したくなくてね」
あの家に生まれたってだけで何故あれほどまでにトップを狙わなければいけないのだろうか。別に何番でもいいだろう。
「わかんない」
「ま、そのうち嫌でも判るようになるさ」
ポンポンと頭を撫でる。女の子は驚いた顔をしてこっちを見た。あ、しまった。また変な癖が出たな。
「っと、ごめんな。こうする癖があってさ。気分悪くなったなら謝るよ」
「ううん、大丈夫」
「ならよかった。あ、そうだ。適当に作ったのでよければわたあめ食べる?」
「わたあめ?」
「知らない? 甘くてふわふわしてるお菓子」
「?」
マジか。わたあめないのか。これはいかん。砂糖中毒者としては見過ごせない。
甘いは正義だ。それを教えなければ!
『まーた下らないこと考えてるわね?』
「下らないとはなんだ」
砂糖はさっき帰ってくるときに偶々見付けた。ショップでな!
ポイントショップ、一体何が入ってるんだろう。全部見たことないから知らんけど。
手をしっかり浄化して、砂糖をタッパーから取り出す。火のルーンと風のルーンを組み合わせて空中で棒に巻き付けていく。
「あ、これ地味に難しいぞ」
【なにやってるのよ………】
落ちない程度に溶かしつつ、飛び散らないように空中に分散させて巻き取らせるって人力でやったら相当難しいことが発覚した。
でも魔法の練習にはいいかもな。
「で、できた」
疲れた………けどわたあめは完成した。試しにちょっと食べてみると、
「おお、わたあめだ」
ちゃんとわたあめだった。
「ほら、食べてごらん?」
「………? ………甘い!」
「美味しい?」
「美味しい!」
集まってきた子供達にもご馳走してあげた。ただの砂糖だけどな!
「あまーい!」
「美味しい」
「うう、美味しいけどベトベトする」
「もう一個食べたい」
「これ、自分でできないかな」
砂糖中毒が増えてしまったような気がするが、まぁいいだろう。砂糖に依存性があるのが悪い。
俺? ガッツリ依存症だと思います。はい。
「なにやってるんですか、ブランさん………」
「お、ソウル。休めたか?」
「そりゃあもう。で、なんで髪が焦げてるんです?」
「ちょっと焦げた」
「何故に」
説明したら、
「トレントの集団に一人で突っ込むとか狂気の沙汰ですよ……」
「それ突っ込んでから気づいた。ははは」
死ぬかと思いましたね‼
まぁ、ポイントも大量に手に入ったし、結果オーライ!
今はとりあえずわたあめパーティーです。
アイラブお砂糖!




