四日目 ワールドマッチ(前編)
チカチカと当てられるライトが眩しい。そんなことを考えることもないほど俺は集中していた。
スーツを着た司会者が前に出てマイクを構える。
『さーて、ワールドマッチいよいよ決勝戦です! 今年勝ち上がった挑戦者は5名、どんな戦いが見られるのか楽しみです!』
観客のなかにギルドのメンバーが見えた。新入りのシャクヤクとボタンも来てくれている。
毎年こんな風に前に出るのは、ちょっと苦手だ。なんか恥ずかしい。
挑戦者達は全員アタッカーで女一人男四人。その顔をちらっと見たら凄い形相で睨まれた。こえぇぇ………。
『そして挑戦者達が挑むのはワールドマッチ最初の大会から今まで、チャンピオンの座を守り続けているこの男! セドリック!』
あ、はい。俺です。一応俺このゲーム出来て直ぐ勝ったから歴代チャンピオンって俺1人なんだよね。
明け渡した方がいいんじゃないかとも思うけどやっぱり賞金は欲しい。あれのお陰で俺の部屋は荒らされずに済んでいる。守ってるのは部屋というよりゲームだけど。
『それでは早速戦っていただきましょう! まずはAブロックから、剣士のポート!』
剣士か………。ただ、ダイテークとは違って西洋の両手剣だな。じゃあ俺は………
『おおっと、チャンピオンが武器をとりだした‼ あれは、前大会で使用していた大鎌、『デッド・エンド』だ! あの巨大な鎌に弾かれた武器は数知れず! 簡単な装備では文字通り刃も立たないぞ!』
よく知ってんな。俺より詳しいんじゃないか?
これは以前入ったクエスト『悪魔の櫓』っていう迷宮で俺一人だけ迷ったあげくに何らかの条件をクリアしたらしく間違えて裏ダンジョンに入っちゃった時に出たボス部屋の宝箱のドロップ品だ。
正直、俺もなんで裏ダンジョンに行けたのか理解してないからこれが市場で出回ることはないと思う。
このゲームってあんまりマイナーな武器がないから大鎌みたいに武器らしくない武器(大鎌って農具だし)があることは滅多にない。
思ったより小回りもきくし長柄の武器としては最高性能なんじゃないかな。
刃の部分が盾にもなるし、デバフ効果で痺れを相手に与えるなどの対人用に作られた武器と言っても過言ではないいい性能のものだ。
「よろしく」
「………俺が勝ったらそれ貰えないか」
「これは駄目。俺もなんで手に入ったのか理解できてないからもう二度と手には入らないだろうしね」
俺に勝つ前提で話を進めてくる。まぁ、アバターとはいえ俺ヒョロヒョロだし、弱そうに見えても仕方ないだろう。
実際、リアルでは勝てる自信がない。
『それでは両者、準備はいいですね? レディ………ファイト‼』
声がかかった瞬間に俺は地面を蹴る。長柄の武器で自分から間合いを詰めるやつなんてそうそういないけど、俺は懐に入られるという弱点をカバーする方法を編み出しているからさっさと仕留めるに限る。
「ふっ」
「はっ!」
武器がぶつかり、金属音が辺りに響き渡る。この感じ、この感じだよ!
俺はニヤリと自分の頬が上がっていくのを感じる。これ中々イケメンなアバターだから格好良く見えるかもしれないけどリアルでやったら気持ち悪いな。
「なんで。笑うっ………!」
「楽しいじゃん? ゲームは楽しむものだからな」
上から振りかぶった状態で相手には今痺れがいっている筈だ。俺はそのままの勢いで体を反転させ、石突きで思いっきり地面に旗をたてるように突く。
「ぐっ」
「おおー、避けたか」
フィールドに大きくヒビが入ってしまっているが、これは運営で何とかしてもらおう。俺は知らんぞ。
ほんの少し顔を逸らして回避してきた。けど、それはお見通し。
「頭上にご注意」
左手で空中に書いていたルーンが発動し電気を孕んだ爆発がクリーンヒットした。
爆風で後ろに下がって様子をみてみたら死んでた。ポートの体が武器含めて全て青い光になり、どこかへ消えていく。
その場に残ったのは挑戦者を示すブローチのみ。
俺はそれを拾って上に掲げた。ドッと観客が沸く。
『流石はチャンピオン! 見事な一撃でポートを退けた!』
あー、緊張した。けどまだ四人残ってる。
レベルは………お、上がってる。もうそろそろカンストいきそうだな。やっとこれで謎が解けるかもしれない。
「カッコいいわよギルマスー!」
ブローチを俺のやつの隣につけてヒメノの方に片手を上げる。
『それでは二人目! 竜騎兵のエリック! 昨年に引き続き二度目の挑戦だ!』
エリック………ああ、あの槍の。じゃあこれは変えた方がいいかな。
俺はデッド・エンドを仕舞って一本の剣を取り出す。これはとあるNPCから面白半分で買った武器なんだけど、破壊力が半端じゃないからクエストでは使えないものだったんだよね。
扱いはできるから馴れてない訳じゃないけど。これの銘は『旋律の剣』世にも珍しいユニーク武器でこれ一本で安い家なら5軒は買える。
ユニーク武器っていうのはゲーム内で一本しかない武器でそれ以外はどこに行こうが手には絶対に入らない。
この剣以外のユニーク武器は全世界で7本見つかっていてその内俺が所有してるのは3本。手にいれた方法はオークションだったり迷宮だったりと様々だけど世界中で見つかっているものの半分が俺の倉庫にあるって狡いかな?
「久し振りだな。ゴーグル」
「その呼び方やめてくれ。それより竜騎兵になったんだな。おめでとう」
「お前に勝つためだ。強くなってるから次は負けない」
「おぉ、そいつは気合いいれないとな」
握手をしてからスタート位置に着く。剣は既に抜いてある。いつでも戦える。
『レディ……ファイト‼』
あいつも長柄の武器だが俺と一緒で突っ込んでくるタイプだからな。それを知ってるからこそこの武器にしたんだ。
ゴーグルを目にはめる。これで、砂ぼこりが立っても安心だ。
「オラッ!」
「なっ⁉」
俺が振ると同時に剣が激しく振動し真空波を直線上に生み出す。うへぇ、これ手がピリピリするぅ………。
痺れるけど武器は絶対に離さない。それは絶対に。
真空波を三発連続で放ち、砂ぼこりが辺りを覆う。俺はゴーグルしてるけど少なくともあいつに顔の武具はない。
ゴーグルの映像を頼りに砂ぼこりに突入し、真空波を二発、回り込んでもう一発。
「っ」
手応えはあった。が、そこからナイフが一本飛んできて反応しきれずに俺の胴体に直撃して………落ちた。
「へ?」
俺がワケわかんない。
砂煙が晴れるとそこにはブローチだけが残されていた。
いや、それはいいんだけど。今これ俺に当たったよな?
HPのゲージは満タン、全くと言っていいほどダメージは通っていない。何が原因で……………あ。
これだ。この防具だ。新しく買ってから一回も攻撃受けてないからわからなかったけど、ここまで防御に優れていたとは思わなかった。
「高かっただけはあるんだなぁ…………」
なんかズルしてしまった気にはなったけど、俺の武具も俺の力だ、ということにしておこう‼
その次とその次の挑戦者は………はっきり言ってめっちゃ弱かった。ごめんなさい。名前も覚えられませんでした。
だってルーン一個でKOしちゃんうんだもん。めっちゃ弱い。
『それでは最後の挑戦者、スズナ‼ 今大会が始めての公式戦だそうです!』
スズナ? 嫌な名前だ。俺は頭をふってそのイメージを掻き消す………ことができなかった。
「………っ!」
目の前に立っていたのは妹だった。