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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 二冊目
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三十七日目 お掃除

 あーちゃん………もといアレックスさんに教えてもらった道を通って孤児院へ向かう。


 ピネは俺のゴーグルのゴムを弄って遊んでいる。たまにパチンッてなるからやめて欲しいんだけど。


 ライトは相変わらず俺の一歩後ろを静かに着いてくる。


 別に孤児院の掃除に付き合う必要はないんだけどね。


「あのー、すみません。ギルドの方で依頼を受けて参りました」


 少し大きな声で呼び掛けてみたが返事はなし。


 仕方がないので少しなかに入らせてもらった。


「あ、お、おきゃっ、おきゃさくま、じゃない、お客様」


 おきゃさくまってなんなんだろう。


「あ、あの、う、うちの、こ、孤児院になんの、よ、用で、ご、御座りますってるでしょうか」


 焦りすぎて文法がヤバイことになっている。


「落ち着いてください。自分は冒険者ギルドの者でここの依頼を見て来ました」

「あ、そそそその、ま、誠に有難うございたく………ありますです!」


 もう何語だろう。


「では早速始めますか。どこを掃除したら良いでしょうか?」

「で、出来れば全部………」


 え?


「全部ですか」

「で、できる範囲で結構ですので!」

「は、はぁ……」


 生返事を返してしまった。中に入ってみると。うん。これは人を雇わなきゃいけないレベルでヤバイ。


 汚いどころじゃない。だって、


「なんで屋内に魔物がいるんですか⁉」

「か、勝手に入ってきちゃうんですぅ……」


 これは、割りにあわんなぁ。


「主、いまここで焼き払いますか」

「いや、電撃流してショック死させてくれ。出来るよな?」

「勿論でございます」


 バチッと音がして室内にいた魔物が一斉に死んだ。マップ上に浮かんでいた赤い点も全て消えている。


「流石」

「主に比べたらまだまだでございます」


 確認してみると首筋辺りに小さな丸い焦げがある。ここを焼ききったのか。


「す、すす、凄いですぅ……!」

「あの、子供たちって」

「ぜ、ぜぜ全員あっちの部屋にい、います。あっちなら、ま、魔物もはいってきませんですので」


 ガッチガチだけど放っとけば治るか。ってことで奥へ入っていく。


 奥では小学生くらいの男の子が7人、女の子が5人、中学生位の男子が二人と女子が一人いた。


 年上に見える三人が小さい子を守るように俺の方に手を広げている。


「だ、誰だ!」

「冒険者ギルドの者です。ここの清掃を請け負いに来ました」

「ランクは!」

「ランク? …………なんだっけ。まぁ、一番下です」


 なんだろう。一瞬鼻で笑われた気がする。


「高々Fランクが出てくるんじゃねーよ! 子供は冒険者やっちゃいけないんだぞ!」

「一応試験はパスしてますし、依頼を受けてここに来ただけです。そんなことより………その後ろの子はどうしたんです?」

「昨日から調子悪いんだよ! 近付くな!」

「………成る程」


 ゴーグルを外してため息をつく。正直これには関わりたくなかったな。


「主、どうされましたか」

「………進行毒だ。しかも全員感染済み、さっきの魔物も全て感染していた。あの一番症状酷い子だと余命は二日ってとこだ」


 進行毒感染。本当は全然違うんだけどいつのまにかそう呼ばれるようになった感染する毒。


 エルダートレントは触れることで動物に毒を感染させ、その屍肉を食らう魔物だ。つまり、このまま放っておいたらここにいる子は全員死ぬし、死んだらエルダートレント率いるトレントが町を食い荒らしに来るだろう。


「は⁉ 何いってるんだよFランク」

「このままだとお前ら死ぬって言ってるんだよ。言葉が通じないのか? ん?」

「なっ―――これでも孤児院でちゃんと勉強してる!」

「あっそ。ま、俺は掃除を頼まれただけだからな。勝手に始めさせてもらうよ」

「俺達の宝物に触るな!」


 狼かこいつは。


 別に触らなくても綺麗にする方法はある。


「ライト。ちょっと離れてろ」

「御意」


 ライトが少し離れたのを確認してから地面にルーンを数個重ねて書き、ずらしてもう幾つか書いていく。


 これはバグ技ともいえる魔法で前に書いたルーンを次のもので打ち消す効果を生ませるものだ。


 よくわかんなかったらオリジナルで魔法が作れるって思ってくれたらいいよ。


「……浄化クリーン


 魔法の輪が浮かび、部屋全体に行き渡ったかと思ったら全て綺麗になっていた。おお、ゲームの時より威力がある。


「蜘蛛の巣も埃もとれてるな。よし、仕事終わり‼」

「雑すぎませんか」

「だって綺麗にしたら掃除の必要ないじゃん」


 ちゃんと掃除するつもりだったけどこれはこれでいいだろう。屋根裏とかも綺麗になってる筈だろうし。


 そんなことより大事なのはあの毒が広がっている男の子だ。多分彼が感染源。どこかで木と間違えて毒化したトレントに触れてしまったのだろう。


「どうされるんですか?」

「治すだけ治そう。………ついでにトレントも倒しに行こうか」


 一人一人にかけていたら面倒だから、折角だし、吟遊詩人ミンストレルの特性を試してみようかな。


 なんにしようか……アメージンググレイス辺りでいいか。


 喉にMP………こっちでいう魔力を溜めて確りと練る。必要ないようで必要なことだ。


 適当にやったら同じ消費量でもかなりのムラが出来てしまうからな。


 英語で、なるべく遠くまで飛ばすようベルカント唱法を使って歌う。


 ベルカント唱法っていうのはベッリーニとロッシーニが確立した唱法で、地声ではなく裏声を使って歌いあげる。オペラとかは大抵これだな。


 合唱だったり声楽をやっている人は大抵こんな歌いかただ。ミュージカルやポップスとかはまた変わってくるけどな。


 この曲は途中で転調するけど、そこまでやる必要はないと思ったから一番だけで終えた。


 吟遊詩人ミンストレルにはサポート系の魔法を歌で歌うということができる。これは聞こえる範囲の味方にはみんな掛けることができる。


 込めるMPの質を変えれば様々な効果が得られるのが特徴で複数人に一気にかけられるのが楽でいい。MPはバフ系の魔法から回復系まで何種類もあって、しかも中々威力もある。


 まぁ、その分普通の魔法だったり近接戦闘だったりではちょっと弱くなりがちなんだけどな。


「と、突然なんなんだよ!」

「仕事をしたまでだ。君、気分は?」

「え? ………あ、もう大丈夫だよ!」

「そうか。毒は取り除いたけど衰弱までは手を出していないから今日と明日は過度な運動は控えるように」


 念のために薬を出しておこう。初級の万能薬は……ああ、あったあった。


「はい、これ。気分悪くなったら飲んでくれ。水で十分の一に薄めても充分効果はある。ただ、ちょっと味は悪いからそこは我慢してくれ」


 ここまで言って、俺は医者かよって自分で自分に突っ込んでいた。まぁ、医者も経験したけど。


 とりあえず全員確認したが、問題なく毒を取り除く事が出来ていた。一番症状の酷かった子に近付くと、さっきの男の子が前に立ちはだかってきた。


「近付くなよ、Fランク!」

「はいはい、近づきませんよ。君、どこかで木に触ったと思うんだけど………っ⁉ 危ない!」


 咄嗟にリリスを抜いて飛んできたものを殴り付けた。ガキン、と軽い衝撃が腕に伝わってくる。ちょっと強く殴りすぎたのか直ぐにそれは俺が殴った方に方向転換して壁に突き刺さる。


 確認してみると矢だった。俺が殴ったところでポッキリと折れている。後ろには紙がついていた。


「矢文とは…………古くさい方法使ってるんだなぁ………」

「主。今気にするべきはそこではないかと」


 わかってるよ。なんかこう、時代劇みたいでちょっとワクワクしてたのは言うつもり無いけどさ。


 壁から引き抜いて見ると鏃に毒が塗られていた。神経毒だな、これ。致死率が高い毒を使ってくるところ、厭らしい相手のようだ。


 直ぐに探知してみたが回りに人が多すぎて判らない。名前さえ分かれば簡単に追えるのに。


 手紙を開けてみる。


【命が惜しければ500イルク払え、ね】

「ここにそんな金があると踏んでこれを俺に向かって飛ばしたなら、本当にバカなのかもな」


 まず向ける相手が違う。それにここは金がなさそう。


 それだけじゃなく矢文に毒を塗るとか交渉決裂してくださいって言ってるようなもんじゃないか。

 四人目、皆のモフモフアイドル、レイジュです。


===========


 レイジュ


 主人公の召喚獣でスカイドラゴンの亜種。魔物ではなく霊獣。でもパッと見魔物にしか見えないので周囲は完全に魔物だと思っている。


 四足歩行だが羽があり、モフモフ。とってもモフモフ。馬よりもずっとタフで足が速い為荷物運びになっている。


 元々住んでいたところで同族にいじめを受けていたために最初は主人公を拒絶し、契約するまで三週間以上かかった。


 臆病で戦闘能力はかなり低いので化け物じみた強さをもつ主人公パーティで唯一割りと普通。でも見た目が普通じゃない。


 レイジュという名前は気に入っているらしい。

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