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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界?探索記録 四冊目
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三百六十九日目 誤魔化して逃げる

 駆け出し冒険者っぽい子は善意なのか分からんが、めっちゃ自分を売り込んでくる。


 正直尾行相手が倒されてる所であんまり話したくないんだが……。ここ人通り殆どないからまだ誰にも見られてないけど、誰かが来たらすごい目立つし。


「本当に大丈夫ですから……。それより、その人たちなんですが、そのまま放置してもらってもいいですか?」

「えっ? でもマニュアルだと衛兵に引き渡すようにって」

「ああ、まぁ、それが本来の対処法だとは思うんですが、雇い主がはっきりしない以上は無闇に衛兵に引き渡すと面倒なことになるかもしれないので」


 実際、彼の行動は正しいんだろう。


 明らかに怪しい相手が一般人を狙っている、そんな場面で動いて治安維持組織に報告する。その行いは正しい。


 けど、俺はそれで問題が起こらない例をあまり知らないんだ。


 大抵の場合でそれ以上の厄介ごとが起こる。


「だからこそ、僕を雇いましょうよ! 今なら2割……いや3割引でお受けします!」


 いや諦めないね君!?


 しかも三割引きだとしても結構高いのは変わりない。どこの相場で値段言ってるんだか……。


「いや本当に護衛は大丈夫だから」

「そこの二人! 何をしている」


 あーーー。衛兵きちゃった……。そりゃこんな分かりやすく人通りない場所、パトロールしてないわけないよね。


 やべぇどうしよ……この人達のこと、正直に言っちゃうか……?


 いや、ダメだ。下手すると難癖つけられて戦争になりかねん。


 イベルの件での監視がこの人たちだけとは限らないから、可能な限り正体は明かしたくないし、内密に処理してもらうように手を回すのは厳しそうだ。


「これがどういう状況か、説明してもらおうか」


 衛兵に睨まれる。ぱっと見だと俺と駆け出し君が後ろの倒れてる人たちを一方的にボコボコにしたみたいに見えるだろう。俺と駆け出し君、無傷だし。


 駆け出し君の腕が案外いいから余計に疑われそうな感じになっちゃってるのがまずい。


 簡単な魔法でも魔力を大量に使うから、アニマルゴーレム経由で魔法……あんまり使いたくなかったけど、こうなったらやるしかないだろう。


 こっそり手のひらに出現させた収納の入り口から数匹の蜘蛛型ゴーレムを取り出し、服の袖から背中を経由して背後の男性の上に飛び乗らせる。そのままこっそり回復魔法を掛けつつ、駆け出し君が話し始める前に一定範囲の音を消すスキルを使う。


 このスキルは魔法ではなく、吟遊詩人(ミンストレル)職業(ジョブ)固有のスキルだ。出てきた音に対して打ち消す音を出す、所謂ノイズキャンセルの能力がある。


 魔法とは違い魔力を消費しないので掛けたことがバレにくい代わりに、一度使うとクールタイム終了時まで再使用できない。本来は戦闘中、相手が使おうとしているバフやデバフの魔法やスキルを無効化するために使う、というかなり使いづらいスキルだ。


 相手が使う前に発動する必要がある上に、効果の範囲も微妙。攻撃魔法のキャンセルはできないし、再使用までの時間も長い。謎に戦闘職として存在しているくせにスキルがこんな変なのばっかりだから人気ないんだよ、吟遊詩人(ミンストレル)……


「すみません。この人たち、酔っ払って道の真ん中で寝てたんで起こそうかと思いまして。ほら、この辺り少々物騒じゃないですか」

「酔っ払い、ねぇ……確かに酒の匂いはするし、こいつらも怪我はなさそうだ」


 衛兵が倒れている男達を一人ずつ確認していく。怪我は直前にアニマルゴーレム越しの回復魔法で治したし、ついでに酒を霧状にして撒かせた。酔っ払って寝てるということにして、この場を切り抜けよう。


 駆け出し君が何か言おうとしたのか口を開いたが、声が出ないのに気づいて焦っている。衛兵が背を向けている間に口だけパクパク動かしている彼に金貨を数枚握らせ、口を塞ぐジェスチャーをした。喋るな、というこちらの意図を汲んだのか、金貨が嬉しかったのか、駆け出し君は頷いた。多分嬉しそうな表情からして後者だ。


 衛兵が訝しげな表情で倒れてる人を確認していくが、誰も怪我をしていないのを見てため息をついている。


「わかった。こいつらはこちらで預かる。もう行け」


 あー。そうなるか……。できれば放置してもらいたいところなんだが、これ以上俺が食い下がると怪しまれるな。


「そ、それじゃあお願いします。ほら、行こうか」


 駆け出し君の肩を押しながら路地を出る。もうここからは俺は庇えない。他国要人の護衛が一般市民を襲ったという結果が残らないだけマシだと思うしかないな。護衛が酔っ払って道で寝ちゃったっていう醜聞は広まるかもしれんが、その件で戦争まではいかないだろう流石に。


 路地を出てから暫く歩き、衛兵からかなり離れた位置に移動した。ここまで来れば大丈夫かな。


「えっと、その金貨差し上げるので今日のことは忘れてもらえませんか? なるべく他言無用でお願いします」

「……! ……」

「あ、すみません。音戻しますね」


 彼の声を音消ししてるのを忘れてた。指を鳴らして解除すると、駆け出し君は怒涛の勢いで話し始めた。


「あなた一体何者なんですか!? こんなにポンと金貨3枚も渡してくるなんて、普通じゃないですよね!? やっぱり護衛がいた方がいいと思います!」

「いや、金貨あんまり道で出さない方が……まぁもういいや。今回の件は言った通り忘れてください。あと護衛は大丈夫です」


 色々やることがあって精神的に疲れる……あとアニマルゴーレム越しに回復魔法使っちゃったから若干体調悪いし、さっさと帰って休もう。


 アニマルゴーレムを介して魔法を使うと、普段の数倍魔力消費するからコスパが非常に悪いんだよね……。


 イベルのことをソウル達と相談して今後の方針も決めとかないと。


 暫く、忙しくなるかもな……。

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