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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界?探索記録 四冊目
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三百六十五日目 初対面

 正直なところ、ブランにはあまり話したくなかった。


 別に不信感を持ってるとか、単純に嫌いとかじゃない。ブランに話すといちいち大事になっちゃうのも、あるけど。おれは、ブランの本当の子供じゃないから。


 ブラン自身もその辺り、無意識かもしれないけど結構線引きしてる。冗談めかして「俺は親だから」みたいなこと言うけど、おれたちが本当の親子だとは、多分ブランも思ってない。


 前にソウルが言ってたけど、ブランは両親……特に父親との仲が非常に悪いらしい。だから『仲のいい家族』に強い憧れを持っている。部下になった人に身内認定しまくるのは、そんな理由がある、だとか。


 ただ、憧れてるから真似はしたいけど、距離感がわかってない。どれくらい甘えていいのか、どれくらい距離を取ったらいいかが経験ないからわからない。だからちょっとだけ線引きしてしまう。近付きすぎて、嫌われたくないから……って。


 ブランの家族の練習に付き合って欲しい、とソウルには言われていた。


 そんな人に、こんな面倒な問題押し付けたくない、とは思ったんだけど。約束だから仕方ない。






 ブランとは学校の食堂で待ち合わせだ。昨日ブランに相談したのに、こんなに早く展開が進むとは思ってなかったけど。ユリウス君と食堂に行ってブランを探す。


 学園長に制服を借りて紛れ込んでるから、とは言われてた。食堂の隅の方で紅茶を飲みながら待機してる姿が、あまりにも周囲に同化してて最初本気でどこにいるかわからなかった。


「馴染んでるね、ブラン……」

「おお、イベル。俺自身驚いてるよ。想像以上に誰にも気にされてない」


 目と髪色をくすんだ茶色にして、黒縁メガネかけてほんのり変装はしてるけど、割とまんまブランだ。童顔で学校が似合いすぎてる。


「それで? 例のお嬢さんは?」

「これから中庭で会うつもり。この時間は中庭でご飯食べてるから」


 ふーん、と相槌を打ったブランがゆっくり目を閉じる。数秒そのまま固まったと思ったら、ため息をつきながら目を開けてお茶の残りを飲み干した。


「とりあえず刺客とかは大丈夫そうかな。行こうか」

「学校に刺客がいると思ったの……?」

「うーん、いてもおかしくないだろ? 警戒しといて悪いことないしさ」


 先に歩き出すブランに、ユリウス君が不安そうな表情でこっちを見た。不安なのはこっちも同じだ。


 ブランの態度、危機感があるのか無いのか分かり難いから、余計に不安になってくる。


 いつもこんな感じだけどさ。


「あ、ブラン、あの子だよ。奥の席にいる白いリボンの」

「へぇ、思ってたより小柄だな。それじゃあ話し合いに行く……前に俺の素性決めて欲しいんだが」

「素性?」

「俺との関係性だよ。ついでに偽名とか」

「おれが考えるの?」

「俺のネーミングセンス知ってるだろ。頼む」


 確かに、霊獣だからレイジュとか、鳥さん2号とか、たまに酷いのは知ってるけど。


 ええっと……


「イベル様! やっといらして頂けましたか!」


 !? 顔を上げると、メリエッタさんとばっちり目が合ってしまった。彼女が笑顔でこっちに向かってくるのが若干ホラーだ。


 一瞬呼吸が止まったのがわかる。ユリウス君も小さく悲鳴をあげた。


「め、メリエッタさん……」

「あら、メリーとお呼びくださいませ。私達、深い仲でしょう?」


 あんまり深くなりたくない。


 後ずさると、ブランが割って入ってきてくれた。明らかに彼女の表情が暗くなる。


「何ですか? 邪魔をしないでいただける?」

「そうですね。まずは通路で話をするの、やめましょうか。通行の妨げになっていますし」


 周りに視線を向けると、狭い中庭へ行く通路が少しだけ渋滞していた。周囲の視線を受けてメリエッタさんが一歩下がる。彼女が一歩でも引くの初めて見た。


 ブランが手で中庭を示すと、メリエッタさんが渋々戻っていく。一瞬、ブランの目がびっくりするぐらい冷たかったように見えた。


「……ブラン?」

「ああ、悪い。行こう」


 今の視線、なんだったんだろう……。なんか、ちょっとだけ怖かった。


 中庭の長椅子に座ると、早速メリエッタさんが確実にブランに対して敵意を持った様子で話しかけてきた。


「見ない顔ですわね。名乗りなさい。私に恥をかかせたのですから、覚悟はできているのでしょうね?」

「……セドリックです。この学園には籍を置いているだけで、あまり授業には参加できていません。そのためお会いしたこともないのでしょう」


 セドリックって、ある意味本名じゃないか。確かミドルネームだった気がする。この状況で偽名を作るのも難しいと思ったんだろうけど、大丈夫なのかな……。


「セドリックね。覚えました。それで? イベル様とはどんなご関係でいらっしゃるのかしら」

「それは……」


 ブランがこっちを見た。まさかここから先はおれ任せだったりしないよね!?


 ああ、でも下手にブランが『幼馴染です』みたいに取り繕って、おれが周囲に『幼馴染なんていなかった』っていう話とかしてたら話がおかしなことになるから、関係性に関してはおれが考えたほうがいいか……


 あ、ど、どうしよう。なにも考えてない。


「えっと……せ、セドリックは、その……い、家で世話してくれる人、みたいな」


 焦って何言っちゃったんだ!? なんか変なこと口走ってない!?


 ま、まずい、自分でも何言ってるかわかんないよ!


「……そうですね。今はイベルと友人という立場でここに居ますが、本来は主従関係。身の回りのお世話や、護衛を仰せつかっております。家での仕事がありますので学園にはあまり顔を出せませんが、今回はイベルの身辺警護も兼ねて学園へ来る事になりました」


 さらっと纏めてくれたー! ありがとうブラン! あとなんか成り行きで召使いにしちゃってごめん!

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