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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界?探索記録 四冊目
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三百六十一日目 メンヘラ怖い

 全体的に狂気を感じる分厚いお手紙をソウル達に渡すと、全員の表情が引きつる。


「これは……かなり自分の世界に入ってますね」

「私達に言いづらかったと言うのもわかるな……これは相談しにくい案件だ」

「この方の考え方は、どことなく我々(悪魔)に似ていますね。他者のことなど考えないところなどが」


 ソウル、エルヴィン、ライトの言葉は概ね俺と同じような意見だった。


 送ったラブレターが相手の親に見られるという状況になってしまったのは、何となく罪悪感を感じないわけではないけど。罪悪感は内容のキモさで相殺されちゃってるかな……。


 申し訳ないって思うより先に、この子何とかしなきゃ、って思考になる。


「送ってきた相手は、今、交換留学って形で学校に来てるんだけど……返答次第によってはこっちの学校に転校してくるつもりみたいで」


 なるほど。相手が留学生だから俺に言うのが遅くなったのもあるのか。元々期間限定の学生だったから、期間中耐えれば何とかなると思ったけど、相手が引っ越してまでアプローチするとか言ってくるからどうしようもなくなったんだろうな。


「……何となくわかった。つまり、このお嬢様を何とかすればいいんだな?」

「ブランの『何とかする』って何だか不穏なんだけど……何するつもりなの」


 別に夜道を襲うとかしないよ。


 するとしたらメイド達の誰かがやりそうで怖い。みんな置いてきて正解だったかもしれない。


「その前に一個いいですか」


 急にソウルが前に出てきた。手紙の入った封筒を机に置いてから目を向けたのは俺でもイベルでもなく、この家の人間……スルグ公爵の息子さん。名前は確かユリウスだったと思う。ユリウス・エルバン・スルグ。流石に公爵の息子くらいは知ってるよ。


「どうしてイベルを匿ってくれたんですか? 正直、これを見る限り厄介そうな相手であることは間違いないでしょう。しかもイベルが中々名前を言わない時点でそこら辺の平民でもなさそうですし、下手に動けば危険な目に遭うのはあなたでもおかしくはないと思うんですが」


 あー、確かにそこ俺も気になってた。


 だってイベルとこの子が仲いいイメージないもん。いつもの仲良しグループにもいないし。


 いつものメンバーは頼れなかったんだろうけどね。貴族が多い学校では珍しい平民組だし、嫌がらせを受けたら自分だけじゃなく家族が大変なことになる。俺みたいに平民のわりに発言権とか地位がある訳じゃない。平民の家の仕事なんて、貴族からしてみれば潰そうと思えば簡単に潰せるからなぁ……。


 ソウルに声をかけられて、ユリウス君が俯く。いや、視線が扉の方に向いてる。


 それを見たソウルがこっそりと耳打ちしてきた。


「ブランさん、ちょっと紙とペン貰えます?」

「え? ああ、これでいいか」


 収納からメモ用紙とペンを渡すと、ソウルは何かを書いてユリウス君に見せた。すると若干怯えた表情のユリウス君が頷く。何を書いたんだ?


 ソウルに聞こうと思った瞬間、ソウルが魔法を使った。音を消す魔法と、幻を見せる魔法の二つを。


 内緒話によく使われる組み合わせの魔法だ。音を消し、口の動きでバレないよう簡単な幻も重ねる。高度な魔法で突破できないわけでもないけど、結構難しい上に突破されたら大体は気付ける。


 俺の家はこの魔法が常時展開されていたりする。色々バレると困ることが多いからね。


 急に魔法を使ったから、ちょっとビックリした。


 ソウルが見せてきたメモには『お父さんに聞かれたくないことですか』と書いてある。なるほど、それで扉を気にしてたのか。さっきからスルグ公爵が扉の前にいるしね。


 それじゃあこの部屋にある盗聴器の類も一時的に接続切ったほうがいいか……。


「ライト」

「はい」


 要件何も言ってないけど、ライトは名前呼んだら即座に行動に移した。部屋にある、いくつかの盗聴魔法が仕込まれた物に電気が走る。


「ああ、手が滑って調度品のいくつかの接続を切ってしまいました。申し訳ございません。少々難のある魔法術式を見ていられなくて……。もちろん後でちゃんと直しますので」


 白々しい台詞が出てきた。こういう嫌味がさらっと出てくるのは悪魔っぽいよな。


 まぁでも『少々難のある』っていうのは納得だ。部屋に入ってすぐに気付けるくらい、隠蔽が下手だもん。


 最初、囮用で雑な魔法陣の道具を用意して、それを隠れ蓑に本命はすごく巧妙に隠してるんじゃないかとか思ってたけど……結構本気で探したけど見つからなかったから、この部屋の隠蔽がお粗末だった。


 こっそりと家に入る前に虫型のアニマルゴーレムを複数潜りこませてたから、調べるのは簡単だった。


 一応この家、俺とがっつり敵対してるし。そりゃ警戒もするよ。


「ちょっと乱暴だった気もしますけど……何かあったらブランさんが対応してくださいね」

「え、俺なの」

「ライトの主人はブランさんでしょう」


 それは、そうだけども。


「それでは、盗み聞きの心配もなさそうですし、お話聞かせてもらえますね?」

「……はい」


 その後ユリウス君から聞いた話によると、交換留学で来ている手紙の相手は遠縁に当たるらしい。


 とはいえ、国がそもそも違うので、ほとんど会ったこともないのだそうだが。


 一応身内ということで、交換留学が始まった時に色々案内したとのこと。それまでは良かったんだけど、


「あの子が……イベル君に一目惚れしちゃったみたいで。最初はお手紙出してるだけだって言い張ってたんですけど、なんかイベル君に付き纏いはじめて……流石に止めなきゃと、思ったんですけど……止まらなくて」


 そりゃそうだろうな。あんな手紙を出す子がすんなり諦めるわけない。


「それで、一旦イベル君から迷惑してないかって話聞こうとして家に呼んだら……なんか、あの子が僕がイベル君をとったとか、騒ぎ出して……僕も家から出られなくなったんです……家から出て誤解を解こうとしたら、呪いかけられそうになるので……」

「……どうなっとんの、その状況……」


 メンヘラ怖い。

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