三十六日目 あーちゃん⁉
酒を飲むなとヒメノに釘を刺された翌日。
天気は快晴、お出掛け日和だ。
「ヒメノ。ちょっと不味いことになったかもしれん」
「なにがです?」
「………あいつがな、呼び出すのがライトより遅かったからか拗ねて出てこないんだよ……」
昨日の夜。俺は契約精霊を呼び出した。久しぶりの再会かと思われたが自分が契約魔法生物の中で最後に呼び出されたと知り、拗ねて召喚に応じてくれなくなった。
俺には正直言ってあまり精霊使いの才能はない。どうやら雰囲気から逃げられるようなんだ。
俺もよくわかってないけど、精霊にはなんか嫌われている。
その代わりに使い魔を呼び出す才能はあるらしい。変なやつばっかりだけど……
その精霊のなかで唯一契約してもいいよと言ってくれたのがピネだった。風の精霊でかなりのツンデレを発揮する。
「ピネ。悪かったって。偶々こういう順番になっただけで」
『煩いわね! 呼び掛けないでよ!』
「そんなこと言われても俺にはお前しかいないんだって………」
精霊寄ってこないし………
『え? 私しかいない?』
「え、じゃあ逆に誰がいるんだ?」
『ふ、ふーん? じゃあそっち行ってあげてもいいけど?』
「本当か⁉ いやー、よかった。精霊いなかったらどうしようかと」
『やっぱやめるわ』
「何故に⁉」
それから応答もしてくれません。
「それはギルマスが悪いですね」
「なんで」
「女心がわかってないんですよ」
「俺一応女なんだけど………」
【安心なさい。誰も貴方には期待していないから】
地味にヒデェ。
「仕方ないですね、僕が話します」
え、ヒメノで行けるのか? あいつかなり気難しい上に警戒心高いから答えてすらくれないこともあるかもしれないぞ?
『ヒメノがそういうなら仕方ないわね。口車にのってあげるわ』
「えええええ⁉ 何したの⁉」
「なにもしてませんよ」
なんか召喚陣に向かってこそこそと話したと思ったらあっさり出てきた。俺の今までの努力って…………。
『あら? 出てきてわかったけどヒメノは男になったの? セドは縮んだわね』
「縮んだは余計だ………」
縮んでねぇ。変わってないだけだ………。
「これが本当の僕なんですよ」
『へぇ、そう。あら? 名前も変わったようね。どっちで呼べばいいかしら?』
翠の色をした三つ編みが揺れる。名前が変わったって判るのか?
「わかるのか?」
『ええ。精霊には名前を見る力があるもの』
初耳です。
「あー、そうだな。どうする? アバター名でいくかこっちの名前でいくか」
俺は結構前からヒメノって名前に若干違和感を感じていた。
だって女みたいな名前だし。いや、俺もそうなんだけど。
「でも確かに、ここってゲームの中でもリアルでもないですもんね」
「だろ?」
で、暫く話し合った結果こっちでの名前で呼びあうことになった。
俺の性別間違われる率が今のところ100%だからな。名前だけでも、って感じだ。
で、俺はブラン、ヒメノはソウルってことになった。
なんか俺の名前こっちも女っぽくはないような気がする………ま、いいか。
まだ余裕があるとはいえ、色々と買ってしまったがために少なくなってきたお金を得るために冒険者ギルドへ来た。
因みにヒメノは疲れてる様子だったから置いてきた。
どうやら俺の体は結構疲れ知らずというか、寝れば全快するらしい。我ながら不気味だな。
ステータスとかも軒並み上昇しているし、これはもう人間と呼んでいいのか不安になるレベルだ。
人間じゃなかったら俺ってなんなんだろう。
ギルド内は滅茶苦茶混んでいた。どうやら今さっき新しい依頼が貼り出されたようで皆割の良い仕事を取ろうと必死なんだそう。
近くにいた人が教えてくれた。
俺はあの中に入っていける自信がないな。人混み苦手だし。
「主、私が見て参りましょうか?」
「いや、いいよ。引いてからでも。最悪いつもあるような依頼でもお金は稼げるし」
「承知いたしました」
ライトはライトでマジで従者っぽい感じが板についてきた。最初は悪魔らしくちょっと傲慢だったんだけど俺に一回ボコボコにされてから執事っぽく振る舞うようになった。
あの時勝てたのは運が良かっただけなんだろうけどな………。
眠い………ちゃんと寝たんだけどな。柱に背を預けてうとうとしていたらライトが顔を覗き込んでいた。
「ぅおっ⁉」
「寝ておられましたか?」
「いや、若干記憶がとんだ」
「それ寝るって言うのでは……?」
悪魔であるライトに睡眠は必要ない。だからライト自身睡眠というものをはっきり理解していない所がある。
「あ、人も引いたみたいだな」
伸びをしてから掲示板の前へ。なんか良いのあるかなぁ。
ゴーグル越しで文字が翻訳されていく。アリアン草の採取、古の森の調査、マグマドラゴンの調査および討伐………
ランクが合わないのもあるからそれ以外となると採取ばっかりだな。まぁ、入りたてのド新人に討伐は任せられないと言ったところだろうか。
ただ、ランク不問のやつは無駄なほど難易度が高そうなやつがある。さっきのマグマドラゴンもそうだしまるで隠されるようにエルダートレントの毒化の調査なんかもある。
エルダートレントっていうのはトレント種の上位種でトレントっていうのは木の魔物だ。トレントのアルビノ位の確率でエルダートレントが生まれてくる。
で、このエルダートレント、厄介なのが強力な毒を持っている。
しかも触れるだけで感染するウィルスのような毒だ。最初は気づかない位のものでしかないんだが、徐々に進行していくにつれ嘔吐や目眩、激しい腹痛に襲われ、高熱が出て最悪の場合死に至る。
これはゲームの初期の初期に実装されたクエストだったんだけどあまりにも難易度が高すぎて廃止になった。
患者に触れるだけで感染する為に調査の前に死ぬ人が続出し、運営の方にかなりの不満のメールが行ったらしい。
俺? クリアしたよ。ドヤァ。
『ブラン、顔が気色悪いわよ』
「お前それは言いすぎだろ」
これは対策さえ練ればあとはエルダートレントを倒せるだけの実力を持っていればいける。
けど、こんな後ろに追いやられてるならもう終わったことなんだろう。
孤児院の掃除か………うん。これにしよう。
二つある受付の空いてる方に並ぶ。というか誰も並んでねぇ。隣は7人くらいが列を作っている。俺の方? あのおネェだよ。
………あっちに並んでるやつら受付嬢狙いだな。鼻の下がのびてやがる。
「お願いします」
「あら、討伐系の受けないの?」
「まぁ、討伐なら誰かやるかなって………」
「そうでしょうけど、こっちからしてみれば期待の新人が雑用に回るのはちょっとね」
その目はやめてくれ。
「まぁ、新人君次第だけどね。それよりも可愛いわねその精霊さん」
『あら、見る目があるじゃない。嫌いじゃないわよニンゲン』
「あら、ニンゲンじゃなくてアレックスって呼んでちょうだい」
アレックスですか………。俺はちょっと呼べそうにないわ。
『わかったわ! じゃあ、あーちゃんね! 私はピネよ』
あーちゃん⁉
「わかったわ、ピネちゃん」
わかっちゃったんですかあーちゃん⁉
それで良いのかピネよ。この人にあーちゃんとつけるお前のセンス、ずば抜けてると思うわ。俺も人のこと言えんけど。
ではでは三人目。今日は悪魔執事さんことライトです。
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ライト
種族は悪魔帝という種族で、主人公の使い魔。
主人公が酒場の雰囲気に酔うという珍しい酔い方をした際にノリで呼び出された。
主人公を脅してやろうと考えていたのだが椅子を壊した瞬間に「マスターが困るだろうがボケェ!」と主人公がぶちギレしボッコボコにやられた。
その為主人公の軍門に下ったのだが召喚したときと契約したときで明らかに態度が変わり、完全に従者っぽくなったことに主人公が驚いている。
主食は魔力なので時々主人公に分けてもらっている。食べ物は嗜好品の類いだが食べることは好きなので食材が余っていれば遠慮しつつもめっちゃ食べる。
どんな魔法も器用にこなし、特に雷魔法が得意。それなりに剣も使えるので実は作中ではソウルより強い。
主人公曰く「多分ワールドマッチ出たらファイナリストまで残ると思うよ?」とのこと。




