三百五十五日目 一旦確認作業
イベルからの手紙には『やらかして謹慎になった。今は友達の家に世話になってる』という事がざっくり書いてある。いや、なんでそうなったのか説明しろよ。
これは、イベルに聞いてもあんまり答えてくれないやつかもしれないな。学校の手続き関係を任せているシシリーに確認してみるか。
通信機でシシリーに連絡を入れると、すぐに反応があった。
「シシリーか? 今、話せるか?」
『マスター。はい、問題ありません。イベル様の件ですよね』
このタイミングで急に連絡きたらそりゃわかるわな。
「ああ。なんか謹慎処分? ってイベル本人から手紙が来たのは良いんだが……いや、よくはないけど、それ以前に内容がほぼ何も書いてないんだよ」
『やはりマスターにも……。私も何があったか、詳しくはわからないのです。謹慎になった日から一度も帰ってきておられませんので』
「えっ? 帰ってないの?」
まさか謹慎になった日にそのまんま誰かの家に転がり込んだって事?
すごいな、それはそれで。一旦帰るだろ普通。まぁ、なんで謹慎になったかとか、言いたくなかったんだろうけど。
「学校側から話は?」
『それが……謹慎処分になったという事は連絡が来たのですが、内容は本人から聞いてほしいと言われて』
「そんな事あるもんなのか……?」
普通、保護者に説明するんじゃないのかこういうのって。ちょっと適当すぎじゃない?
「色々と疑問は残るけど、とりあえず無事なんだな? それで謹慎の期間は?」
『二週間です。ただ、私が会いに行っても話していただけず……』
「わかった。とりあえずイベルと連絡とってみるよ」
『お願いします』
イベルのことだから、あいつなりに考えてこの結果になったんだろうけど。無計画に動くタイプじゃないの知ってるから余程のことしてなきゃ口出しするつもりはない。
だから今回不思議なのは学校側の対応だ。学園長のレーグは俺がイベルの保護者だって知ってるはずなのに、こんな杜撰な処理をするだろうか? そもそもなんかあったら俺に直接連絡して来るだろレーグなら。
イベルの口から詳細は聞くつもりだけど、学校側の対応のことだけは確認しときたいな……
確かレーグにも通信機渡してたし、それで聞いてみるか。
レーグの通信機に連絡を入れる。少しの間が空いてからレーグが反応した。
『ああ、ブラック。イベル君のことだろう? 連絡して来るのを待っていた』
「そうだ。ただ、詳しい話はイベル本人から聞こうとは思ってるから、学校側の対応のことだけ教えて欲しいんだ。一応、俺が保護者だしな」
『……今回の件、本当は退学になるところだった。私がなんとか謹慎に抑えただけで、今後は守りきれないかもしれない。ああ、ブラックの名前は明かしていないから安心してくれ』
抑えた? なんで学園長のレーグが処分を軽くするって話になるんだ……? こういうのって、処分するかしないかって学園長が決めるものだと思ってたんだけど。
「いや……なんとなく、読めた。貴族がらみだな? それも、王族並みの特権階級に近い」
『そうさ。ここから先は、君自身が息子に聞くべきだろう』
「ああ。ありがとう。そっちこそ、大丈夫なのか? 退学処分にならないように無茶してくれたんじゃないか」
『多少はな。だが……白黒を敵に回すより100倍マシだろう』
「言ってくれるな。次会ったらいいワインでも奢らせてくれ」
『それは楽しみだ』
通信を切り、一旦冷静になって事態の大きさを再認識した。
多分イベルはどこかの王族の子供と一悶着あったんだろう。学校では上下関係は表向きないことになってるが、実質は将来のコネ作りの場所になっている事が多い。
自然と権力があるかないかで派閥が分かれてしまう。イベルは俺の名前を一切使わずに入ったから庶民として入学しているから関わりは少ないと思ってたけどね。一応俺が一代限りとはいえ爵位持ってるから貴族枠で入る事は出来たんだけど、イベルの希望で庶民枠で入った。
だから、多分相手側は俺がイベルの保護者だって知らないと思う。知ってたらこんな迅速に退学させようとする筈ないし。……知っててこれやってんのなら、俺が舐められてるか現状認識が出来てないかのどちらかだな。
「とりあえず、イベルのとこ行くか……」
まぁ、それはミズキさんの作業終わってからになるけど。
一時間後、ミズキさんが大きなため息をつきながら部屋から出てきた。
フルマラソン走った後の人みたいな疲れっぷりだ。
「出来た?」
「なんとか……提出間に合ったよ、ありがとう。この家の人にもお礼言っておいて欲しいな」
「伝えとくよ。あと、急用ができたから今日のバイトは休みで頼む」
「休み? 突然だね」
「ちょっと今日中に家に帰れないかもしれないから、店開けてる余裕がないんだ。急な話だし、ちゃんと給料は出すから安心してくれ」
一応エルヴィンに店任せて向こうに行くこともできるけど、トラブルが起こった時に俺が対処できないと危ないから、今回は店丸ごと閉める方が安全だ。
「そんな、働いてない分の給料はもらえないよ。そもそもそれ法律的にいいの?」
「さぁ? 働いてるってことにすればいいんじゃないか? 従業員に関してはミズキさん以外はある意味全員身内だからその辺の管理雑なのは自覚してるし」
法律がどうとかは知らん。あれこれ考えるのも面倒だしな。
シフト通り出勤したってことで処理すればいい。その方が楽。
「なんか、ブランってあんまり経営者に向いてないんじゃないの……?」
「そうだよ。二十歳の凡人でしかないぞ、俺は」
「えっ、ブラン二十歳?」
「戸籍上、多分。正確にはなんともいえないけど」
あっちにいた頃の日数とか数えてないからな。一応こっちに戻ってきたときの学生証とカレンダーを照らし合わせたら20歳だった。……そう考えると俺の20歳結構長いな。正確に日数数えたら21歳くらいかもしれん。
「年下だった……?」
「あ、気づいてなかったのか?」
実は俺、ミズキさんの一個下なんだよね。俺とミズキさんが初めて会った講義は何年生でも受けられるものだし、いろんな学年混じってるから分からないのも無理はない。
「絶対25歳くらい、いってると思ってた……」
それだと確実に浪人か留年してるね。一応一発合格みたいだったよ。過去の俺がな。
「老けて見えるってこと?」
「なんというか……顔は若いんだけど、おっさんっぽい、かな」
「……ディスってるよね?」




