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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界?探索記録 四冊目
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三百五十二日目 恋は原動力

 白鈴の次期当主さんは怪訝そうな表情をする。


 まぁ、そりゃ「どうやって空を割ったのか」という質問に対して俺の返答が「頑張ったらできた」とか、どう考えても適当に返事されてると思うわな。


 質問されたら答えはするけど、ちゃんと答えるとは言ってないしね。


「……ふざけて言ってるの?」

「半分くらいは。もう半分は本気ですよ。できるからやっただけで、それ以上もそれ以下もないです。貴女だって『どうやって立っているのか』という質問に対して『立てるから』以外の返答って何かあります?」

「つまり、空を割ることは普通のことだと、そう言いたいの?」

「普通とまではいきませんけど……何でもかんでも理屈で説明できるわけじゃないでしょう」


 白鈴の人は数秒じっとこちらをみて、大きくため息をつく。


「……聞いたこっちが悪かったわ。そもそも、ちゃんと答えるつもりないでしょう?」

「そうですね。答えられることなら答えられますけど」


 不機嫌そうな表情のまま、白鈴の人が帰っていった。


 俺だって同じ態度取られたらあんな感じの表情するよ。確実に無意味な時間だったし。


 その後、簡単な食事会みたいなのがあってから依頼終了になった。一応護衛だし俺は後ろに立ってただけで食べてないけどね。ミズキさんはしっかり食べてた。毒とかないことはコッソリ鑑定して分かってたし別にいいけどね。


 帰り際、緑帯の翡翠さんに呼び止められる。


「あの……ありがとうございました。それと、ごめんなさい。こんな内輪揉めに巻き込んでしまって」

「いえ、こちらも仕事で来たんで。それよりも、これからが大変だと思いますよ」

「分かってます。父はまだ彼を認めていませんし、緑帯の次期当主をどうするかという話もあります。白鈴を含む同盟相手にも説明しなければなりません。……それでも、なんとしてでも彼と一緒にいたい。この気持ちだけは、絶対に誰にも折らせません」


 翡翠さんの表情は明るい。それだけ群青さんのことを信頼しているんだろう。


 この先何があっても大丈夫だと信じている。その感情は、俺にも覚えがあるよ。応援したくなる。


 ただ、これ以上俺が何かできることはないだろうな。彼女達が挫折する時が来ないことを祈るだけだ。


「そうですね。貴女の一生は、貴女のために使うべきです。頑張ってください」

「はい。ありがとうございました」


 帰りの車の中、無言だった俺達に運転手が話しかけてきた。


「群青様の味方になっていただき、ありがとうございました。立場上、我々は見守ることしかできなかったので」

「今日、こんな形で婚約が決まることを知ってたんですか?」

「いいえ。ただ、何度も当主に直談判をしていた群青様を見ていた身としては、強引にでも婚約を進める方法はこれしかないとは思っていました」


 日本で人間以外の種族はかなり数を減らしている。そもそも人間から隠れ住んでいる時点で、そんなにたくさんは隠れていられないから当然だ。


 俺みたいに人間に偽装が簡単な種族ならともかく、見た目からして人じゃない種族はほとんど居なくなってしまったらしい。海外に逃げたという話も聞かないわけじゃないが、少なくとも人の形が取れない種族なんかは今の日本には見当たらない。


 だからなのか、種族間の闘争で『純粋な力比べ』が重視されることが多い。能力を持つ種族と持たない種族があるけど、純粋な身体能力でいえばあんまりかけ離れてるわけじゃないからね。


 昔は獣の姿をした者の方が身体的なアドバンテージがあるから力比べはあまり公平じゃない扱いをされてたんだけど、人型しかいなくなったことで逆に公平な競争基準になったらしい。今は60区しかやっていない『当主を喧嘩で決める』方式は元々全ての区域で行われていた。


 ただ、人と共存する生き方を選んだ結果、戦いが最重要ではなくなった結果世襲制をとる地域が増えたんだって。だから俺の住む60区は化石扱いを受けてるんだけど。


「群青様は次期当主としての責任が生まれた時から伸し掛かっているので、昔から言われたことを文句も言わず黙々と取り組むお方でした。それが、翡翠様と出会われてからご自分の意見をはっきりと口にされるようになりまして……ご自分の将来を考えるようになられました。それが、我々には嬉しいのです」


 恋ってものは、本当にものすごい原動力になるからな。


 自分の理想を叶えようとして必死になるのも、共感できる。







 俺の店の最寄駅で解散になり、吉田さんが封筒を手渡してくる。今回の報酬だ。


「本日はお疲れ様でした。また依頼があったら持ってきますね」

「いえ。なんならもう2度と来ていただかなくて結構ですよ?」

「それではまた」


 話聞いてねぇ……!


 封筒の中身は7万円。ちなみに経費は別であっち持ちになる。


「日給換算したら結構いい金額だね」

「ミズキさん、危機感持ってくれ。下手したら死ぬ場所に連れてかれていってること、忘れないでくれよ」

「う、うん」


 今回は何もなかったから良かったけど、これが本気の権力争いとかに発展してたら割と本気で戦争になることもあるから油断はできない。


 次からはミズキさんを同行させる依頼は全部断らないとなぁ……

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