三十五日目 ぐれーとくろーらー……
「ごめんなさいね、集中すると周りが見えなくなっちゃうのよ」
「そのようですね……」
「追加料金もなし、一人分が悪魔なら料金を半額にするわ。だから一週間で67イルクと500アルクね」
何故かライトが半額になった。銀貨と銅貨で支払って、自分の部屋に行く。
おおー。調度品はそれほど高そうではないのだが、統一感があってスッキリしている。掃除もいきとどいているのでかなり良い部屋のようだ。
「ふっかふかベッドぉ………」
昨日は寝袋だったからな。あ、寝そう………
「ギルマス。ご飯いつにしますか?」
………ハッ!
「………寝てました?」
「いやいや、寝てへんって」
「なぜ急に訛る」
危なかったけど‼ だって色々あって疲れたし。
そういやもうそろそろ夕食時か………お腹すいてきたな。
「俺もう食べようかな。お腹空いたし」
「じゃあ僕も行きます」
「私も」
【置いてかないでよ‼】
はいはい。ご飯食べに行くのに武器持ってくってのはなんか違う気もするけどさ………。
「お客さん、夕食かい?」
「はい」
「空いてる席に座っておいて。今持ってくから」
人も結構いて、俺たちは一番端の席に座る。ここの料理は決まったものが出て、それ以上頼むと追加料金だ。財布は潤ってるからちょっとくらい無駄遣いしても問題ないけどね。
「おう、小僧。新入りか?」
「え、俺小僧じゃ………はい。今日冒険者ギルドに登録にいきました」
「三人でか?」
「ええ、まぁ」
ライトは違うけどな。話すのも面倒なのでそう言うことにしておこう。
「見たところ三人とも魔法型だが?」
「自分一応どのポジションでもいけるんで」
「ほう、将来有望だな」
なんでこんなに話しかけてくるんだ………ん? 俺の腰の辺りを見てる?
………ああ、リリスか。
「その短杖が小僧の武器か?」
「これ、打撃武器で………」
「打撃? そんなもんで魔物と戦うつもりか?」
まぁ、確かにそう思うかもな。けど、俺素手でも戦えるし……
「あー、この人軽く化け物なのでそれでも大丈夫なんですよ」
「化け物とか言うな………」
【あら、化け物並みの力があるのに?】
並みってだけだもん。俺は一般人だもん。
「この小僧がね……なんなら稽古でもつけてやろうか?」
「いえ、大丈夫です。自分の戦い方は全部自己流なので多分無駄が多いから人様に見せられるものじゃないですし」
とか言いながら世界大会出てるっていう矛盾。
「本当に戦えんのかぁ? 見たとこ貧弱だし、体力も無さそうだ。まるで女みたいな………おっと、すまねぇな」
逆になんでそこで止めたし。俺一応女ですよ。みたいじゃなくて女です。
「お待たせしましたー、これ以上頼むと追加料金になるから気を付けてね」
小柄な女の子が料理を持ってきてくれた。俺と同い年くらいか?
「君細いね。ご飯食べてる? 一杯食べないと大きくなれないよ?」
「あの、ものすごく失礼だとは思うのですが、おいくつでしょうか?」
「私? 15だよ」
「俺、17です…………」
「「……………」」
もう成長期すぎたよ。伸びねぇよ。期待できないんだよ。
「で、でも今の時代華奢な男の子もきっとモテるって!」
「あの」
「え?」
「俺、女です………」
「……………………へ?」
ちびで悪かったね。日本人の平均は低いんですよ………。
「ご、ごめんなさい………」
「いえ、全然気にしてないので………」
【気にしてるじゃない】
リリスにデコピンをお見舞いしてから料理に手をつける。あ、これ美味しい。
なんの肉だろ………? 牛肉の脂身みたいな色だけどあっさりしてる?
「これ、なんの肉ですかね?」
ゴーグルかけるのさえ面倒だったから聞いてみたら。
「? 普通のグレートクローラーですけど?」
「ぐれーとくろーらー………」
なんか、嫌な予感。
「ぐれーとくろーらーって?」
「三メートルほどの芋虫の魔物ですけど………?」
食べちゃったよ⁉ 芋虫だよ⁉ いや、どっかの地域では生でも食べるらしいけど俺はちょっと。
しかも美味しいのがなんかムカつく。
「あ、もしかしてアレルギーでした?」
アレルギーって概念はあるんすね………。
「いえ、その、自分が住んでいた所では芋虫食べないのでちょっと驚いただけです」
「え、じゃあ何を食べてるんですか」
「牛、豚、鶏。あと羊とか」
「もしかして貴族様ですか………?」
「いや、そんな、ぜんっぜん違いますよ。ぜんっぜん」
なんか寧ろ怪しい返しをしてしまった。
「そ、そうですか」
「そうなんですよ。こ、これも美味しいので問題ないです」
元になったものさえ気を付ければいいんだ。うん。いけるいける。あっさりした牛の脂身だと思えばいいんだ。
そう思えば思うほど芋虫を想像してしまうのは何故だろう。
そして美味しいのが腹立つ。
「主。そういう文化だと受け入れるしかありませんよ」
「わかってるよ。郷に入れば郷に従えって言うしな。……っていうかヒメノは平気なのか」
「あ、僕虫は大丈夫なんですよ」
「へぇ…………」
イナゴの佃煮くらいなら食べれるんだけど芋虫はちょっと………。
非常に美味しかったです。
美味しかったよ、うん…………。
材料を、気にしなければ凄い美味しかったっす。
因みに芋虫を想像してしまって食べられなくなった俺は全部ライトに芋虫を譲った。ライトは旨そうに食べた。幸せそうで何よりです………俺は無理だけど。
この世界では16から飲酒が認められているようなので頼んでみたかったが、ヒメノに止められた。
セドリックである俺から酒をとったら何が残るんだって抗議したら「未成年は駄目です」って正論で返された………くそ、いつか飲んでやる。
こっちでは合法だし。
ヒメノの目が光ってる間は当分無理なんだろうけど………。
あー、お酒飲んでみたいなぁ。今まではバーチャル越しだったからどうしても味とかが薄かったし。
「ちょっとだけ」
「駄目です」
「ケチ!」
「お酒が禁止されてるのはそれなりの理由があるからなんですよ!」
「こっちじゃ合法じゃん!」
「駄目なものは駄目です!」
いくら言っても許してもらえなかった。くそ、あと三年も待たなきゃならんのか、酒。
バーチャル越しですら楽しめないし、今すぐ帰れたとしても三年はお酒なしだ。
「酒がない俺ってなんなんだよ………」
「ギルマスはギルマスです。ほら、部屋に行きますよ」
折角合法的に飲めるチャンスだったのにぃ。
人物紹介第二弾。今回はヒロイン(男)です。
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ソウル・ヒメノ・エステレラ
高身長の二枚目優男。完全に勝ち組な見た目だが、たまにヘタレが顔をだす。
セドリックとしてギルドマスターをやっていた主人公の性別を見抜いたある意味作中で最も恐ろしい人物。
主人公にベタ惚れしていて周囲にはドン引きされるほどだが、それになぜか気づいてくれない主人公に腹を立てキスという強行手段に走った。
一応成人しているがお酒は苦手で、アルコールが入ると手がつけられなくなるほど酔っぱらう。そんな様子を主人公には見られたくないために必死に酒を飲まないようにしている。
ギルドメンバーのルートベルクとは同じ会社の先輩後輩で、打ち上げなどで酔い潰れたソウルを運ぶのはルートベルクの役目になっていた。
色々あって家族とは縁を切っている。
たまに突然驚異のコミュ力を発揮するがナンパにはめっぽう弱く、主人公並みのコミュ力にまで低下する。




