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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界?探索記録 四冊目
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三百四十五日目 ただの仕事関係

ーーーーー《ブランサイド》ーーーーー


 ミズキさんに気を配りながら屋敷の奥へと入っていく。


 ああ……帰りたい。こういう空気嫌いなんだよなぁ。俺完全にアウェーだし。


 俺が吸血鬼、というか鬼であることはまだバレていない。エルヴィンみたいに『生きるための栄養摂取であれば人間と同じ食事で問題ないが、身体能力を底上げするために血が必要』っていうデメリットで済むのなら別にバレたところでそこまで危険視するところでもないんだけど、俺の場合『血が飲めないと餓死する』っていう明確すぎる弱点がある。


 普通に武力で制圧してくる相手なら大抵なんとかできるんだけど、血の供給を絶たれてしまえば本気で死活問題だ。魔力使うだけでも喉は渇くし。


 だからなんとか隠し通してる。ただ、流石に元々人間だったという情報は隠しきれなくて、純血ではないことは周知の事実になってしまっている。


 そりゃあ、今まで人間として生きていたやつが急に人じゃなくなったとか、戸籍に変なズレは出るわな。


 だから周りの評価としては『突然現れた半端者』というものが多い。間違ってないし別にいいけどね。


 今回の主な仕事場である屋敷の大広間に入ると、最奥の座布団に座っている初老の男性と目があった。


 あの人が依頼主である『青笠の一族』現当主だ。


 青笠当主の斜め後ろの場所に誘導されたので、そこに腰を下ろす。


 背を向けたまま青笠当主が話しかけてきた。


「断られるかと、思っていたんだが……存外、友好関係を築けていたと思っていいのか?」

「関係はありますけど、友好的かは別ですよ。そちらがウチの王子様に何したか……忘れてるとは言わせません」

「そうか。それは残念だ」


 張り詰めた緊張感が漂う。


 この人とはあくまでもただの『依頼主と傭兵』の関係でしかない。


 向こうの世界の王族、ゼイン達みたいに友人関係から派生した付き合いじゃない。なんなら一時期は完全に敵対していた。なんだかんだあって今の関係に落ち着いたが、正直可能な限り依頼も受けたくない。


 それなら断ればいいかもしれないけど、問題なのは俺が突如現れた半端野郎ってところだ。


 正直にいうと周りの目は厳しい。


 ただの半端者ならまだしも、そこそこ戦える上に大所帯だ。目障りに思う輩が複数いてもおかしくない。


 なんの後ろ盾もない今の俺には『青笠』と雇用関係にあることをアピールしないと、際限なく変なやつに襲われる。青笠の認知度は日本でもトップクラスだからな。青笠と敵対したくないと考える人の方が多いし。


(ちょ、ちょっと……大丈夫なの、そんな突き放すような言い方)


 超小声でミズキさんが話しかけてきた。小声でも、多分目の前の青笠当主には聞こえてると思うけど。


 声に出さなくても意思疎通ができる『以心伝心』の能力を付与した道具を渡したのに、なんでナチュラルに喋っちゃうのこの子。……正直、一気に道具渡して一度に説明したから覚えきれてないのかもしれない。


 ただ、ここでその道具を使って返事すると青笠の当主に勘ぐられそうだから普通に話すか……。あんまり俺の作った道具は公開したくないからね。


「所詮雇い主と雇われの関係だ。少なくとも今の所はそれ以上でもそれ以下でもない」


 少なくとも、俺はこの人の事は好きではない。だからと言って本気で嫌っているわけでもない。


 そこそこ嫌いの部類には入るが、普通に仕事は請け負う。超ビジネスライクな関係だ。


『それと、基本俺にはこっち(指輪)で話してくれ』

『あ、忘れてた……』


 言われてようやく指輪の使い方を思い出したらしい。


 この指輪は特別製で、音を使わず情報共有ができる『以心伝心』の他に、一回だけ使用者を守る結界を展開できる『障壁(ブロック)』の魔法と他者から興味を持たれにくくする『印象操作』の魔法がかかっている。


 この道具がミズキさんに渡した中で一番高価だろうな。


 普通にかなり強い能力が入ってるから売り物にはならない、特殊な装備品だ。


『それ、俺以外の誰かにはなるべく見せるなよ。下手したら殺してでも欲しいってやつがいるかも知れないから』

『なにそれ怖い』


 特に印象操作は犯罪者が喉から出が出るほど欲しい能力だろう。一応魔力を定期的に注がないと長くは使えないという制限をかけているが、使い捨てだと考えてもかなり便利だ。


 そんな感じで心の中でミズキさんと会話すること数分、屋敷に近づく数十の気配を感じた。


「……青笠さん、おそらく交渉相手が来ました。数は……三十五人でしょうか。ただ、ほぼ全員獣人の中に一人だけ違う種族の方が混じっていますね」

「違う種族? 用心棒か」

「恐らくは」


 なんの種族か、とかは流石にわからない。


 今の人数数えたのも何となくこれくらいかな、って感じで探ってるだけだし。あんまり精度は良くない。一応アニマルゴーレムは少しだけ配置してるけど、隠蔽に便利な虫型のみだ。虫型は見つかりにくい代わりに稼働時間が短く、カメラも小さいために状況把握があまり得意ではない。


 情報集めに関しては鳥型を使った方が圧倒的に楽だ。鳥がもともと多い場所なら別に紛れればいいけど、鳥がそもそも少ない地域とかで使うと目立つことがあるから、使用場所は多少限られるけどね。


「お客様がいらっしゃいました」

「通せ」


 青笠当主の言葉で、部屋に三十人ほどがゆっくりと入ってきた。


 先頭にいるのは緑帯の当主。化け狸の長だ。用意された場所に座るなり口を開く。


「それでは、話し合いを始めようか」

「ああ、こちらもグダグダ長引かせるつもりはない。さっさと終わらせる」


 ……挨拶もなしで話し合いが始まった。部屋の空気がピリピリしているのは、緑帯と青笠は実は敵対組織だからだ。


 ……だからこの依頼、断りたかったんだけどね。どっかでトラブル起こるのは予想できるもん。

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