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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界?探索記録 四冊目
341/374

三百四十一日目 即バレした

 吉田さんがアタッシェケースから紙の束を出してカウンターに置いた。


「これが依頼書です、確認してください。報酬は」

「受けるかどうかはこれから決めます」


 先に受ける前提で話を進められても困る。


 なぜなら、俺に回ってくる依頼はかなり特殊なものが多い。


 他の人たちが解決できなかったものが最終的に俺に行き着くって場合がほとんどだし、俺宛で指名依頼ともなると碌でもないことである事を覚悟したほうがいい。指名依頼を受けた時は、一回本気で危険な目にあった。


「……これ、指名依頼ですか」

「はい」

「じゃあ受けません」

「指名ですよ? お金もいっぱい貰えますよ? 恩だって売れますよ?」


 押し売りかよ。


「爆弾処理班に直接仕事を依頼してくる相手を警戒するに決まってます。知ってますよ、俺に依頼回すのって基本最後の最後でしょう?」

「爆弾処理班って……もっと言い方があるんじゃないですかね」

「役割としては同じだと思ってますけど?」


 誰も解決できない面倒な事は全部俺に回せばなんとかなるとか思ってんだろ。多分俺には最後って決めてるのはもっと上の立場の人だろうし、別に吉田さんに怒ってるわけじゃないけど。


 ただ、俺も適当に依頼を投げられてホイホイ従うほど優しくない。


 やりたくないことはやらないし、脅されたところで正直大抵は自分でなんとかできるから問題はあまりないし。


 今回の依頼『話し合いの時の立会人になって欲しい』とか書いてあるけど、絶対それだけで終わらない。


 何かプラスで厄介ごとがついてくる。だから受けたくない。


「正直、青笠の一族は兎も角、対談相手の緑帯の一族とは殆ど面識ないですし、色付きってことは絶対敵対関係じゃないですか。俺は嫌です、そんなわけわからん派閥抗争の盾になるの」

「まぁまぁそう言わずに」

「いくら宥められようが嫌なもんは嫌で(ゴン!)」


 突然真下から鈍い音が響いた。


 目だけで一瞬確認すると、ミズキさんが額を押さえてうずくまっている。


 ……体勢を変えようとしてカウンターで頭打ったのか?


「「………」」


 まずい。


「今、何か音がしましたね?」

「俺の膝が椅子に当たっただけですけど何か」

「いや微動だにしてなかったでしょ? 嘘はいけませんよ」


 タイミング最悪だ。まだ吉田さんが見てない時ならいくらでも言い訳できるけど、がっつり俺の動きを把握されてる。これは隠し通せないか……


 カウンターに隠してある腕輪をこっそり取り出してミズキさんに渡す。腕輪をつけろとカウンターの下で合図するとミズキさんはすぐに腕につけてくれた。


「誰かいるんですよね? 出てきてもらっていいですか? こちらも把握したいので」

「……ミズキさん、立ってください」


 恐る恐るミズキさんが立ち上がった。吉田さんは勝ち誇ったような笑みを浮かべてきた……なんかイラっとする。


「新しく呼んだんですか? それなら申請してもらわなきゃ」

「いいえ。彼女は日本の方です。日本人、それも人間を雇うことに問題はないでしょう」

「人間? 混ざっているわけではなく?」

「そうですね。少なくとも、俺には普通の人間にしか見えてないです」


 実はミズキさんを雇ったのはこの人を躱す為でもある。


 日本ではない別の世界を俺が行き来しているのは吉田さんも気がついている。


 だから可能な限り俺をどこかに縛りつけたいらしく、揚げ足を必死に取ろうとしてくる。異世界からの来訪でも移住する権利を有していない場合は勝手に人を連れてくれば基本的に法に触れるから、そこを突かれやすい。


 俺の場合、協力してくれるメイドはたくさんいるけど、全員連れてくるとなると膨大な量の申請を出さなきゃいけない。一人の手続きでさえもかなり面倒なんだよね。


 しかも、その人の責任は連れてきた俺が全て負う必要がある。そこに関しては別にいいんだけど、管理と維持費がバカにならないから可能な限り異世界から人は連れてきたくなかった。この世界のルールも面倒だし。


 そこで最初から日本で暮らしている人で、裏の仕事も任せられる……霊感のある人、ミズキさんを探してた。


 法治国家である日本の法律は、人間ではないという判定にある俺に適応されている特殊な法律よりも遥かに強力だ。


 これで吉田さんはミズキさんへ下手な行動が取れない。警察でも強引にやれば法に引っかかる可能性があるからな。


「……わかりました。人であることは認めましょう。ですが、それなら都合がいい。今回の件、その新人さんも一緒に行ってもらいます」

「はぁ? 吉田さん、自分が何言ってるかわかってます? この人は人間なんですよ?」

「わかってますよ。ただ今回、なぜか人間を二人付き添いさせろと要求がきているんです。一人は私でいいとして、もう一人必要じゃないですか。ほら、彼女が丁度いい」


 よくない。


 ミズキさんはきょとんとしている。そりゃそうだ、今目の前で起こっていることの危険度がわからないのなら、その反応は当たり前だ。


「ふざけないでください。彼女は少し霊感があるだけの普通の人間です。こちらのこともほとんど知らない。連れて行けるわけないでしょう。たとえそんな要求があったとして、こちらがそれに従う必要はない。従わせたいなら人員補充くらいそっちでやってください」

「人員がいなくてですね、みんな辞めちゃったんで」

「そうですか。でも俺にもミズキさんにも関係ない。さっきから言ってるでしょう、帰ってください」


 急に吉田さんの表情が変わった。アタッシェケースからもう一枚の紙を取り出す。


 何かの報告書に見える。


「これは脅しではないのですが、上は近々この店に調査を入れる予定です。容疑などいくらでも付け足せるでしょうね。そしてほぼ100パーセント有罪になる」

「………」


 店を潰したくなかったら依頼を受けろってことか。これが脅しじゃなくて何なんだよ。


「そうですか、お好きにどうぞ。その前にこちらも打てるだけの手を打つだけです。最悪戦争になろうとも」


 日本で活動できなくなるのは困るが、逃げる場所ならある。ミズキさんを巻き込むのはおかしいからな。何があってもそこだけは折れるわけにはいかない。

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