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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界?探索記録 四冊目
338/374

三百三十八日目 俺はずっと胡散臭いと言われ続けてる

ーーー《遠山サイド》ーーー


 甘い香りが漂ってきて、ふと目を開けると天井には色とりどりのランプが垂れ下がっているのが見えた。


 体を起こすと掛けられていたらしき薄いタオルケットが床に落ちる。


 ここ、どこだっけ……?


 心地よい薄暗さの残る室内には私のカバンの乗った小さな机と今座っているソファがある。それと壁一面にアンティークの棚がくっ付いていて、何かの古い映画で見たことがありそうな場所。


 机の上のカバンを開けて中を探るといつも入れている内ポケットからスマホが出てきた。


 ……22時って……。もう結構遅い時間になっちゃってる。


「ああ、起きたんですね。すみません、倒れるとは思ってなくて……もっと配慮するべきでした」


 急に声をかけられた方を見るとポットとカップを運んで来た青メッシュの人が苦笑いしている。


「えっと……ここは……?」

「ああ、スタッフ用の休憩室です。正直店でも普通に休憩してるので半分物置ですが。それで、どこからどこまで覚えてます?」


 どこからって……!!


 そういえばあの周りにいたお化けは!?


 ……見当たらない。けど、見えてないだけなの……?


「あ、あの、お化け……眼鏡かけた時に、お化けが」

「うーん。ま、まぁ一応お化け? の分類にはなるのか……? あれなら散らしておきましたよ」


 散らしておいた? ……厄祓いみたいな感じかな。


「じゃあもう安心なんですね」

「えっと……消したわけじゃないんで、安心でもないです。ついでにいえば、消したところで別のがくっ付くだけだと思うんで……何にも解決はしてないです」


 なにこの一気に上げて落とされた感。


 というか、なんであんなのがいっぱい居たの……?


「あれ、何なんですか」

「説明が結構難しいんですけど……誰かの生気や運を吸い取って糧にする……なんかそういう生物だと思っていればそれで大丈夫だと思います。たちが悪いのが、あれらは別に誰かを陥れたいとかは一切考えてないところですね。純粋に生きるために人間に寄生する」


 なんか雑な説明でまとめられた感じはするけど、これ以上話聞いてもよくわからない気がするから追求は辞めておこうかな……


 それにしても、あんなにたくさんくっ付いてたってことは私の運が悪いのはあれのせいなのかな。


 コトリ、と何かがテーブルの上に置かれた。あのメガネと……ペンライト?


「貴女があんなにも大量のしょ……黒いやつにくっ付かれていたのに平気だったということは、おそらく生命力に溢れているのだと思います。ただ、これから先、あれらと長く一緒にいれば何か危険が舞い込む可能性もある。このペンライトは少し特別製で、あの黒いのを弾く光を出します。ただ、充電が結構面倒な上に電池が減るのも早いので使いどころにはご注意を」


 え、それって……


「自分で対処しろってこと!?」

「そうですね。これ以上こちらが出来ることはありません。貴女が気絶してしまったことがちょっと申し訳ないのでこれは差し上げます。ただ、充電は有料になるのでお気をつけを。普通の電池とかでは動かないので、間違えないようにしてください」

「しかもお金取るの……?」

「こちらも一応商売なんで。一回の充電で三時間ほど使えますが、五千円です」


 あっさり突き放された……しかも値段高すぎ……


 これ本当にあれを何とか出来るのかな。


 できたとして、お金要るのか……。ないよりはマシ、なのかなぁ。だとしても、バイト先クビになっちゃったし、お金ないんだけどね……。




ーーー《ブランサイド》




 遠山さんがバイトをクビになったということは把握している。


 彼女が見える人だと分かってすぐに虫型のアニマルゴーレムを使ってちょっと覗いてたから、今の状況は何となく分かってる。……ストーカーじゃないよ?


「……もし、貴女が良ければウチでバイトしませんか? そんなに高くはないですが給料も出しますし、従業員割りってことで充電無料でしますよ」

「は?」


 あ、やばい。唐突すぎた。


 普通に考えて今のタイミングでこの言葉はおかしい。


 実はソウル達と話をして、近々日本人を雇おうかという結論が出ている。正直、ウチのメンバーは殆どがあっちの世界の住民だ。日本の文化を理解しているとは言い難い。


 色々と不自然なところもできてしまうから俺とソウル以外の人が欲しい。彼女を選んだのは学校が同じで接触しやすいってのと、結構ちゃんと見えてるみたいだから。メガネを通せば、かなりはっきり。


「……時給は?」


 あれ? 案外乗り気?


「最低賃金プラス500円、交通費等別途支給、昇給あり。で、どうでしょう」

「シフト制?」

「……いや、シフト制というのか……貴女が入らないときは自分が入るんで、好きな時に出てもらえればいいですよ。こっちから『どうしても出てくれ』と頼んだ日以外は別にドタキャンとかも大丈夫です」


 どうしてもいて欲しい日なんて殆ど無いから単発のバイトでも募集すればいいんだけど、そういった仕事は大体が『普通のことじゃない』時だ。何も見えない一般人はあてにできない。


 金ならそこそこあるから学生バイト雇うくらい全く問題ない。……メイド達は拗ねるかもしれないけど。


「……条件よすぎて怪しい」

「そうかもしれないですが、この仕事は見える人の方がいいんで。どんな相談が来るかもわからないし。その点貴女はちゃんと見えているし、同じ学校ということは生活リズムも同じくらいでしょうから連携取りやすいと判断しました」


 遠山さんは数秒考えて小さくため息をついた。


「そう、じゃあ、お願いします」


 ……自分で言うのも何だけど、俺の胡散臭い説明でよく納得してくれたなこの人……

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