三百三十六日目 これからの方針
ひとまず、俺の部屋で色々確認した。
不思議なことに問題なく魔法が使える。むしろ魔力の回復が早いくらいだ。
これでいつでもライトを召喚できるが、とりあえずは俺とソウルだけで。ライトを呼んだらどうなるか分からないから実験もしておかないといけない。低級の悪魔を数秒呼び出すとか、色々やって問題ないとわかってからだな。
「なるべく魔法は使わずにいこう。何がどう作用するかは分からないし……」
「そうですね。余計な面倒ごとは避けましょう」
俺が面倒ごとを持ち込むだろうとか思ってそうだな。
実際これまでそうだったから何とも言い返せない。俺だって好きでトラブル体質やってるわけじゃないけどさ。
それからソウルと話し合い、とりあえず『この世界にいた俺たちのふりをする』という方針で決まった。要するに、俺は行ったこともない学校へ前からいた風を装って通う。ソウルも同様だ。
ソウルはともかく、俺は社交性が薄い。多分友達とかほぼ居ないし、なんとかなるかな。……自分で言ってて悲しくなってきた。ソウルのメモによれば友達いないってのはかなり信憑性高そうだし。
どうも俺は浮いているらしい。ある意味助かった、と言って良いのか?
大学でもぼっちとか、寂しすぎるなぁ俺。しかもその状況を聞いて、そんなに嫌だと思ってないのが重症かもしれない。さみしい人になってるんだなぁ、とかは感じるけど。だからと言って友達いっぱい作りたい! とか小学生みたいなことは言わない。友達居ないなら居ないで良いやって感じ。
多分、俺って寂しいやつなんだなぁ。それだけはなんとなく分かる。
その日の話し合いはそれで終わった。結構大きい魔法使って俺も疲れたし。今は二月の中頃なんだけど、俺はどうやら学校が春休みらしい。……大学生って春休みめっちゃ長いんだね。学事歴? ってやつによれば夏休みも長いらしい。素晴らしい。
俺はバイトもしてないらしいけど、どうやって金稼いでるんだろって思って色々部屋を漁ったらとんでもない金額の書いてある通帳を見つけて腰を抜かした。親父が死んで遺産が入ったとかなら分からんでもないが、どうやら生きてるっぽいし……まぁ、正直遺産があるって言われても受け取りたくないから俺なら放棄か寄付するだろうけど。
入金先とか調べてみたら、どうやらこれは株取引で増やした金らしい。なんか想像できた。俺が金増やす方法なんて、そりゃあギャンブルに近い形になるだろうとは思ってたけど。
ソウルが賭け事嫌いだからあんまり表立ってはやらないけどね。
そんなわけで金には困ってない。ただ、この世界にみんなを連れてくるにしても、行き来するにも、どこかの拠点が欲しい。何回も世界間を往復できるほどの体力は俺にはない。ちょっと手間だが転移陣を配置できれば魔力消費が少なく異世界移動できるだろう。
「ひとまずこの金で拠点探しだな。可能なら……木々が生い茂る、人が滅多にこない場所がいい。多少なりとも精霊の力を借りれるかもしれないし」
「木々が生い茂るって……こんな都会で?」
「ああ、うん……もちろん、可能ならって感じで……」
そんな都会の真ん中に自然たっぷりみたいな場所、この周辺で見つけられるとは思ってない。本当に「できれば」の範疇だ。無理だとしても魔力消費が多くなってしまうだけで、魔法陣の設置はできる。
ただ、絶対条件は『人が少ない、滅多にこない場所』だ。家を一軒借りるにしても、誰かに侵入されでもしたら大変なことになってしまう可能性が高い。
結局夜遅くまで物件情報とかをネットで漁って、あとは翌日ということになった。
ベランダに出てどんよりと曇った空を見る。
「そう言えば、あっちに行った日の夜もこんな感じの天気だったっけ……」
初めてソウルと一緒にあの世界に行った時、とにかくソウルの身を第一で考えていた。俺はそこそこ頑丈だけど、ソウルは生粋の魔法使い。耐久力が紙くらいしかない。しかもその紙防御を装備品で底上げしていたのに装備品は丸々外されてたし。
あの時はなんとしてでもソウルを守りたいとしか思っていなかった。
けど、ここではどうだろう? 戦争もないし、襲いかかってくる猛獣もいない。安全は確保されている。なのに。俺はこのまま……ソウルと一緒にいていいんだろうか。
外をぼーっと見ていると、隣の部屋の窓が開いた。顔を出したのは、悠人君。
「どうしたの、こんな夜に。彼氏さんと喧嘩でもしたのか」
「いや……なんでもないよ。ちょっと考え事をしていただけだから」
「そう……。詳しくは聞かないけど、彼氏さんと仲良くね。結構いい人だと思うし」
「まぁ……そうだね」
そう言えば、ソウルとはあまり本気で喧嘩したことがない。
ソウルが一歩引いて全体を確かめる性格だからかもしれないが、基本的に喧嘩がエスカレートすることは少ない。
俺がイライラしてもソウルがうまいこと受け流す。そういう能力がソウルにはある。
「それじゃあ、おやすみ。風邪ひかないようにな」
「もう子供じゃないんだから分かってるよ。おやすみ」
悠人君が認める『いい人』判定ってかなり厳しいから、その悠人君に認められてるソウルはやっぱりすごいんだと思う。俺にはない才能をソウルがたくさん持っている。
悠人君の反応からして、俺とソウルが2年を別世界で過ごしてきたことには気づいていないみたいだ。色々変わってることも多いだろうから、ボロが出ないようにしないと。




