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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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三百二十九日目 日向ぼっこ

 ライトはそれはもう精力的に働いてくれた。


 単純に、自分が魔力切れで消滅してからのゴタゴタが防げなかったことを悔やんでいるらしい。これに関しては俺もそうらしいから人のこと言えないけど。


 再召喚までの期間がそこそこ空いていたのがライトが完全復活する要因になってたから、病み上がりだとかの心配はない。むしろ超元気。


 その代わりと言うべきかエルヴィンと俺、ソウルは休養することになった。特にソウル。


 エルヴィンは働きすぎて活動時間が減った。俺は単純に体力が減ってる上に、正直頭がおかしくなってるから精神治療。ソウルは火傷。


 エルヴィンの休息理由は吸血鬼族の種族的なものだ。


 純血の血筋であるエルヴィンは人の血を飲むことは生きる上ではほとんど必要ない。吸血鬼族はもともと翼人族という翼を持つ種族の突然変異種だ。翼人族は血なんか飲まない。


 吸血鬼族と翼人族の違いは『血を飲むことで体を強化、回復できる』というところだ。本来吸血鬼族に血なんか必要ない。ただ、翼人族より強くできている体は維持のためにそこそこのエネルギーを消費する。


 一番手っ取り早いのが血を飲むという方法なだけで、別にエネルギー補給さえできればなんでも良い。


 だが、血が薄くなればなるほど、つまり他種族の血が濃いほど血以外でのエネルギー補給ができなくなっていく。俺が定期的に血を飲まないと餓死するのは、俺の種族は限りなく人族に近いからだ。生きるだけで減っていくエネルギーを他の方法で補えない。


 エルヴィンは純血だから血を飲む必要はない(基本的に血を集めてるのは俺用のもの。エルヴィンが飲むことはほぼ無い)んだけど、それでも普通の食事だけでは本来の力は発揮できない。


 血を飲まない吸血鬼族は人族よりちょっと強い、長命な種族程度ってところだ。今回はその『ちょっと強い』で耐えられる範囲以上の仕事に忙殺されてしまった結果、確実に行動のパフォーマンスが低下していたので俺が休みを取らせた。


 そして俺は言うまでもないが体が不調に不調を重ねていた。スフィアさんのお陰で治ったけど、完全ではないし、筋力も多少落ちている。リハビリが必要だ。しかも中身までちょっと不安定で、現在精神安定剤を飲むことになってしまっている。これのお世話になることなんて考えたこともなかったなぁ。効いてるのかも、よくわかんない。


 で、ソウル。火傷の治療は順調で、俺の指示で高価な薬を使っているから跡も残らないと聞いた。ソウルに聞かれたら絶対に「無駄な出費を!」とかって言われるから治療費の金額については黙ってる。綺麗な肌してるんだから、完璧に治さないとな。


 主力メンバー三人が動けなくなったこの状況で、ライトとピネ、キリカが異常なまでの働きを見せてくれた。


 ソウルから引き継いだ仕事をこなしているのは、意外にもピネだ。書類作成とかは体の大きさ的に無理があるから他の人に任せているけど、ある程度のスケジュール調整だったり連絡網構築だったりは全部ピネが一人でやってる。


 この前の騒動で思うことがあったらしい。俺においていかれたのもショックだったんだとか。……それに関してはごめんとしか言いようがない。それに関してはいまだに文句言われてないのが逆に怖い。めっちゃキレてたんだろう。


 俺の分の仕事はほとんどライト、一部をキリカが担っている。キリカは自分の元々の仕事にプラスして俺の仕事も含んでるから、確実にオーバーワークだとは思うんだけど。


 だっていつ休んでるか知らないし。


 休みを取らせたいのは山々なんだけど、今キリカも休ませるとマジで業務停止するから止められない。


 そんなわけで、無理しない程度にライト達には頑張ってもらってる次第だ。


「ブルルルル」

「っと、ごめんな。ありがとう」


 鼻先を押し付けてきたレイジュの顎を撫でる。もふもふで気持ちいい。


 あ、それと、牛とユージンさんについてだが。ユージンさんは魔大陸にある自分の家に帰ったらしい。らしい、というのは俺は完全に電源切れてたから後でソウルが預かってた手紙で知った。


 牛はユージンさんについていった。


 もともと牛には「今回の事が終わったらお前の行きたいところへ行けばいい」と言ってあったから、自分で判断したんだろう。……未だに、あれは牛なのかは疑問だけども。


 二人とも無事で何よりだ。俺の正体はソウルが明かした。門から逃げ切れた後、なかなか帰ってこない俺を探しに怪我だらけの体で向かおうとしたらしく、避難場所にいたメイド達に取り押さえられていたらしい。


 ほぼ胴体だけの鉄の塊になってソウルに抱えられてきた俺を見つけて「埋葬させてくれ」と詰め寄ったとかなんとか。埋葬されてたら、俺どうなってたんだろう。


 その言葉でソウルは二人が俺とそこそこの関係があると理解して色々と種明かしした、と言う経緯だ。


 元気にしてるといいなぁ。角鬼族ってどこに集落があるか知らない。連絡の取りようがないから今の状況はわからない。


「クルルル」

「はいはい、こっちか?」


 次は羽根を撫でろとレイジュが催促してきた。今の俺はお医者さん曰く「自然いっぱいの所で時間に追われない生活をしてください」というよく分からない指令を受けている。多分精神的なゆとりを持たせたいんだろうね。すごいざっくりとした指示だけど。魔法に頼らない医療なんて、この世界ではこんな物なのかもしれないけどね。


 でも一応ちゃんと指示を聞こうとレイジュと森に来た。


 森の中にいい感じのお日様スポットをレイジュが発見し、休憩がてら日向ぼっこ中。


 ただ一つ問題なのは、この外出、誰にも言ってない。厩舎にいるレイジュの様子を見に行ったらレイジュがそのまま手綱を持ってきて自分に装着させ、俺を背に放り込んで文字通り飛び出して来てしまった。


 多分レイジュも色々あって窮屈な思いをしていたんだろう。愛竜のメンタルケアも大切なのに、俺は自分の事ばかり考えていた。レイジュはお利口だからずっと我慢してたけど、堪えきれなくなってしまったらしい。


 だから今日は、今日ぐらいはレイジュのために抜け出しても怒られないよね。

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