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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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三百二十八日目 再召喚

 下手に力を入れたらエルヴィンを傷つけてしまいそうで怖い。だがこれ以上、仲間が怪我する事態は絶対に防がなきゃならない。


 そのためには、見せしめが必要だ。ソウル達を襲ったやつを突き止めて、徹底的に潰す。


 俺の情報網フル活用すれば相手に物理的被害を一切出さずに社会的抹殺もできる。


 去年似たようなことをやったから問題はない。今度はより早く、より強く制裁を食らわすことができる。


「ソウル、エルヴィン。止めないでくれ。俺は今、かつてないくらいに冷静だ」

「ああ、激昂している感じではないのはわかる。それでも行かせられない」


 なんで冷静だってわかってて止める?


 あれ……エルヴィン、すごい悲しそうだ……


「ブランにそんなことはして欲しくない。悔しいのは誰だって同じだ」

「そうですよ、ブランさん。僕は、大切な人が誰かを傷つけるために動くのを見たくないです」

「………」


 ……俺、ソウルのこと考えてるつもりで……ソウルのこと、見てなかったのかな。


 今、冷静に激怒している俺を見てソウルが嫌な思いをするのなら、俺の行動は正しくないと言えるだろう。


 優先順位が、おかしくなってた。


 体から力が抜ける。握った手から血が滲んでいるのを今更ながらに気付いた。


「……ごめん。俺……頭冷やしてくる」

「ブラン」

「大丈夫、もう潰すなんて言わないから。ただ、少しの間一人にしてくれ」


 部屋を出て、目的もなく歩く。足元が歪んでいる感じがして、クラクラしてきた。


 勝手口の扉から外に出て、外についている階段を上がって屋上へ行く。視界が安定しないから、速度はかなりゆっくりだ。


 たっぷり数分かけて屋上に出た。日差しが眩しい。


 置いてあった椅子に腰掛けると、屋上を見張っていたアニマルドローンの一体が膝に乗ってきた。


 このドローンは猫型で、主に上空からは分からない障害物や建物を把握するための地図作成に特化したタイプだ。


 地図の作成はこの街についてから一日たらずで終わっているので今は特に仕事がない。だからこんな場所にいるんだろう。戦闘向きではないとは言え一応戦えるから警備用だろうけど。


「お前のその動きも、俺の押し付けなんだよな……」


 この子は『猫はこうあるべき』という動きのパターンを刷り込んであるだけの機械だ。


 命なんてものはない。材料さえあれば簡単に量産できる、ただの無人機。


 心というものがない。


 俺は、ソウルをこいつと同じものとして見てしまっていたのかもしれない。


 自分に都合のいいものとして、扱っていたかもしれない。


 人の考えていることを読むのが苦手だ。話し合いを自分のペースに持っていくことは得意だけど、相手の望む回答を出せたことは少ない。


 だから親とも分かりあおうとすらしなかった。誰にも相談しなかったし、本当の意味で心を開くことができる相手がいなかった。


 ソウルと出会ってから、自分は変わることができたと思った。思っていた、のに。


 結局俺、自分のことしか考えていなかった。


 何をしたらソウルがどう思うかって、考えが至らなかった。


「……どうしようも、ないな……」


 いつになったら、成長するんだろうか。何度も何度も、そのチャンスはあったはずなのに。








 目を覚ますと、場所が変わっていた。


 少し離れたところにある暖炉の火が揺れている。


 体を起こすと上にかかっていたタオルケットが真下で寝ていたらしいカーバンクルの上に落ちた。


 どうやらあのまま屋上で寝てしまったところを誰かが家の中に運んでくれたみたいだな。


 目の前の木製のテーブルの上にティーポットとカップが置かれている。横にある皿にはクッキーが乗っている。


 ポットに触れると冷たい。結構時間が経っているみたいだ。


 冷え切った紅茶を注いで飲んでいると、魔力がかなり回復していることに気付いた。


 今ならクールタイムも過ぎたし、喚べるか……?


 多めに魔力を使ってライトを喚んだ。


 すぐに反応があって、その場に現れた陣からライトが出てくる。


「あ、主! 申し訳ございませんでした! もう、喚んでくださらないかと……!」

「ごめん、ライトの階級は上級上位だからクールタイム長いし、魔力割かれる分が大きくて……ちょっと色々あって喚べなかったんだ」

「何かあったのですね」


 一応、俺の知る限りの情報をライトに伝える。まぁ、俺もわかっていない部分がたくさんあるけど。


 ライトは真剣な表情でそれを聞いて、悔しそうに俯いた。


「まさか、そんなことになっているとは……。一先ず、主の代わりに情報をまとめます。主はその情報を聞いて判断をお願いします。主は今、非常に不安定であることは間違いないようですから」

「……そうかもな」


 ライトがはっきりと俺に「不安定」なんて言葉を使ってきてるってことは、一目でやばそうだってわかるってことだろうな。


 俺はしばらく何も関わらない方がいいか。


「ライト、任せていいか」

「おまかせを。主の手足になるのが、我ら悪魔の使命ですから」

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