三百二十四日目 ……まぁ、そんな気はしてた
バズーカを撃った瞬間、左腕が中から崩れていくのが見えた。これ、痛くなくてもなんかゾッとする。
爆風で後ろにさらに吹っ飛ばされて、民家に突っ込んだ。窓ガラスのところから入ってしまったせいで結構奥まで入ってしまっている。ガッツリ不法侵入と器物破損だなぁ……緊急時だから許してほしい。
流石にこのあたりの人は全員避難しているのか、誰もいない。ただ、机の上にあった写真たてが俺のぶつかった衝撃で割れちゃったのは本当に申し訳ないと思います。
「まずいな……あいつ、戦闘不能になってない」
自分が吹っ飛ぶ直前、目の前に魔法の障壁が見えた。多分装備か何かでガードされてしまったんだろう。
流石にゼロ距離だったから無傷ってことはないだろうけど、重傷までいってない気がする。
中途半端に怪我させるのって結構危ないんだよな……怒り狂ってこの街大袈裟に壊したりしないだろうか。
映像を撮っている眼球部分が完全に壊れた。まぁ、ガラス製だし、脆いことはわかってたけど。周りが真っ暗になって何も見えない。
「………どうしたんですか、そんなにボロボロで。立ち上がることも、這うこともできないじゃないですか」
「俺のできることは、全部やったんだ……これ以上は、無理」
「じゃあ、何で一人でやったんですか?」
「その場にいたのが俺しかいなかった、から……。……?」
あれ……いま俺、誰と話してる?
ペチン、と柔らかく頰を叩かれた感触がした。
「ブランさん。そんなに僕たち頼りないですか? 何でいつも危ないところには自分だけで、僕たちは留守番なんですか」
「……なんだ。わかってたのなら、いっそ言ってくれりゃよかったのに」
「気づきますよ。僕の観察眼、舐めないでください」
「ああ……そういや、セドリックの時も当てられたか……じゃあ、如何しようも無い」
俺が子供で、しかも女ということを、ソウルは一発で見抜いたんだった。
「実は、ここ以外の門も襲われていたんです。そこを抑えてきたので、ここが最後の門ですよ。もう、殆ど壊れてますけど」
「火薬で吹っ飛ばされたからな……」
「火薬を使う人がこの世界にいたんですか?」
「ああ。俺も驚いたよ。爆弾を用意しておけば人間じゃなくても爆弾を起爆させることは可能だからな。ネズミをしつけて起爆装置押させるとかもできそうだし。……これが、この世界に広がったらまずい。戦争に歯止めが効かなくなる可能性がある」
ソウルが相槌を打った。
「わかってます。今、エルヴィンがその人を追ってますから安心してください」
「俺の考えること先読みするのやめてくれ」
俺の立場が無い。
っていうか、たまに緊急時の時はソウルが「ブランなら多分こうするだろうから。やっていいよ」と勝手に指示を出していたりする。すでに俺の立場はないのかもしれない。
「でも、とりあえず、お疲れ様でした。ブランさんがこの門を守ってくれていなかったら、街がどうなっていたかは判りません。でもお説教は本体に戻った後できっちりあるんで。ただ、今の状態でバッテリー切れしたらどうなるかわかりませんし、寝ててください。あとは僕たちがなんとかします」
何とも頼もしいな。……説教からは逃げられないのは確実らしいが。
「……わかった。そうするよ。だけど寝る前にいくつか教えてくれ」
「何ですか?」
「いつから気づいてた?」
「ブランさんが急患運んできたところから。なんかわざと僕のこと避けるし、隠したいのかなって何となく察しました」
めっちゃ最初やん……逆によく見えてたね俺のこと! あの忙しい現場で!
「そうかよ……ソウルも意地が悪いな」
「ブランさんには言われたくないですね」
「……。それと、こっちの門が最初の被害地域なのに最後に来たのは何でだ? 普通街中でのトラブルが起こったらとりあえず最初に起きた現場に行かないか?」
「ああ、それは簡単です。ブランさんがいるって知ってたんで、そのまま突っ込んで行くだろうから僕らは周りから行こうということになって」
なんか全員に俺の思惑というか考え方というかがダダ漏れになっててなんか恥ずかしいんだが……
「その通りだよ、まったく……。じゃあそろそろ寝るよ」
「はい。帰ったら起こしますから、ちゃんと駄々をこねずに本体に戻ってくださいね」
本体に戻ったら説教コース確定してるから正直あんまり戻りたくないけどね……。スリープモードに切り替えた瞬間、あたりの音や体の感覚が消えた。




