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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
323/374

三百二十三日目 謎の女性

 目の前に急に現れた、この女の人は誰だ……?


 見覚えは、多分ない。視界が半分ひび割れているせいで認識できていないということでもないだろう。


 黒いロングの髪ということはある程度お金は持ってそうだけど、この辺りの資産家とかまではあまり把握できていないし。単純に知らない人というだけか?


 だとしたら、なんでこんな戦場に平然と立っていられるんだ……? 多少腕に覚えがないとこんな態度にはならない。


 なんか違和感がある。それくらいの相手を把握できてない、俺の情報網の問題か?


「ねぇ、あなた……何者?」

「……そちらこそ、所属やお名前を明かしてもらえませんか? こんな場所で平然としているなんて、怪しいにも程がありますよ」

「へぇ、そんな上から目線な言い方で大丈夫?」

「怪しいのは確かですし、見てわかる通り瀕死です。怒らせて殺されようが、多少死ぬのが早まるだけで大した違いはありません」


 どうせ抵抗らしい抵抗もできない今の状況じゃ、情報を得ることができても帰れない。取り繕ったり回りくどく説得しようなんてする必要はない。


 それなら直球で言いたいこと言う。


 事実を伝えて何が悪い。


「案外、あなた頭が悪いね」

「よくお気付きで。頭が良かったらそもそもこんな状態になる前に撤退していますよ。引き際を知らないバカですから」


 だんだん音が聞こえづらくなってきた。右目に続いて右耳の集音器が壊れたらしい。多分吹っ飛ばされた時に右から地面にぶつかったんだと思う。体の右側の機能が著しく低下している。


「知らないんじゃなくて、知らないフリをしていただけじゃないの?」

「さぁ……どうでしょうね。そちらに何か関係でも?」

「……さぁね」


 これが元の体だったら、とっくの昔に引き上げていた。どうせこの体は使い捨てる気だったし、ギリギリまで戦っておこうとしてしまった。結果的にユージンさんと牛を巻き込みかけたからいい判断ではなかったけど。


 右目の映像が完全に途絶えた。バチバチと小さく音がしているから確実に回路が焼き切れている。もうどうにもならないな、これは……。


 この場所にいるという事は、この人は事件の首謀者、もしくはそれに近い立場なのか……。聞くだけ聞いてみようかな。


「……最初、門を破壊したのはあなたですか?」


 数秒、こっちを見て女性が笑う。


「そう。仕掛けたのはわたし」


 え……? いま、自白したのか?


「何を驚いているの? なんとなく予想してたから聞いてきたんでしょ?」

「思いの外、あっさり自供が取れたので」

「もう死にかけの相手にバレたって問題ない。それにこれから攻め込むしね。かなり数は減らされちゃったけど、まぁなんとかなるでしょ」


 攻め込む、って言ったな。今。


 まずい、街には治療で疲弊しているソウル達がいるんだ……。


「……この街を、襲う意味がわかりません。戦略的にも、資源の点でも、この土地に価値が薄いのは確実ではないですか」


 狙いを聞いて、別の方向へ誘導できないか……?


「え? そうなの? ただ単純に攻め落とせって言われたから攻め落とすだけだよ。人がいる場所にはお金があるし」

「………は?」


 なんだ、その理由。やろうとしている事は規模の大きい山賊のそれだ。


 ただでさえ作物が実りにくく、鉱山の宝石も取り尽くしかけているこの鉱山の街は、街全体が貧しい傾向にある。


 市民全員の生活水準がかなり低めなんだ。


 だから、その彼らから少ない稼ぎを掠め取れば野垂れ死ぬ人も出てくるだろう。……いや、それより先に獣達に殺されて死ぬか。


 他の街からもあまり近くはないし、逃げたところで難民として受け入れてもらえるかは微妙だ。一応魔王様が魔大陸全域に難民を受け入れてくれと各地に伝えてはいるものの、受け入れに関しては各地のルールがある。


 補助金を出すと言っても、あまり大きな額ではない。それよりも余所者が入ってくるリスクが大きいのも事実。


 俺たちが動くにも限界はあるし……。受け入れてもらえない難民は死ぬしかない。


「軽薄な行動で、どれだけの人が、命や家や、職を失うと思っているんだ……! 生き残れば、それで終わりじゃないんだぞ……! 生きて、それからも生き抜くためには金が必要なんだ……! 逃げても、食うものに困って死ぬ人だって大勢いる!」


 お前らみたいなのがいるから……! 生まれてすぐに捨てられた、イベルみたいな被害者が出るんだ!


 これだから戦争は嫌いなんだよ……戦えない人たちが搾取されて死んでいくんだ。


「ふーん、それで? 今更引き返せって? そんな話、聞くと思う?」

「いや……思わない。そんな人間味がある相手なら、そもそもこんな事しない」


 だから、俺ができる事はこれくらいしかない。


「お前に、償わせるためなら……この腕、惜しくない」


 唯一無事な左腕。この中には、一発だけ撃てるバズーカが仕込んである。この近距離で爆発したら俺も無事ではない。でも、まぁいいや。


 迷わず左腕を突き出してバズーカを撃った。

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