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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
321/374

三百二十一日目 たった二人で

 こちらにまっすぐ向かってくる獣達の動きはどこか統率が取れている気がする。


 火薬のこともあるし誰かが導いているのは間違いがないけど、一体何のためなのかはよくわからないな……


 包囲するって感じでもなさそうだし、あそこまで凶暴化してるとなると進む方向指示くらいはできても制御は効かないだろう。


 この街の壊滅が目的なのか? そうだとしても、ここじゃあ正直旨味はほとんどない。


 確かに鉱山は近くにあるが、それくらいだ。この街は職人の稼ぎが大きいはずだから、人を潰せば利益はほぼなくなるだろう。土地柄作物の実りも悪く、定期的に来る商人がいなければ存続も難しいと思う。


 ここを消して、何の得があるんだ……? 私怨の類か?


「パルキュイ、考え込んでどうした?」

「大したことは。ただ、なぜここに襲来してきたのかが疑問なだけです」

「それもそうだが、考えるのは後にしよう。そろそろ迎えうたないと街中で戦うことになる」


 普段の俺は相手の攻撃をギリギリまで引きつけてブン殴る脳筋スタイルだから多少狭いところでも大丈夫だが、この体だと下手に攻撃を受ければ破壊されてしまう危険がある。


 衝撃でバラバラになることは予想できるから、あまり近づくこともしないほうが良さそうだ。


 もし衝突するにしても、受け切らずに受け流さないといけないだろう。


「ユージンさんはどんな戦いかたですか?」

「これだ」


 籠手を嵌めた手を見せてくる。この人も俺と同じ猪突猛進タイプか……


「こちらはこちらで遠距離で何とかします。正面はお任せしますので端から止めていきますね。それとおそらく指揮官に近い敵がいると思います。あの一団に紛れているかはわかりませんが……それらしきものを見つけたら、会話ができそうであれば捕らえてください」

「殺さないのか? それはこちらの足元をすくわれるかも知れないぞ」

「いいえ。そのような理由ではないです」


 殺さない云々は俺が決めたルールで、ユージンさんに押し付けるものではない。それに今の俺じゃあ……そんな甘いこと言ってられない。


「あの獣の群れ、種族が違うもの同士でありながら喧嘩もせずにまっすぐ進行してきています。雰囲気からお分かりでしょうが、あの群れは既に狂戦士化に近い状態です。その状況で指揮官を失えば被害が拡大する恐れがある」

「そうか……わかった。それらしき相手がいたらなるべく殺さずに捕獲しよう」

「お願いします。ただ、どうしても無理そうであれば今の話は忘れてください」


 無理に拘束しようとしてユージンさんがやられてしまうのは、それが一番ダメだ。


 可能であれば、の範囲でいい。……俺がこんなに弱くなければ、もっと色々な方法が取れたのに。


 こんな時になって、自分が自分をおろそかにした結果が突きつけられている気がする。







「っ、まだくるのか……!」


 弓を引きながら一歩下がった。もう矢が残り少ない。元の体なら矢のストックは収納の中に大量にあるんだけど、今はそれがない。


 これがなくなったら、どうしよう……


 門のいくらか手前の場所で俺とユージンさん、獣たちの戦いが始まった。


 門に近づき過ぎれば街に被害がでるかも知れないからと、補給が満足にできないのを覚悟して前に出た。


 とはいえ、正面で戦っているのはユージンさんだ。さっきから獣をフルスイングで殴りまくっている。


 やはりというか、凄まじい破壊力のあるパンチだ。小細工なしの戦いかたは戦争むきではないものの、シンプル故に強い。まさしく筋肉の暴力って感じだ。それが角鬼族の戦いかたなのかはわからないけど。


 俺はその戦いかたをしたら体が吹っ飛ぶ気がしたので弓で応戦している。矢は見張り台にたくさんあったから相当な数拝借してきた。偶然折りたたみ式の弓を持ち歩いていたのが助かったな。見張り台に弓もあったから、それを借りて最初は戦ってたんだけど暫く使ってたら折れた。


 折れた時本気で焦った。で、そういえば持ってたと思い出して折りたたんであった弓を使った。


 見張り台の備品勝手に使って壊してごめんなさいだけど、ちょっと今回は許してほしい。


 でも、今使ってるのは持ち運びに特化した狩猟用の弓だからあまり威力は高くない。急所にしっかり当てないと、そもそも矢がうまく刺さってくれないんだ。


 最初真正面からユージンさんが突っ込んでいって、獣たちが優先的にユージンさんを狙って俺は後回しって感じだからこの威力でも何とかなってるけど、俺に直接来られたら結構危ない。


 また一歩下がって弓を引く。さっきから敵が減らない。倒す端から増えている。そのせいでユージンさんの疲労が溜まり始めてて、少しずつ押されている。徐々に門の方へと下がるしかない。今では、初手でユージンさんが突っ込んでいった場所から100メートルは下がってきている。


 俺の矢もかなり少ない。一応この体に銃火器の類は装填してあるが、そもそもこの体を使おうと思っていなかったから残弾数がほとんどない。本当、ここに来るまでに色々補充しておけば良かった……と今思っても遅いけどさ。


 それに、敵さんが火薬をしようしている以上、銃やらは持っていることを知られたくない。銃の存在自体も知っていそうだし。手の内はギリギリまで明かさない方向で行く。そもそも手札がしょぼいんだ、工夫するしかない。


「あと……20本」


 ユージンさんの背後に回っていた虎みたいな獣の眉間を撃ち抜いて、矢は残り20本。


 20本単位で箱に入っていた矢を箱ごと大量に拝借してきたから、俺の歩いた道には空の箱が散乱している。


 そしてこれが最後の箱だ。

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