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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 二冊目
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三十二日目 地図雑すぎ

 ヒメノに地図があったら買ってきてと頼んだんだが、めちゃくちゃ大雑把なものしか無かったらしく、見て覚えてきたのを後でかいてくれた。


 俺もそれ見たけど。略地図だこれ。


 なにこれ幼稚園児でも書けそうなんだけど。精々方角が判る程度じゃんか。


 これでよく皆他の町に行けるな。って思ったけど。どうやら誰でも買えるのはこれらしい。


 要するに貴族とかみたいに社会的地位が高くなればそれだけ細かな地図が手にはいるらしい。まぁ、地図って軍のものだしな。


「レイジュ。今から魔物が来るけどそのまま歩いてくれ。乗ったまま迎撃する」

「ブルルル」


 ゴーグルに映った光点を見ながら視線を巡らせる。


 前方右手に熊出現。確実にこっちを狙ってる。


 亜竜車から飛び降りてその勢いで懐に入り込み、両手で押し出すように肺の辺りを掌で突く。


「発剄!」

「グァアアア!」


 パキン、と音がして熊が絶命した。


「これ技の名前言わないと発動しないとか恥ずかしすぎるだろ………」


 近接戦闘の徒手空拳は特別な道具を必要としない代わりに技のトリガーが言葉になる。凄い恥ずかしいんだこれが。


 死体をズリズリと引きずりながら戻り、荷台に入れるとヒメノとライトが雑談していた。


「主、どうされましたか?」

「熊が出たから狩ってきた。そっちこそなに話してたんだ?」

「秘密ですよ。ね?」

「はい、秘密です」


 ライトまで秘密にするとは、いったいどんな恐ろしいことなんだろう。


「ま、いいや。これ後で場所があれば解体するから横に退けておいて」


 御者台に登ってまた手綱を握る。平和だなぁ。いや、熊が襲ってくる時点で平和ではない気はするけど。


 レイジュも退屈そうだ。なんかやることないかな、無いわなぁ。


 なんかレイジュの歩く姿見ていたら運動会の行進曲思い出した。俺の小学校宇宙戦艦○マトだった。


 俺行進したことないけど。だって横でトランペット吹いてたもん。行進曲担当だった。まだ吹けると思う。


 ~♪(鼻歌)


 あ、まだ覚えてるわ。すると後ろの小さい窓が開いてそこからヒメノが顔をだした。


「ギルマス知ってるんですか、そのアニメ」

「見たことはないけど、演奏はしたことあるな。割りと最近実写化もされてただろ? 見てないけど」


 映画なんてゲームの時間の方が大事だって思ってたから暫く行ってないな。


「へぇー、どこで演奏したんですか?」

「運動会の行進曲でな」

「楽器は?」

「トランペット」

「トランペット出来るんですか」

「もう大分口は忘れてるけどな。昔はやってたよ」


 多分もうほぼ吹けないけど。音は覚えてても口は動かないからなぁ。


「ヒメノってその世代なのか?」

「いえ、僕の生まれる前ですね」

「あー、それくらいか」


 確かに被ってはなさそうだ。


【会話の意味がわからないのだけど】

「そういう娯楽があったんだよ」


 アニメって言っても理解できてもらえなさそうだったから娯楽と言った。


「え、なにがですか?」

「いや、こっちの話」


 リリスの声が誰にも聞こえないって実はちょっと面倒だよな。俺が寂しく独り言言ってるみたいじゃん。


【なにか失礼なこと言ったかしら?】

「いや、なんも」


 ヒメノが怪訝な目で見てきた。うん。これは自業自得だわ。


 ボーッとしてたら眠くなってきた。あんまり寝れてないというより、環境が違うからぐっすり眠れなかったからかな。


「ふぁ………レイジュ。そろそろ休むか」

「クルルルル」


 脇道に逸れてくれたので御者台から飛び降りて後ろの荷台にある熊を下ろす。


「二人とも休憩しようか。昼食も兼ねてな」


 動かないでいたら何らかの病気になりそうだしな。数時間に一回は休憩して筋肉の緊張を和らげないと。


「レイジュ。ご飯だぞ」

「ブルルル」


 肉の塊を投げてやると器用にキャッチして飲み込むように食べていく。


 それ、喉つまりそうなんだけど大丈夫?


「クルルルル」


 満足したようで食休みに入った。優雅な生活送ってんな、おい。俺も食べよう。


 軽くサンドイッチを食べてから熊の解体にはいる。でも俺に解体の知識なんてないだろ、そう思ったか?


 フフフ。俺は薬屋もやったんだ。動物のどこが薬になるのか直感的に判る上、どう切ったら損傷が少ないかを調べることができるのだ!


 ドヤァ。


「なに一人でどや顔してるんですか」

「うっせ」


 くそ、ヒメノに見られた。


 お遊びはここら辺にして、熊の解体だ。これ、中々大変。デカイから余計そう思う。


 筋肉に沿ってパックリと。毛皮も売れそう。あ、肝臓は薬になるな。


「クルルルル」


 し、視線を感じる…………。涎まで垂らしてレイジュが肉を凝視している。さっき食っただろうが。


「レイジュ。これはまたもう少し後でな。昼飯は終わっただろ?」

「クルルルル」

「…………」


 くそ、可愛い…………! 目が真ん丸なのが余計に駄目だ。うるうるさせんな! 輝きが刺さる!


 やらんぞ! レイジュが太っても困るから! 絶対に今はやらんぞ!


「クルルルルゥ♪」

「あげてしまった…………」


 だめだ。このモコモコ亜竜に勝てる気がしない。









「ライト、見えたか?」

「はい。かなり遠いですが」

「あと何本横?」

「6本程ですね」

「そんなにかぁ………」


 やっぱりこの地図は当てにならん。いや、あてにしてないけど。


 目的地の町まで略地図を見ながら進んだけど6本横の道だったらしい。ライトが空まで行って確認してくれた。


 それにしても適当だなこの地図。まぁ、いいんだけど。


「レイジュ。こっちだ。もうひと踏ん張りだぞ」

「ブルルル」


 6本隣の道を進むと次の町が見えてきた。


「でっけー」

「聞いた話によりますとここは首都らしいですよ」

「首都か」

【前の町より壁が高いわね】

「防衛力も比べ物にならないみたいだな」


 あそこ辺境っぽい感じだったし。それにここに来るまでに村っぽいところはあったけど全部素通りしてきたからよく知らんけどね。


 吟遊詩人ミンストレルに優しい町だったらいいなぁ。うん。迫害を受けてる時点でそれはあり得ないと思うけど。


「そんじゃ、いきますか」


 パシン、とレイジュの手綱をならすとレイジュが上機嫌で軽く駆け始めた。ご褒美の期待をしているんだろう。次の町着いたらなって言ったからな、俺。

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