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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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三百十二日目 装飾品の街

 さて、これからどうするか……。


 ソウル達の無事は確認できた。全員ほぼ無傷なのも確認済み。


 ライトが頑張ってこの辺りの瘴気を減らしてくれたお陰で、周辺の黒い霧は少ない。まだ多少残ってる部分もメイド達で散らせるほどのものになっている。


 怪我をしている人たちはライトがくる前に瘴気を散らそうと頑張っていた人たちだったらしい。ライトが限界まで戦ってそれでも散らしきれなかったんだから、普通の人からすれば相当大変な戦いだったに違いない。


 瘴気で病気になっていた人たちもソウルのお陰でほとんど回復してるし……。


 うん。俺のやることはほぼない。


「ただ、これで帰ってもなぁ……」


 帰った方がいいのか? 正直、俺の本体がどうなってるか全くわからないので早めに帰った方がいい気はする。


 でもここまで来たのにマジで何もせずに帰るのは如何なものか。


「かといって、手伝いも大してできないし……」


 魔法でサポートできるのなら回復担当として多少ソウルの負担を減らすことはできるけど……今の俺、魔法使えない。できることと言えば、牛を素手でなだめられるくらい。……そこそこ強めの一般人レベルだ……。


 結論、本当に役に立たない。


 雑用くらいしかできない。でもそれも「雑用やります!」ってあの中飛び込んで仕事を引き受けたら普通に不審者だ。運よくやる気のある子として見られたとしても、ソウルがいるから俺のことバレるかも。


 あいつ俺の仕草だけを頼りに、ゲームの中とは全く違う俺の正体暴いたからな。


 化け物だよ。人間観察の化け物。


 ちなみに、今はソウル達が滞在しているらしい宿の近くにある安宿にいる。


 別に体力とか存在しないし……疲れない(思考は鈍るけど)から泊まる必要は特にないんだけど。流石にデカイ牛連れて街中で野宿とか目立ちすぎる。大部屋の方が安いんだけど、大部屋は駆け出しの冒険者向けの宿だから、冒険者でもない俺が入っていると浮いてしまう。


 だから牛と一緒に泊まれる宿で、一番安いところを探したらここだった。


 安宿とはいってもランク的には中くらいだ。可もなく不可もなくって感じ。


 ただ、俺の周囲の人達(主にメイド)があんまり安宿好きじゃないから、基本どこかに泊まるときには高級宿になりがちだ。俺たちの場合は馬車数台で移動することが多いから安宿じゃ入りきらないってこともあるし。


 そのせいで俺の金銭感覚おかしくなってる気がする。あと夕食届けに来ないことに驚いた。どうせ食べれないし、どうやって断ろうかと考えていたら夕食が別料金だったことを後で知った。


 そうだ、普通の宿ってご飯別料金なんだ……って。忘れてたよそれ。高級なとこだと色々サービスしてくれるからそれに慣れちゃうと普通の宿に泊まれないって人の気持ち、わかるかもしれない。


 とりあえず、街を歩いてやれること見つけるか。







 宿に牛を預けて街を探索する。


 この街は近くの山から採れる鉱石を使った装飾品が有名だ。


 俺は正直あまり興味ないけど、若いメイドの子達が話していたのを聞いたことがある。


 装飾品は贈り物に作られることが多く、プロポーズのために貯金してここの装飾品を贈ると言うのが流行っているらしい。指輪とかと思ったけど、伝統的にブローチなんだとか。


 なんでもここに伝わる昔話の一つに、戦争に行く若者に少女がブローチを贈るというものがあるらしく、そのブローチのおかげで矢傷を免れて生きて帰ることができたとかなんとか。


 ありがちだけど、わかりやすくて伝わり易い物語だよな。ドラマチックに演出できそうだ。


 そんなわけで街に並ぶお店の装飾品にもブローチはほぼ必ず置いてある。


 綺麗だけど、俺はよくわかんないなぁ……髪留めとかは使うから買うけど。体を強化できる付与がつけられるのならあってもいいかな、くらいだ。


 正直、装飾品とかでじわじわと身体能力をあげたりするよりスキルや補助魔法を使った方が楽だし早いんだよね。多少魔力に余裕があると無駄に使っちゃう。


「ん? ……これ……」


 適当に歩いていたら、小さな露店の置いてある品物に目がいった。


 20個ほど並んでいるものの中で三つだけ、異常に出来のいいものがある。


 他は普通なんだけど、その三つは際立って作りが細かい。


「えっと……どうですか? 今なら、お安くしますよ」


 ジロジロ見ていると露店商から話しかけられた。女性で、声がかなり若い。十代はじめの女の子くらいか?


「ああ、すみません急に。この三つ、製作者違いますよね?」

「わかるんですか?」

「多少は。この三つだけ、異様に出来が良いので」


 露店商は少し俯いてもじもじしている。照れているようだ。


「それ、兄の作ったやつなんです。兄は付与の魔法を使うのが苦手で……力の籠もったものは作れないんですけど、彫りの腕はいいんです。ただ、付与ができないので他の門下生にからかわれるばかりで」

「付与が苦手、ですか。それを引いても素晴らしい腕だとは思います。付与なんて正直魔力さえあれば誰でもできますけど、こんな細かな動きは魔法では出せない」


 半透明のペンダントを太陽に透かして見ると、その腕の良さがよくわかる。


 付与なんて俺でもできるし、俺は付与よりこっちの腕の方が大切だと思うけどね。


「あ、ありがとうございます……」


 商品の横を見るとかなりの安値で売られている。魔法の付与がないペンダントは確かに安い傾向にはあるけど、これは相当だな。そんなに売れないのか? こんなに腕はいいのに。


「じゃあこの三つ、買っていいですか?」

「えっ? 三つとも? 他にも付与されてるものはありますよ?」

「付与は自分でもできるので、大した魅力には感じないんです。こっちの方が俺は好きですよ」


 三つ分の値段を払った。ただ、なんか安すぎてこの子の兄にお金が行くのか不安なので、他の装飾品と同じ値段分×三つ分だ。


「お、多いですよ!?」

「他のやつと同じ値段ですよ。じゃあ、これで」


 アクセサリーなんて、無目的に買ったの初めてかもしれない……。

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