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吟遊詩人だけど情報屋始めました  作者: 龍木 光
異世界探索記録 三冊目
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三百十日目 やっと着きそう

 ユージンさんと話しつつ森の出口へと向かう。


 牛の背中に乗っているので結構密着してるけど、今の俺は痛み感じないからクッションとかもないし多分俺の体は硬い感触しかないと思う。すまんな、乗り心地悪くて。


「それにしても、角鬼族は初めてお会いしました。このままガーダに向かって大丈夫なんですか?」


 流石にこのまま隠さずに街に入ったら面倒ごとになる可能性がある。


 角鬼族や吸血鬼族とかの力のある種は誘拐とかされやすいし。実際、エルヴィンもその被害者だ。


「えっ?」

「え?」


 なぜかユージンさんが固まる。


「なんで角鬼って知って……?」

「いや、普通に額の角見えてますけど」

「見えてる? ……あっ! ない!」


 おでこを両手で触って確かめて絶叫している。


 何かで隠していたんだろう。バンダナとかかな。


「あの、大丈夫ですか?」

「パルキュイは、驚かないのか」

「なんというか……希少さとしては自分とそう大差ないので、そんなには。珍しいなぁ、くらいの感想です」

「案外ドライなんだな……でも、オートマタならそんなものか」


 普通、角鬼族が居たら何かしらのアクションを起こそうとするものだしな。捕まえて売るなり殺して角を折るなり色々と金になる。角鬼族の角はかなりの魔力が籠るらしいから、良い魔法具の素材になるんだ。


 神経通ってるらしいから折られたらめちゃくちゃ痛いそうだけど。


 あと、どうでも良いけど彼は俺のことをオートマタと勘違いしてくれているらしい。楽だしこのままその設定でいく。


 オートマタは意志を持った人型の機械を指す。人工生命体とはいえ古代文明でたくさん作られたらしく、まだ数は少ないものの稼働している機体もある。


 角鬼族と同じか、それ以上に希少だけどね。レア度としては吸血鬼の方が高いけど。


 吸血鬼族は俺が確認してる限り、純血はエルヴィンしかいない。エルヴィン自身もそうだと自覚してるから多分生き残りもほぼいないと思って良い。


 俺を加えて良いのかは不明だが、エルヴィンが最後の一人であることは99パーセント確定している事実だ。


 つまり、純血の吸血鬼はこれから先は生まれる事はない。エルヴィンが居なくなれば、本当の絶滅ということになるだろう。まぁ、数十年か数百年前だかの鬼族殺しブームの時にほぼ絶滅したと思われてるけど。


「でも、これじゃあ街に入れない……隠すための布を持ってきてたんだが」

「他に何か隠せるものは?」

「いや……すぐに薬だけ買って帰るつもりだったからお金しか」


 渡せるものは何かないかな……ハンカチじゃあ微妙に大きさ足りないし。


 カバンを漁ったら包帯が出てきた。完全に大怪我した人みたいになるけど、これ以上のものはない。なんか良い感じのオシャレグッズでもあればよかったんだけど。


「包帯ならありますよ。ただ、角の範囲隠そうと思うと結構巻く必要があるので、どう見ても重傷負ってる風の人になってしまいますが」

「仕方ない、それで行こう」


 これしかないなら、しょうがない。そう思ってユージンさんの頭に巻いてみた。


 ………。


 なんかやばい事して大怪我して命からがら逃げてるっぽい感じだ……。検問で捕まるんじゃないだろうか。


 俺が医者のフリして入ればマシかな。治療の為とかなんとか言って。ユージンさん自身、薬買いに来たらしいし、不自然すぎる事はないかな……。いや、不自然なのは不自然だけど。


「これ、大丈夫か?」

「……さぁ……」


 もうどうにもならない。臨機応変になんとかするしかない。








 大きな山の麓に、塀で囲まれた街が見える。


「ガーダに着きました。ここから先は歩いていきましょう」


 牛に荷物だけを乗せて徒歩で向かう。別にギリギリのところまで牛に乗っていても良いんだけど、急いでいる人って検問で色々聞かれやすいから、若干余裕ある感じを装ったほうが楽だったりする。


 歩いている時間が結構かかるから多少到着は遅れるが、素性を隠すならこの方法がベストだ。


 逆にこそっと入ろうとしたり、さっと通り抜けようと急ぐと質問攻めにあったりするから。


「そういえば、パルキュイはどうしてガーダに?」

「知り合いの様子を確認するために来たんです。少々音信不通になってしまったので、人族の大陸から」

「そんな遠くから!? 船とかはどうしたんだ。オートマタが簡単に大陸移動できないだろ」

「協力者が居たので、船の手配をしてもらいました。その関係で簡易的な身分証も発行してもらいました」


 本当、助かった。次また街に入るときにどうやって誤魔化すんだとパル君に言われ、言い淀んだら彼がくれた。


 簡易的な商人の登録札。一時的に国境を越えて商売するときに使用する期限付きの身分証明だ。


 普段商人としては働かないが、商人の知り合いなどに荷物の運搬を頼まれて運んでいる。みたいな状況の時に使われる。


 期限付きだからそれ以上の期間になる場合は何度も更新しなければならないという不便さはあるものの、商人として働く際の税金とかもほぼ無しで最低限の商人としての職を保証されるので、これを何度も更新して働く商人もいる。


 ただ、本当に更新が面倒だし、それ以外にも厄介ごとが色々あるので俺はちゃんとした免許持ってるけどね。税金はかかるけど、商売人としての待遇も悪くないし、それ以上に稼げてるから問題ない。


 ちなみにこの商人の登録札は俺の名前で推薦するという形で発行してある。


 何かあったらブラン・セドリック・エステレラが責任を取ります、ということが書かれている。この登録札は基本的にちゃんとした免許を持ってる人からの推薦がないと発行できない仕組みだ。自分の名前でやってしまって大丈夫なのかとも思ったが、パル君がうまく立ち回ってくれたおかげだ。


 多分他のメンバーには俺がこうやって自分自身に発行したとはバレていないだろう。


「簡易の登録札か……? ブラン? 推薦人の名前、聞いたことがあるな」

「あ、いや、気のせいでは? そう珍しい名前でもないでしょう」

「そうか? エステレラという事は星の名の一族だろう? その生き残りなら商人として大成していてもおかしくはないとは思うが」


 登録札を見せるべきじゃなかったか? いや、この後検問所でどうせ見られるだろうから関係ないか。


 それにしてもユージンさんはどこで俺の情報を得たんだろう? 鬼族のコミュニティーでもあるんだろうか。ちょっと気になる。

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